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筆とまなざし#151「鳳来・高難度ルートひしめく‟ハイカラ岩”へ ~後編~」

しばらく休んでから2回目のトライ。見上げると、ちょうど核心部に陽光が当たり眩しそう。しかし十分休んでストレッチをし、身体は登る準備ができていました。登り始めると、さっきほどの身体の軽さはなく、気温が上がったのか少しホールドが滑る感じがしました。右足がすっぽ抜けたポイントでまた足が切れてしまったけれどなんとか立て直し、少し消耗した身体で「ガンジャ」の終了点へクリップしました。ここからが「ガンジャエクステンション」の核心部。最初の数手が悪く、これまで落とされてきたポイントです。顔を上げると日差しが照りつけ、暑い。目を細めて核心ホールドを確認し、レスト体勢。とにかく荒い呼吸を整えようと深呼吸を繰り返しました。すると、思っていたよりもずいぶんと前腕の疲労が抜けていくのがわかりました。これならば、いつもここで落ち、再び登り始める状態と変わらないかもしれないと思えました。次の一手にこれまでのクライミング人生のすべてがかかっている。その一手にすべてを込めようと思いました。

ころ合いを見て「お願いします」とビレイヤーに一声。核心部に突入しました。大きな動きで左手を伸ばしました。止まった! 感触は悪くない。効きの悪いヒールフックに力を込めて右手のガストンピンチ。止まった! 足も外れていない。左手をガバスローパーへ出して右手をカチへ。この部分はボルト間隔が遠く、疲れた身体で突入したら怖いだろうなと思っていたけれど、そんな気持ちは一切ありませんでした。核心を越えてクリップ。その後の数手を慎重にこなし、身体に任せて登ると目の前に終了点がありました。終了点の岩の上に這い上がると突然視界が開け、いくつもの岩塊が林立する鳳来の谷を眼下に見渡すことができました。それはこれまで見たことのない、まったく新しい風景のように思えました。

中学生で初めてクライミングを体験し、高校時代は熱心に打ち込んでいました。しかしその後は絵を描くことにシフトし、再びまともに登るようになったのは10年間のブランクを経た9年前。意識もしていなかった5.13が登れたのは5年半前で、「ガンジャエクステンション」は自分にとって初めての5.14ルートとなりました。高校生のこっろから情熱を持って続けていればもっと早くに登れていたのかもしれません。5.14aといってもいまではさほど難しいグレードではないでしょう。

「クライミングを始めたのは早いけれど、自分はあまり登れない」。いつしか、そんなコンプレックスが自分のなかで大きくなっていることに気がつきました。「登れない」というよりも「情熱を持って本気で取り組んでいない」といったほうがいいのかもしれません。だから、クライミングに対してつねに自信がなかったのです。「ガンジャエクステンション」が登れたら少しは変われるかもしれない。そんなことを思いながら岩場へ通っていたのでした。

グレードにこだわりがあるわけではありません。けれど、自分にとって難しいルートであればあるほど、登りたいという情熱が大きくなるのです。

30代も後半になってしまったけれど、自分はあとどれだけ成長できるのか。そんなたのしみを胸に、また岩場へ通いたいと思います。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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