冬の安達太良山でてんこ盛り登山!
PEAKS 編集部
- 2020年12月11日
寒いのキライ。そんな自分を変えたくて肉体改造に励んだ一年。冬山登山時の寒さ対策に代謝アップは果たして有効なのか? それをオノレの体で検証するため、福島県の安達太良山へ向かったものの……。
文◉櫻井 卓 Text by Takashi Sakurai
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
出典◉PEAKS 2020年2月号 No.123
絶景×温泉×禁断の激辛鍋
冬山に強くなるにはどうすればいいのか?
冬でもTシャツという、もはや暑苦しいんだか寒そうなんだかわからない人にちょっと憧れがある。
かくいうワタシは、小さなころから寒いのが大の苦手。かつてコタツに頭から潜り込んだまま眠り込み、脱水症状で救急搬送されるという恥ずかしい事件を起こしたこともある。
そんな人間なわけだから、冬山はあまり得意じゃなかった。もちろん雪化粧をした山の美しさは十分にわかってはいるのだけど、現場ではもうひたすらに寒いのだ。
小屋のコタツから出たくないのだ。
そこで考えた。どうすれば寒さに強くなれるのか。
いろいろ調べてみると、どうやら基礎代謝を上げることが、冷え症対策への近道らしい。
人間の体はとくに運動をしなくても、ある一定量のカロリーを消費する。これが基礎代謝で、人それぞれ差がある。この基礎代謝を上げることで得られるメリットは、大きくふたつ。
ひとつめは体温が上がりやすくなり、血行が良くなる。ふたつめは、脂肪を効率的に燃料として使うため、太りにくくなる。近年、お腹周りのゆるふわ感が著しいワタシとしては、2番目のメリットも強烈に魅力的だ。
ほかにも、肩こりの予防に繋がったりもするし、風邪もひきにくくなる。さらには若返り効果もあるらしい。なんだか代謝アップは万能感があるのだ。
と、いうわけでこの1年間は結構まじめにランニングをしてみた。
週にだいたい15~20㎞。その結果、冬でもTシャツ、パンイチで熟睡できる代謝アップボディへと変貌。基礎代謝の数値も、平均を大幅に上回ることに成功したのだ。顔のパンパンさが変わらんのが、ちょっと不満だけども。
そして、待ちに待った実地実験のときが来た。寒さに強くなったかの検証だから、行き先は寒ければ寒いほどいい。でも万が一相変わらず寒さに弱かったら怖いから、日帰りできるところ。緊急避難場所として営業している小屋もほしい。
そんなこんなの条件を挙げていった結果、目的地は安達太良山に決定。なんでも先日行った友人から聞いたところによると、頂上付近は風ビュービューで「かなり暖かい装備で行くべし」とのこと。
「もしやバテました?」(アベちゃん)「ばか者、瞑想中なのじゃ」(オノレ)
こりゃ期待できそうだ。同行者は稜線に出るまでは、樹林帯のなかをハイクアップ。今年は雪が少ないとはいえ、ヒザくらいまでのプチラッセルが続く。ワカンやスノーシューがあると、もっと快適に登れるかも。
編集のアベちゃんと、カメラマンのウサミくん。この日のために研究した秘密兵器もバックパックに忍ばせて、意気揚々と安達太良山の登山口であるあだたら高原スキー場に向かった。
代謝アップボディを試しに12月の安達太良山へ
ところが、である。なんだか暖かいのだ。
「わたし、晴れ女なんですよ~」
とアベちゃんが朗らかに言うけど、こちらとしては内心舌打ちだ。まあ、稜線に出たらようすも変わるはず。いまに見ていろ、晴れ女。
登山道に入ってしばらくはしっかりトレースが付いていて歩きやすい。例年に比べるとだいぶ雪が少ないようだ。温暖化め、こっちは寒さを求めて来ているのに。
歩くこと1時間半。勢至平に着くと、そこは一面の雪景色。代謝アップボディに変化したせいか、足先までポッカポカ状態を保っている。いまのところ良い感じだ。
ここから先はトレースがほとんどないため、膝くらいまで埋まるプチラッセル。アベちゃんが「私、ラッセル好きなんです!」と奇特なことを言う。
「だれも歩いてない雪を踏みしめるのって、なんだか快感じゃありません?」と、きれいなんだか嗜虐的なんだか、よくわからんことを言いながら、ときおりももまで埋まりつつも、ガシガシ進んで行く。
愚か者め。コチラは代謝アップボディなのだ。そんなアホみたいにワシワシ進んだら、あっという間に汗だくだ。冬山には汗冷えという恐ろしい魔物が住んでいる。
自分のペースを守りながら、汗をかかないようにゆっくりと進む。
自分の心拍数と、歩調を意識しながら歩くのは、どこか瞑想的で好ましい。雪に覆われた山には、独特の静けさがある。夏山の豊かな賑やかさも良いけれど、やはり冬山の持つ、どこか緊張感のある美しさも魅力的だ。
「ごめんなさい、櫻井さん。ちょっとペース速すぎましたか?」
体育会系ワシワシラッセル娘が、息を弾ませながらのたまう。
馬鹿者。こちらはオノレの肉体、そして精神と向き合っておるのだ。
あーあー、そんなに汗かいちゃって。大丈夫かね。
あくまでもオノレのペースを守りながらゆっくりと進む。ここまでは寒さはまったく感じないし、汗もかいていない。良い感じだ。
「あっ!乳首が見えてますよ」
アベちゃんのそのひと言にぎょっとする。代謝アップボディ化したからといって、別に脱ぎ癖が付いたワケじゃない。顔を上げると、その先に見えるのは安達太良山の頂上。
通称、乳首。数々の登山者のブログなどによって、イジリ倒された乳首だけど、この日はうっすらと雪化粧をしていて、とてもお上品なお姿。今日はあの乳首の頭まで行って、くろがね小屋に立ち寄って下山する予定だ。ちょっと待っててね、乳首。
勢至平から約1時間で、峰ノ辻に出る。空はすっきり晴れ渡っていて、遠くには蔵王山も見える。
そこから少し上がると、雪に覆われた爆裂火口が現れる。そこかしこに、夏場とはまったく違った風景が広がっている。
安達太良山といえば、このあたりから爆風が吹くことが多いのだけど、この日はいたって平穏。いたるところにある、まるで真っ白なサンゴのような岩は、いわゆる樹氷の岩バージョン。どれもこれも個性的で、目を楽しませてくれる。雪が風の影響で、まるでさざ波のようになった、美しいシュカブラもいたるところにある。
自称、熱しやすく冷めやすいオンナ、アベちゃんは休憩のたびに着たり脱いだりを繰り返している。こちらはオノレのペースをしっかり守った結果、必要以上に暑くなったりしないので脱ぎ着はかぎりなく少なく済む。ふっふっふ。
ふと隣に目をやると、カメラマンのウサミ君は、もはやウールのインナー一丁になっている。
え? やだ、なんなのこの人。
「最近、結構筋トレとかしてて。そのせいかやけに暑いんですよね」
それにしたって、真冬の山でインナー一丁はちょっとほら、ドレスコード的にアレじゃない? というか、もしかして彼こそが代謝アップパーフェクトボディの持ち主なの?
雪の白と火山岩の黒そして蒼い空の絶妙なブレンド感。
「え? 櫻井さん、そんなに着てたんですか?」と横からアベちゃんの声。彼女も薄手のフリース一丁という姿に変貌している。
え? ちょっとなんなのよ、このふたり。
「スクワットとかですけどね。あとは階段ダッシュとか、学生のようなことしてますよ」
「うーん。アタシはとくに定期的には運動してないですけど、素潜りには結構行ってますからね」
恐るべし、肉体的エリート。ワタシが1年かけて築き上げてきた代謝アップボディなど、彼らにとっては日常でしかないのだ。
頂上に立つと、そのモヤモヤ感を吹き飛ばすほどのみごとな景色が広がっていた。スノーモンスターで有名な西吾妻山。三角に尖った磐梯山の姿も見える。
西側を見ると、飯豊連峰もうっすらと望める。いつか、代謝アップボディで厳冬期に挑んでみたい山だ。
くろがね小屋で温泉×激辛鍋コンボ
鷹の爪で代謝ブースト
ちょっとやだ納豆臭やばめ?
山頂の景色を心ゆくまで満喫したあとは、広々とした雪原を抜けて、くろがね小屋へ向かう。くろがね小屋といえば、源泉かけ流しの温泉があることで有名で、日帰り入浴もOK。しかも年中無休。
泉質は酸性泉で冷え症などにも効くという、代謝アップ登山の聖地的場所なのだ。
到着後、すぐさま温泉をいただき、ほっかほかになった状態で、いよいよ冒頭の秘密兵器の出番。
この日の昼食に用意したのは「激辛キムチ納豆鍋」。作り方はいたって簡単。キムチ鍋の素に、キムチと豚肉を入れて軽く煮込み、最後に納豆をドスンと投入すれば完成。キムチに入っている唐辛子にはカプサイシンという成分が入っていて、これは代謝を高めて脂肪を燃焼する効果がある。
ニンニクには、アリシンという代謝アップ成分と、アホエンという血液の汚れを取る成分がある。豚肉は糖質の代謝に欠かせないビタミンB1がたっぷり。そして納豆に含まれるナットウキナーゼにも血液浄化作用がある。
とにかく代謝向上に繋がりそうな食材をこれでもかと放り込んだ、名付けて「代謝アップ鍋」。見た目はちょっとアレだけど、お味のほうはなかなかのもので、納豆の旨味成分がパンチを効かせてくれるし、キムチとの旨辛ハーモニーを奏でるのだ。
代謝も良いけど純粋に気持ち良し
もちろん、食べたあとは全身ぽっかぽか。ただし! そのオイニーもかなりのパンチ力なので、納豆嫌いがいないか確認してから調理しないと、だいぶ迷惑なことになるので要注意。さらにいえば、食後の鍋は当然、キムチ納豆臭に支配されるので、間違っても縦走時の初日に作ったりしないように。
食後のコーヒーをすすっていると、横でカメラマンのウサミくんと小屋番さんが談笑している。
「今日はタンクトップじゃないんだねえ~(笑)」
「さすがに、それはちょっと」
どういうこと?
聞けばウサミくんは秋に安達太良を登ったときには、セクシースケスケタンクトップで来たらしく、そのときのインパクトがハンパなかったらしい。はにかんだ笑みを浮かべるウサミくんは相変わらずインナー一丁。
しかもいまや腕まくりまでしている。憧れの、冬でもTシャツ男は、すぐそこにいた。
ワタシはといえば、中綿ジャケットを羽織り、ストーブ前に鎮座。極度の寒がりから、ただの寒がりな人になっただけだった。
森林ラッセル、極楽稜線、温泉付き。安達太良山1DAYフルコース
日帰りでも満足度の高い、おすすめ安達太良ルート。体力・時間に余裕があれば薬師山頂経由のループにするのもいい。
❶スキー場、向かって右側に登山口がある。冬期は遊歩道は立ち入り禁止なので馬車道か旧道で。
❷勢至平の分岐。ここをまっすぐ行けば、先にくろがね小屋を経由するルート。今回は左に。
❸こちらのルートはあまり人が通っていないのでラッセル。前方に待ち構えるのが乳首。
❹勢至平から峰ノ辻まではのんびり歩いて1時間ほど。正面の牛の背にはキラキラ輝く岩氷。
❺安達太良山の頂上からは東北の山オールスターが見渡せる。最後の登りはクランポン必須。
❻頂上からくろがね小屋までは、約1時間の道のり。間違って鉄山方面に行かないよう注意。
アクセス
マイカーの場合、東北自動車道の二本松インターチェンジで下りて、そこから約40分。電車の場合は二本松駅からタクシーで約30分。冬期には郡山駅から、岳温泉を経由し、あだたら高原スキー場行きのシャトルバスも運行している。
アドバイス
夏期はケーブルカーもあるが、冬期は休業。稜線に出ると、強風が吹くことも多いので、防寒対策はしっかりと。雪が多い場合には、ワカンなどがあると歩きやすい。稜線は広々しているので、ホワイトアウト時の道迷いにも注意。
SHARE
PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。