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『失われた、自然を読む力』|PICK UP BOOK

reviewer 鈴木アキラ

自分のなかの動物としての性能や実力が日々低下するのを危惧する毎日。といいつつ、この原稿もパソコンで書いている。著書に「アウトドアで活躍! ナイフ・ナタ ・斧の使い方」(山と渓谷社)ほか、多数

野外に存在する手がかりを使って
方角を知り、道を見つけ、天気を予測する。
自然への感覚と思考を養うための指南書。

朝と夕方の時間帯に、人の行き来が多い方向に行けば、たいてい駅がある」という事例は多く人が知っていると思うが、じつはこれは「街の人の動きを見て、経験値から状況判断をし、推理している」ことにほかならない。

しかし、これが自然のなかに存在する情報を読むことになると、とたんに考えが及ばなくなるのはなぜだろうか。周囲の状況を読み解くということに関しては、まったく同じハズなのに。かく言う僕も観天望気すら、きちんとできない。本書のタイトルが「失われた」という語ではじまるのも、ほとんどの人がそういう現状だからだ。

人と自然は情けないほどにかけ離れてしまっているのである。観天望気の本や、植生から方角を読むサバイバル系の本が多数あるなかで、本書がとてもユニークなのは、コンパスやGPSに頼らない方位測定や位置計測のための知識、地形の読み方、動物の追跡方法など、日本のマタギやオーストラリアのアボリジニなどに伝えられているような自然界における知識や技術だけでなく、文頭のような街や人工物のなかの情報を読む方法まで書かれている点だ。

「ソーラーパネルのほとんどは南を向いて設置されている」なども、そのひとつである。本書でとても参考になるのはとくに付録の部分で、そのなかでも自分の体を使ってさまざまなものを計測する方法がおもしろい。「腕を前に伸ばした状態で握りこぶし1個分の角度は約10度で、9個分上に重ねると90度(真上)になる」というようなことだ(でも、僕は手が非常にデカイので、この数値には当てはまらず、6個分で90度になってしまう。

つまり僕の握りこぶしの幅は約15度だということだ)。このように自分の体をスケールにする方法は覚えておくと役に立つ。本書では書かれていないが「自分の手が一握りでどの程度の量のお米をつかめるか、何回つかめば1合になるか」というようなことも、お米の国の人なら覚えておくといいだろう。これを覚えておけば山にわざわざ計量カップを持っていく必要がなくなる。

また、本書では「卓越風」という表現が頻繁に使われている。卓越風は「その地域、その季節に吹く一定方角からの風」ということで、これは方角を知るためのひとつの指針としているのだが、じつは僕にもその経験があったことを思い出した。小学生のころ、猛吹雪のなかの集団下校で、下級生を連れて自分の集落に帰る際、「除雪車がよけた雪の盛り上がりに沿って、右45度前方から風が来るように歩いていればホワイトアウト状態でも家に帰れる」という事例である。

違う集落に帰るリーダーは「吹雪に向かってまっすぐ進む」と念じながら歩いていたかもしれない。田舎の子どもたちは自然現象を知らず知らずのうちに、ちゃんとコンパスとして使いこなしていたのである。大切なのは「しっかり観察して推理する」ということだ。自然のなかの知識や知恵も、興味のある分野から一つひとつ増やしていけばいいのではないだろうか。

失われた、自然を読む力

  • トリスタン・グーリー 著 田淵健太 訳
  • ¥2,400
  • エイアンドエフブック

自然を観察して得た手がかりから推理し、自分の位置を知り、行くべきルートを捉え、 訪れる危機を把握する。アウトドアマンに必要な知識が満載。徒歩旅行の達人が教え る、歩く人のための最高のガイドブック。アメリカのサンデー・タイムズ紙、タイムズ紙、グレート・アウトドアーズ誌でも絶賛の一冊。

「失われた、自然を読む力」をAmazon.co.jpで見る

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PEAKS 編集部

PEAKS 編集部

装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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