夏山との違いと雪山の環境
PEAKS 編集部
- 2021年01月22日
INDEX
冬山は、気温差はもちろん、歩くルートや行動時間が夏山と大きく異なる。日本は意外と広いもので、山域やエリアによって環境が変わるため、雪山といっても、どこも同じとはひとくくりにできないのである。
文◎栗山ちほ Text by Chiho Kuriyama
イラスト◎ナカオ☆テッペイ illustration by Teppei Nakao
出典◎PEAKS 2016年12月号 No.85
夏山との違いと雪山の環境
教えてくれるのは/山岳ガイド・廣田勇介さん
JMGA山岳&スキーガイド。日本やカナダでのガイド活動の傍ら、世界中の高峰からの山岳滑降を行なっている。フォトクラファーや執筆活動など、活躍の場は幅広い。
1.想像以上に違う高所での気温
雪山は晴れた日中でも気温が氷点下になることがめずらしくない。朝や日暮れはもっと冷え込む。標高が高くなるほど気温が下がるのはご存じだろうが、では山麓と山頂はどれほど違うのだろう。
一般的に、標高が100m 高くなると気温は0.6℃下がるといわれている。例えば、北アルプスの西穂高岳は標高2,909m。山域は岐阜県高山市と長野県松本市に属している。気象庁発表による松本市の12 月の平均気温は2.3℃。
同市の標高を600m とすると、西穂高岳は-11.5℃になる。稜線や尾根などで風にさらされるとさらに冷え、それ以上の寒さになると踏まえておこう。
平地の気温-標高差(100m単位)×0.6℃=山の気温
- 例)12月の西穂高岳の気温
2.3℃-(2,909-600)÷100×0.6℃=-11.5℃
※松本市の数値は気象庁発表の平均気温。標高は約600mとした。
2.夏山と雪山はルートが違う場合も
登山マップに載っているルートは、基本的に夏山を想定している。地形に沿った指定ルートが紹介されていることだろう。
冬はそれらの道は雪で埋まり、コンディションを見ながら自分でルートを選ばなくてはいけないことがある。凍りついた斜面は滑落をさけて遠回りしたり、雪崩地形を回避したりして、地形を読みながら進むルートファインディングのテクニックが求められる。
判断を間違えると遭難につながることもある。しかし、雪道は悪いことばかりではない。上のマップは、唐松岳に向かう八方池付近のもの。
夏はつづら折れの道を登らなければならないが、冬は尾根に出てまっすぐ進み、ショートカットできるようになる。
3.夏山とは大幅に変わる行動時間
雪山の行動時間は、夏よりも多くかかる。積雪が少なく凍結の心配がなければ、夏の1.5倍ほどで目的地に着けることもあるが、雪深くラッセルが必要なときや、凍結しているときは、3倍以上の時間を要することも。
コンディションで行動時間が大きく左右されるため、マップのコースタイムは参考程度にとどめておきたい。また、冬は日照時間が短い。
夏よりも日の出は2時間以上遅く、日の入りは2時間半ほど早くなる。
日が出ているうちに行動し、早めに目的地に到着するか、無理な場合は下山することをおすすめする。
なお、同じ日本であっても地域で日の入りの時間に差がある。例えば、冬季の北海道は長野県より30分ほど早く日が沈む。
- 日の出 6月4:30 12月6:41
- 日の入り 6月19:00 12月16:31
※長野市の数値をそれぞれ1日で算出
4.エリアによる雪の量と質の違い
気象に詳しくなくても、冬と夏で風向きが変わる「季節風」という言葉は耳にしたことがあるだろう。冬季は大陸から寒気が張り出し、南西の風が吹く。冬が深まり寒さが厳しくなると、天気予報で西高東低の冬型気圧配置をよく見かけるようなる。こうなると、日本海側は厚い雲が発生し、沿岸部の山域にたくさんの雪を降り積もらせる。
雲は内陸部まで移動すると徐々に湿気が減り、雪質はドライに。日本海側や内陸部が雪や曇りであっても、太平洋側は晴れていることが多くなる。北海道も雪国だが、このエリアは緯度が高いので寒気の影響を受けすい。
これは東北エリアも同様で、北に近くなるほど冷え込みが厳しく、引き締まった雪が降る。
日本海側
大陸の寒気が張り出すと日本海上空の湿気が冷やされて厚い雲を発生させ、沿岸部にたくさんの雪を降らせる。冬は雪や曇りの日が続き、市街地でも一夜で1mを超えるような積雪となる。雪質は湿気を含むため重め。このエリアには豪雪地帯が多く分布している。
北海道
本州よりも緯度が高いため、寒気の影響を受けやすい。単純にいうと、本州よりも北極が近いから冷え込むということ。標高の低い山域でも雪が積り、国内でも早くから冬が到来する。雪はよく引き締まり、サラサラのパウダースノーの宝庫といえる。
内陸部
寒気の影響で生まれた雲は、日本海側で雪となってほとんどの水分を落としてしまい、内陸部に入ると湿気の少ない乾いた雪になる。晴天率が高く、空気も乾いて清々しいが、放射冷却の影響で冷え込みは非常に厳しい。積雪量も日本海側よりは少ない。
5.標高で変わる雪山の環境
山は大きくわけると、樹林帯、森林限界付近、アルパインの3つの山域で構成されている。
標高が上がるに連れて、高い木々が徐々に低木となり、木も生えない岩稜帯へと移り変わるイメージだ。
高度が上がるのに比例して気温は低くなり、木が減るに従って風の影響を受けやすくなる。標高でいうなら、樹林帯は山麓から2,000m 弱まで、森林限界付近は2,000 ~ 2,500mあたり、アルパインは2,500m以上。
しかし、これはあくまでも目安。厳密にいうと、緯度や風の影響を受けるかどうかなど、環境で違いがある。例えば、白馬の森林限界は約2,000m だが、ニセコは1,500mあたりから低木が目立ちはじめる。出かける山の特性も踏まえておこう。
樹林帯
落葉樹や針葉樹などの高木が生い茂る森林エリア。山麓や標高の低いエリアにあたり、低山では山全体が樹林帯に覆われていることもある。木々に囲まれているため風の影響を受けにくく、比較的おだやかな山域といえるだろう。ただし、展望がきかないので登山路が雪に埋もれて方向を見失うことも。
森林限界付近
標高が高くなり、高木が育つことができない限界の山域。ハイマツなどの低木が多く、体に風を受けるようになる。体温を奪われ、適度なレイヤリングが必要に。本州中部の森林限界付近はおおむね標高2,500mあたりまでだが、緯度が高くなるに連れて寒冷になり、もっと低い位置から森林限界がはじまる。
アルパイン
木のない高所で、身を隠す場所がない過酷な山域。吹きすさぶ風にさらされ、いちじるしく体温を奪われる。風で雪が硬く引き締まり、凍結していることもあるため、慎重に登高したい。このエリアに出る前にクランポンやアイスアックスなどの装備を整え、レイヤリングを調整して防寒対策もしておく。
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文◎栗山ちほ Text by Chiho Kuriyama
イラスト◎ナカオ☆テッペイ illustration by Teppei Nakao
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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