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ハイカーズデポ土屋さんに聞いた!ロングトレイルってそもそもなに?

「日本に本当のロングトレイルなんてあるの?」なんて声も耳にするが、ロングトレイルの基準は明確ではない。そこで、日本のロングトレイル文化を支えるひとり、ハイカーズデポの土屋さんに話を聞いた。

語り◉土屋智哉 Text by Tomoyoshi Tsuchiya
イラスト◉上坂じゅり子 Illustration by Juriko Kosaka
出典◉PEAKS 2019年10月号 No.119

専門店に聞いてみました。

【ロングトレイル】マサチューセッツ州からカナダまで続き、バーモント州最高峰・マンスフィールドを通る。全長438㎞。

「ロングトレイル」という言葉はいつできたんですか?

アメリカ・バーモント州には北米最古の長距離ハイキング用のトレイルがあります。その名も「ロングトレイル」。ロングトレイルというのは本来固有名詞なのです。

アパラチアントレイル(AT)のトレイルシステムを作るにあたって、その雛形となった「ロングトレイル」は全米の長距離トレイルの原点ともいえます。こうした長距離トレイルを歩く行為をロングトレイルと呼ぶようになったのは、この歴史的背景と無縁ではないでしょう。

現在ではこのバーモント州のロングトレイルとの混同を防ぐため、長距離トレイルという「場所」については「ロングディスタンストレイル」、長距離トレイルを歩く「行為」については「ロングハイク」「ロングディスタンスハイク」と表すことが北米では一般的です。

日本では加藤則芳さんが、北米の長距離トレイルを歩く行為や文化を総称してロングトレイルという言葉を使ってきました。

実際にジョン・ミューア・トレイル(JMT)やATを歩き、国立公園にも詳しい加藤さんは、前述した北米におけるロングトレイルという言葉の違いや背景をわかっていたと思いますが、長い距離を歩いて旅をする行為やその文化を日本に紹介するにあたって、あえて「ロングトレイル」という言葉を使ったのではないかと思います。

【加藤則芳】1949 年生まれ。ジョン・ミューアの活動を研究しロングトレイル文化を日本に伝えた。2013年逝去。

また、長距離の道を歩いて旅する文化は世界各地にあります。サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路しかり、ヒマラヤのトレッキングルートしかり、イギリスのフットパスやフランスのグランドランドネなどもそうですね。日本のお遍路もそうした範疇に含まれるでしょう。

こうした歩き旅の文化は各地でさまざまな呼称で呼ばれ、共通する点が多く見受けられます。その共通点を押さえておくことは、ロングトレイルを理解するために意味があることです。そしてそのうえでロングトレイルやロングハイクという言葉を使うならば、それはまず北米の文化を基盤とすべきだと思います。

さらにそれを咀嚼、消化していくことで、はじめて日本語に置き換えられるのではないでしょうか。本稿では少しでもその理由を感じ取ってもらえればと思います。

【サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路】フランスのピレネー山脈を経て、聖ヤコブの遺骸があるとされるスペインの教会へ続く道。

縦走登山とはなにが違うのですか?

しばしば、山頂を目指すのが登山、目指さないのがロングトレイル、という二分化の議論を聞いたりしますが、北米東海岸のロングトレイルの多くは山頂を細かく経由します。ATしかり、バーモント州のロングトレイルしかりです。

ヨーロッパアルピニズムを源流とする初期の日本登山文化の価値観では、主に山頂到達が目的として重視されてきました。アメリカのアウトドアを源流とするハイキングの価値観では、山頂は数多くある目的のひとつでしかない。ピークハント以外に目的を設けるというその選択の自由さが、日本における登山との違いといえるでしょう。

人類史的な到達点に重きを置いてきた前者の価値観と、個人的な旅や内省、自由さに重きを置く後者の価値観との差が、日本の縦走登山との違いともいえるのではないかと思います。

【ヒマラヤのトレッキングルート】エベレスト街道やアンナプルナサーキットなど、最高峰級の山々を見渡せる。

また、ロングトレイルとはいうものの、すべてが登山道、自然歩道なわけではありません。海外のトレイルでは登山道、自然歩道だけではなく、未舗装林道はもちろん、舗装路も含めてあらゆる道を繋いでいます。

当然ハイカーは登山道や自然歩道を歩きたいはずです。しかし、それだけでは長く繋げないことも知っています。トレイルランニングレースのコース設定で、登山道だけでなく林道や舗装路を上手に絡めながら魅力あるコースを作っていたり、100マイルを超える長距離コースとして繋げたりしているのと同じです。

ある意味、登山道や自然歩道の比率を上げつつも、いかに林道や舗装路をアクセントとして上手に組み合わせられているのかも、魅力あるロングトレイルとなる要素のひとつでしょう。

【お遍路】弘法大師(空海)ゆかりの寺院をめぐる四国の巡礼路。文化庁日本遺産に指定。多くの観光客が訪れる、およそ40日の道のり。

ルート設定や道の状況における登山との大きな違いは、このふたつではないでしょうか。言い換えれば、山頂と登山道という制約から離れれば、もっと自由で長い歩き旅をすることができるのです。

どのくらい長ければロングトレイルなのですか?

ロングトレイルやロングハイクというと「ロングってどれくらい?」という質問を耳にします。
距離なのか、期間なのか、いまのところ明確な定義はありません。

そこで注目すべきは、前述した世界各地の歩き旅文化における共通点です。ひと言でいうならば「補給を必要とする長さ」というのがひとつの目安といえます。

2010年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)をスルーハイクした長谷川晋の著作『LONGDISTANCE HIKING(ロングディスタンスハイキング)』で提案していますが、補給をするからこそ長い旅になり、補給のために人の生活圏に下りるからこそ、その土地の文化に触れる機会が生まれます。補給を必要とするほど長く歩けば、ロングトレイルを歩いたと言えるでしょう。

【ハイキング】基本的にアメリカでは山歩き全般を指す。手を使わずに登れるものが該当。その目的地は湖や草原などさまざま。

しかし、日本でロングトレイルの長さを議論すると、必ずといっていいほど悩ましい問題に直面します。それが「日本ではそんなに長く休みがとれない」というもの。

そのため日本国内のコースでは、ロングとはいえない距離のトレイルもロングトレイルと称する現実があります。もちろん整備におけるさまざまな問題もあるのでしょう。しかし、それにしてもどうにかして距離に関係なくロングトレイルと言いたい風潮を感じます。

それでは本末転倒です。やはりロングトレイルと謳うならば、それなりに長くあるべきなのです。もしくは長くすることを目指すべきです。それがロングトレイルたる基盤だと思っています。

【ロングディスタンスハイキング】実際の経験にもとづく、リアルな情報を綴ったロングトレイルの書籍。トレイルズにて販売。 https://thetrailsmag.com/store/

ただ、北米やヨーロッパでも、ロングトレイルを歩くすべての人が全線を歩いているわけではありません。スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路でも数多くのハイカーが歩いていますが、そのなかで全線を歩いている人はほんのひと握りでしょう。

アメリカでもPCTでのハイキングを楽しむハイカーは年間数十万人に上りますが、そのなかでワンシーズンに全線踏破をするスルーハイカーは、ほんの10年前まで100人程度だったのです。

日本人は真面目なのでロングトレイルというと全部を歩かなければならないと思うのか、はたまた歩かないと意味がないと感じているのかもしれませんが、ロングトレイルにおいて大事なのは全部を通しで歩くことではありません。

長い距離のトレイルが存在するという事実に意義があるのです。スルーハイクのみがロングトレイルを歩くということであれば、セクションハイクという概念さえも生まれません。

【北米ロングトレイルでの補給】スルーハイカーでも数日に一度は町に下りて補給を行なう。人との出会いや装備の組み方に関わる、ロングトレイルカルチャーの重要な要素。

ハイカーが歩こうと思えば、数百キロ、数千キロにわたる旅ができる。そこに夢があります。そしていつか歩きたいという夢も生まれます。
夢があればそのトレイルを大切にするでしょうし、トレイルを歩くハイカーにも好意が湧くでしょう。

同じトレイルを歩いている知らないハイカー同士にも連帯感が生まれ、それは他所から来たハイカーだけでなく、地元の人にも同じような想いを抱かせるのではないでしょうか。

もし、いつもいっしょにハイキングする子どもへ「このトレイルが遥か彼方の街まで続いているんだよ」と聞かせたとします。その子どもはいつか歩いて向こうの街へ行くんだ、と夢みるかもしれません。

そういう想いが、地元に根付き、愛され、次世代に引き継がれる、ということだと私は考えています。そのためにはある程度距離は長くあることが大事なのです。

【スルーハイカー】無雪期のワンシーズンでトレイルの始点から終点を踏破するハイカー。経験に沿った軽量化だけでなく、体力も必要となる。

そうした背景があるからこそ、北米ではトレイルを歩き終えたハイカーや地元の人々がハイカーをサポートする、トレイルエンジェルやトレイルマジックという文化が自然発生するのです。

ハイカーが補給のために立ち寄るトレイルタウンやハイカー同士が助け合うハイカーコミニティが生まれた理由は、このような背景も影響しています。
地域の文化に触れること、地域振興に繋がることは、あくまで結果論にすぎません。

補給という行為を必要とするなかで、さまざまな人の好意に触れるからその土地に興味をもつのです。まずは夢を描ける長い道があること。そしてデイハイクでも1泊2日でもかまわないので、そんなロングトレイルの一部を歩き、ロマンを感じられることが大切だと思います。

必ずしも全部を歩く必要はありません。しかし、その道が長く続いていることには大きな意味があるのです。

日本のロングトレイルのこれからは?

日本における登山文化はヨーロッパアルピニズムを基盤としています。それは100年以上にわたり積み上げてきたもので、その価値観はこれからも大事にすべきでしょう。それに対してアメリカのアウトドアに端を発するバックパッキングやハイキングは、’70年代に日本で紹介された後発文化です。

【トレイルマジック】ハイク中の幸運なできごと。トレイルエンジェルとの出会いもその一部。

’90年代後半に加藤則芳さんがロングトレイルを紹介し、’00年代後半にはロングトレイル文化から生まれたウルトラライトが市場に広がりました。折に触れトピックスが輸入されてはきたものの、その歴史はたかだか50年ほどにすぎません。

ロングトレイルやハイキングという価値観が、登山と並ぶもうひとつの価値観として浸透するには、まだまだ時間が必要なのだと思います。
日本でもここ10年ほどの間に、各自治体がロングトレイルを整備するようになりました。

しかし地域振興や観光振興を主目的として整備しているものも多く見られ、それらはどうしてもハイカー目線のものからはほど遠いトレイルのように感じます。先に述べたように地域振興は目的ではなく副次的な結果です。

北米でもいまのカルチャーに育つまでに数十年を要しています。魅力ある長いトレイルを整備した結果、ハイカーがそこに集まり、周辺の町に活気がもたらされたにすぎません。

あくまで結果にすぎない地域振興を先に掲げたこと、歩くおもしろさよりも経済効果を優先させた結果、歩き旅に興味を抱くハイカーや登山者にチグハグな思いを抱かせるコースが多くなった気がします。

しかし時代は動いています。どういう形であれ、数多くの国内ロングトレイルが生まれたことは事実です。ただ、それは魅力あるものにならなければ歩かれず、淘汰されていきます。

【ウルトラライト】アメリカで起こったハイキングのための軽量化ムーブメント。軽さを追求するだけでなく、「自然回帰」への側面ももつ。

これからはいかに歩いてもらえるか、いかに魅力あるトレイルに再編集していけるか、という次の段階に入ったと考えるべきでしょう。

近年生まれた全国各地のトレイルだけでなく、環境庁が整備したあとに活用されず、一部荒廃が進んでいる長距離自然歩道も、今年50周年の節目を迎え、そろそろ再生されるべき時期がきていると思います。

10年前、北米のトレイルカルチャーに触れた人は数えるほどしかいませんでした。それがいまでは確実に増えています。ユーザー目線の成熟はなによりの刺激です。

海外を経験したハイカーが運営側に関わる事例もでてきました。ようやく歩く側の目線が導入されはじめたのです。ハイカー、ハイキング、トレイルという言葉が、日本でも再発見・再評価されて10年が経ちます。

日本におけるロングトレイルという歩き旅の文化は、だれかに与えられるものではなく、興味を抱いて歩く一人ひとりが、これから作っていくものだと思います。まだまだ未熟だからこそのおもしろさや、自由さが、ロングトレイルとロングハイクにはあるのです。

土屋智哉

東京の三鷹にあるウルトラライトハイキング専門店「ハイカーズデポ」店主。ロングトレイルに関して文化・道具を含む幅広い領域に造詣が深く、全国各地よりアドバイスを求めるハイカーが訪れる。所属スタッフも知識豊富。

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