ウールと化繊、どちらが保温性が高いのか徹底比較!
PEAKS 編集部
- 2020年01月06日
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低体温症を防ぐには、ウエアの選択が大きな意味を持つ。水に濡れて風にさらされたとき、体温の低下を防いでくれるのはどんなウエアか? スタジオで濡らしたウエアに風を当て、検証してみた。
ウールと化繊を低体温症疑似体験で検証
その昔大学山岳部にいたころ、登山のウエアといえばウールが基本だった。ただそのころのウールは、肌触りはチクチクするし、洗うのも面倒くさい、というしろもので、決して使い勝手のいいものではなかった。
その後、化学繊維が急速に性能を上げ、アウトドアブランド各社から高性能の化繊のウエアが発売され、「登山のウエアはウールより化繊」の流れが確立された。
しかし近年、ウールが巻き返しを図る。メリノウールに代表される新世代のウールは、「洗濯機で洗える」「肌触りがチクチクしない」「長期間着用しても臭くならない」ということで、再び登山用ウエアとしての地位を確立したと言っていいだろう。
では、ウールと化繊、濡れて風に吹かれた場合、体温を奪わないのはどちらか? というのが今回の検証のテーマだ。
フリーのライターなんていい加減なもので、「化繊とウール」とくれば、ウールのほうが保温性が高いと試したこともないのに書いてしまう。だから今回も、ダントツの違いでウールに軍配が上がるだろうと思っていた。
①通常時の表面温度をサーモグラフィーでチェック
正面
うしろ
とりあえず、ウエアの保温性を比較する前に、ウエアを着ていない状態の状況をサーモグラフィーカメラでチェックした。
体の表面温度はおおむね30℃前後。うしろから見た頭の温度が低くなっているが、これは髪の毛が熱をさえぎっているためだと思われる。前後で比べてみると、正面よりうしろ側のほうが、全体的に温度が高くなっているが、その理由はよくわからない。
スパッツをはいている部分も、正面では温度が低くなっているが、うしろ側ではそれほど違いはない。
②水分を含ませたウエアを着用し、低体温症になりえる状況を疑似的につくる
正面
うしろ
検証の方法として、対象になるウエアを水につけてたっぷり水を染み込ませ、水がたれない程度に軽く絞って着用した。
さらに山で濡れたウエアを着て風にさらされた状態を再現するため、扇風機2台で風を送り続け、気化熱で体温が奪われる状態を作ってみた。
さらに付け加えるなら、できるだけ低温で検証すべく、スタジオの冷房をマックスの状態にして気温を低くした。検証したスタジオの気温は約18℃。はっきり言って、扇風機で風を受けるとかなり寒い!
じつを言うとこの検証、山のピークでも同じようなことをしてみた。そのため、わざわざ水を多めに持って行ってウエアを濡らしてみたのだが、風があまりなく思うような結果が出なかった。
メリノウールシャツに水分を含ませたときの変化は?
メリノウールを素材にした、薄手のラウンドネックシャツ。薄手ながら、高い保温性が特徴。薄手なので、水につけてもそれほど多くの水は含まない。肌に密着する分、気化熱がより奪われるように感じた。
ウエア実測値 131g
↓
水分吸収後 288g
↓
実験20分後 195g
直後
正面
うしろ
濡らしたメリノウールのシャツを着ると、当然ながら冷たく感じる。ただ、まだ風にあたっているわけではないので、気化熱によって熱が奪われる状態にはない。サーモグラフィーでも、上半身、とくに下の部分が20℃くらいとかなり低い温度になっている。
5分後
正面
うしろ
ウールの特徴は、水分を繊維の中心に蓄え、繊維の表面は乾いていること。そのため、濡れた状態で風を受けてもそれほど冷たく感じない。サーモグラフィーで見ると、低温の黒い部分が少し減っているようにみえる。上半身上部は体温で温まってきている。
10分後
正面
うしろ
10分経過すると、感覚的にはウエアの前面はかなり乾いてきているように感じる。ただサーモグラフィーで見ると、5分後の映像とあまり変化はない。正面・うしろ共、上半身の下部が冷たくなっているのは水分が下に移動しているためだと思われる。
20分後
正面
うしろ
ウエアにずっと風を当てていると、15分くらいで感覚的にはほとんど乾いているように思えてくる。重量を見ても、150gほど吸収した水分が100g弱気化しているのがわかる。ただ、サーモグラフィーの画像では10分後とそれほど変化はない。
化繊のシャツに水分を含ませたときの変化は?
ファストファッションブランドが出したスポーツウエアの長袖Tシャツ。秋から冬にかけて、トレイルランニングならこれ1枚で対応できる。素材はポリエステル100%。個人的に、冬山以外では使用頻度が高い。
ウエア実測値 168g
↓
水分吸収後 660g
↓
実験20分後 433g
直後
正面
うしろ
生地が厚いので、メリノウールのシャツに比べて4倍弱の水分を含んでいる。それでも、濡らした直後に着た感じはメリノウールほど冷たくない。サーモグラフィーでも、黒い部分がほとんどない。これはシャツがあまり肌に密着していないことが原因かもしれない。
5分後
正面
うしろ
水分が多いので、扇風機の風を受けて気化熱がどんどん奪われていく。サーモグラフィーで見ると、着た直後にはなかった黒い部分が広がっているのがわかる。ただ、布地が肌にピタッと密着していないせいか、感覚的にはそれほど冷たさを感じない。
10分後
正面
うしろ
さらに低温の黒い部分が広がっている。素材のポリエステルはウールと違って繊維自体が水を含むことはないので、水分は重力に従ってどんどん下のほうに移動する。このころになると、袖の先からポタポタと水が下に滴り始めていた。
20分後
正面
うしろ
サーモグラフィーの画像では、10分後とほとんど変わらず上半身に低温の黒い部分が広がっている。ただ実感としては、体の部分はほとんど乾いて、冷たさは感じなくなっている。腕の部分も乾き始めているが、袖先は水がたまって冷たくなっている。
結果
実際に試してみると、それほどの差はなかった。というか、実感としてはウールより化繊のほうが冷たく感じられなかった。その要因として、ウールのシャツが体に密着していたのに対し、化繊のシャツは緩めの作りで体に接触する部分が少なかった、ということもあるかもしれない。
いずれにせよ、優れた化繊とウールとでは、それほど保温性に差はない、ということは言えそうだ。そんなことから、冬山のウエアでもとくにウールにこだわる必要はない、と言えるだろう。
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文◉堀内一秀 Text by Kazuhide Horiuchi
写真◉柏木ゆり、後藤武久 Photo by Yuri Kashiwagi,Takehisa Goto
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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