ハードシェルパンツは縁の下の力持ち?
PEAKS 編集部
- 2020年10月30日
文◉吉澤英晃 Text by Hideaki Yoshizawa
イラスト◉田中 斉 Illustlation by Hitoshi Tanaka
出典◉PEAKS 2019年11月号 No.12
雪山登山の花形的ウエアといえば、ハードシェルジャケットと答える人は多いはず。目立つアイテムなので、山中で登山者とすれ違うときなど、どこのメーカーを着ているのか、ついつい上半身を確認してしまう。
そういう服はこだわりも強くなるもので、新調するときは穴が開くまでカタログを眺め、幾度となくお店へ足を運んでは試着を繰り返して吟味していることだろう。
そんなスター選手的なジャケットの下で、影が薄い存在がハードシェルパンツだ。
実際、ほかの登山者が履いているパンツを興味深く確認したことは、ほとんどない。
色合いはブラックやグレーが多く、形状も似たようなものばかりなので、あれがほしいとか、これがほしいとか、メーカーやモデルによって悩む機会も少なく、購入時の決定打は、サイズが合うか合わないかになることが多い。
しかし、目立つジャケットよりもはるかに重要なウエアこそ、慎ましく身を潜めているハードシェルパンツではないだろうか。ジャケットは暑ければ脱いだりするが、パンツは一度着てしまえば山行中に脱ぐことはなく、深雪や湿雪から絶えず下半身を守り続け、鋭利なギアからのダメージにも文句を言わず耐えている。そんな縁の下の力持ちに今回は注目してみよう。
カラーはさておき、形状はふたつに大別できる。一般的なパンツタイプか、ビブタイプかだ。パンツタイプはさておき、ビブタイプはなじみの薄い人が多いだろう。かくいう自分も履いたことがないので、正直メリットがわからない。ここはビブタイプを愛用している道具にも詳しい知人に聞いてみた。
「スキーで滑ってコケたときに、お尻や背中から雪が入らないのがいいね。パンツがずり落ちることがなくて、背中が出ないのもメリットかな」。
なるほど、ビブタイプがバックカントリー向けのモデルに多いことに合点がいく。「腰より上の素材は、ゴアテックスからメッシュのものまでさまざま。ビブが取り外せるものもある。各社工夫しているポイントだね」。
滑りメインの人は、ビブの作りに着目して選ぶといいようだ。でも、ビブタイプはやはりトイレに行きづらいのだとか。これが最大のネックであることは間違いない。
内側の作りを見てみると、インナーゲイターの有無で差異がある。
インナーゲイターがあれば靴の中に雪が入らないので、単体のゲイターは不要と思う人もいるはずだが、これは半分正解で半分間違いだと感じている。
トレースがバッチリついている人気エリアや、踝程度のラッセルですむような山域ならインナーゲイターだけでも十分だが、胸より高い深雪に阻まれて全身ラッセルを強いられるような状況下では、やはりゲイターはマストアイテム。
雪のなかでもがいて高価なパンツをクランポンの歯で破く心配も少なくなる。そのため個人的な意見としては、あったらうれしいけど、なくてもいい、といった感じだ。
最後に太腿の外側に目を向けてみよう。ベンチレーションになるサイドファスナーを備えているモデルが多く、なかにはフルオープンタイプのものもある。じつはこのフルオープンが謎だった。
メーカーのカタログなどには、〝クランポンやスキーを履いたまま着脱できる〞〝天候に合せてレイヤリングを調整できる〞などと書かれているが、山行中にパンツを脱ごうと思ったことは一度もない。
所属している山岳会のメンバーに尋ねてみても、テントの中で脱ぐ人はいたが、行動中は履きっぱなしの人がほとんど。知り合いの登山ガイドに聞いてみても「脱ぐことはないね。昔は一度履いたら二度と脱ぐなと教わったよ」と言う。
ここは道具に精通している登山用具専門店のスタッフに謎を説いてもらおう。
「たとえば厳冬期の八ヶ岳・赤岳を目指すような場合、雪が少ない美濃戸口から赤岳山荘まではトレッキングパンツで歩き、山深くなる赤岳山荘から先は靴を脱がずにハードシェルパンツを履いてから歩き出す、といった使い方にオススメです」とのこと。
たしかに、出発時は雪が少ない登山道は数多くある。柔軟に考えればフルオープンタイプの活用シーンは意外と身近にあるのかもしれない。
あれこれ考え始めると、ハードシェルパンツにもこだわりが持てそうだ。パンツも厳選してあげれば、快適な登山を提供してくれるはず。さまざまなモデルを見比べて、ベストな一着を手に入れよう。
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文◉吉澤英晃 Text by Hideaki Yoshizawa
イラスト◉田中 斉 Illustlation by Hitoshi Tanaka
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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