『日本の川を旅する』『ユーコン漂流』|PICK UP BOOK
PEAKS 編集部
- 2020年08月21日
reviewer 高橋庄太郎
山岳/アウトドアライター。高校の山岳部で山歩きを始め、出版社勤務後にフリーランスに。『トレッキング実践学 改訂版』(小社刊)などの著書も多く、近年はイベントやテレビ出演も増えている
日本のアウトドア界への最大級の影響力!
野田さんがいたから、“いま”がある。
小誌『PEAKS』は、“山” の雑誌だ。それなのに、なぜ“川”の本? と思う方もいるだろう。それも1冊は1982年 発行、もう1冊は1998年発行という古い書物の復刻なのだから。
著者は、野田知佑氏。肩書は「カヌーイスト」で「作家」である。 野田さんの処女作が、『日本の川を旅する』。カヌーという移動手段で日本の川文化を紹介しつつ、 “川下り”という遊びの魅力を伝えた、アウトドア界の古典だ。
一方、北極圏に近いカナダ/アメリカの荒野を流れるユーコン川の旅を描いたのが、『ユーコン漂流』。当時のコアなアウトドア愛好者に強烈な影響を与えた。ちなみに、小誌にも寄稿しているライター麻生弘毅氏の著作『マッケンジー彷徨』のタイトルは、『ユーコン漂流』 のオマージュである。
野田さんはカヌーに載せられるだけの荷物を用意し、のんびりと川を下っていく。少し漕いではテントを張り、クマが出れば銃を撃って追い払い、夕食のために釣竿を振る。同行する相棒は愛犬のみの自由気ままな自然の旅だ。
フィールドは山ではなく川、使うのは足ではなく腕。そんな違いはあるが、「人力で自然のなかを移動する」姿は、山旅とも通じる。14 の河川をそれぞれ数日ずつかけて下った『日本の川を旅する』のスタイルは、“テント泊縦走” に近い。それに対し、計3000㎞を3回(3年)に分けて下った 『ユーコン漂流』は、数年かけて海外の“ロングトレイル”をセクションハイクを重ねて歩く姿と似ている。山好きの人、とくに長期山行に興味がある人は、この世界観にハマらないはずがない。
小誌の読者にはいうまでもなく、 アウトドアへの興味が深まると、さらなる刺激や知識を書物から得ようとするのは自然の流れだ。これらの本が発行された時代はとくに顕著で、そのころに青年時代を送った僕のような男は、野田さんの本にモロに感化された。
野田さんが描く川の旅は、あまりにも自由でカッコよかった。「男のロマン」という言葉は恥ずかしいほど陳腐なのに、そう表現せざるを得ないほどひとつの“美学”が完成されていた。少しでも野田さんのように生きたい。僕がアウトドア系ライターになろうと思ったのは、野田さんという巨人の存在があったからだ。
僕だけではない。日本のアウトドア界で活動する人のなかにはいかに野田さんの影響を受けている人が多いことか。名前を出すのは控えるが、あの著名山岳ガイド、あの有名ショップのオーナー、あの人気メーカーの創設者、あの実力派写真家が、「野田さんの本を読んでいなければ、いまの仕事をしていないだろう」などというこ とを口にしている。
つまり野田さんは、現代日本アウトドア界の“源”なのである。 国内最大級のアウトドアメーカーのモンベルがこの2冊を復刻したというのも、なにかの象徴だ。「日本アウトドア界の生けるレジェンド、珠玉の作品。その神髄に触れれば、あなたのアウトドア生活は劇的に変わるかもしれない。
日本の川を旅する/ユーコン漂流
- 野田知佑 著
- 各¥1,200
- モンベル ブックス
1982 年に単行本として発売された『日本の川を旅する』は、日本ノンフィクション賞新人賞を受賞。釧路川や四万十川など日本を代表する河川をカヌーで下った旅の模様が収められている。『ユーコン漂流』は1998 年発行のカナダユーコン準州から流れるユーコン川をベーリング海まで下った旅の記録。ともにアウトドア系書物の名作だ。
- BRAND :
- PEAKS
- CREDIT :
-
文◉高橋庄太郎
Text by Syotaro Takahashi
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。