冬だから気になる、天候と雪崩について|空と山を読む、雪山の危機管理
PEAKS 編集部
- 2021年01月12日
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難易度や行動時間が増す雪山では、夏山以上に安全登山の心がけが必要とされる。なかでも重要なのが、急な悪天候や雪崩を回避すること。それらの読み取り方、対処法について、西穂山荘支配人の粟澤 徹さんに話をうかがった。
文◉編集部 Text by PEAKS
イラスト◉高橋未来 Illustration by Miki Takahashi
協力◉粟澤 徹 Special Thanks for Toru Awazawa
出典◉PEAKS 2016年12月号 No.85
気象を学ぶときは肩の力を抜いて、基本を学ぶことが大切です。
息をのむ雄大な山岳美と、自然の力をむき出しにしたような厳しい自然環境。そんな北アルプス南部にて、唯一の通年営業を担うのが、西穂高岳登山の拠点となる西穂山荘だ。
支配人は粟澤徹さん。肩書きには信州大学理学部特別研究員、気象予報士といった言葉が続く。2016年には、『やさしい山のお天気教室』(小社刊)を出版した。
「気象に関する知識を磨くようになったのは、ここ西穂山荘での経験があってのものです。うちは通年営業ですから、レスキュー協力も大切な仕事です。でも、ご存知でしたか? 冬の遭難は気象を原因とするもののほうが多いんですよ。それから気象の重要性を痛感するようになり、勉強を重ねるようになりました」
たしかに、気象に詳しくなったほうが雪山を安全に楽しめるだろう。でも、どうしても気象には難しいイメージがつきまとう。しかし、そんな身構える必要はないと、粟澤さんは笑う。
「山の天気を予想するのは難しいです。私も外すことがありますから。でも、完璧でなくてもいいんですよ。冬型の気圧配置や等圧線の仕組みのような基本を押さえるだけで、雪山登山の安全度は大きく変わります。基本を理解することから始めましょう」
Q:よく聞く「冬型の気圧配置」ってなんですか?
A:西高東低、そして気圧差の大きな気圧配置。北風が吹く、日本独特の冬の気圧システムです。
この時期、テレビで天気予報を眺めていると、気象予報士が「冬型の気圧配置」と繰り返すようになる。どのような影響をもたらすのだろうか。
「西高東低の冬型の気圧配置、といわれることが多いですね。文字通り、西に高気圧、東には低気圧と、日本列島がサンドイッチにされている状態のことです。さらに高気圧と低気圧の差がある程度大きいことで、冬型の気圧配置と呼ばれます。空気は気圧差が大きければ大きいほど勢いよく流れ込むうえ、日本の北西のほうにあるのはシベリア寒気団。つまり、シベリアの大地で冷やされた空気が、日本列島に勢いよく吹き込むというわけです」
冬型の気圧配置とは、遠くのシベリアからも影響を受ける日本ならではの気圧配置だった。
POINT
- 西に高気圧、東に低気圧という配置
- 気圧差が大きく、空気の勢いが強い
- シベリアから冷たい空気が流れ込む
Q:天気図で見かけるシワのような線について教えてください。
A:等圧線とは、気圧が同じ地点を結んだ線のこと。数が多ければ多いほど強い冬型になり、日本列島に吹き付ける風もさらに強くなります。
天気図では日本列島上にシワのような線が並ぶことがある。とくに冬では縦向きになり、間隔が短く、数も多くなる。こんなときにはどんな影響が出るのだろうか。
「冬型の気圧配置になると、風は等圧線に沿うように北から流れていきます。間隔が狭いほど気圧差も大きくなるので、風も強くなることに。よって、等圧線が多ければ多いほど、冷たく強い北風が吹きつける冬型の気圧配置が強くなるということです」
POINT
- 等圧線の数が多いほど強風になる
- 高気圧から低気圧へと風は吹く
Q:ホワイトアウトってそんなに恐いんですか?
A:吹雪や地吹雪によって視界が奪われることで、地形や方向がいっさいわからなくなり、空中を歩いているような錯覚に陥るほどです。
白く(ホワイト)、見えない(アウト)状態、それがホワイトアウト。粟澤さん自身も、その状況に追い込まれたことがあるという。
「一番ひどかったときには、自分の登山靴さえ見えなかったことがありました。視界は1mもなかったかもしれません。そうなると雪面と空気の境が曖昧になり、どこにいるかがいっさいわからなくなるのです」
とにかく悪天候に巻き込まれないのが重要ということか。
POINT
- 視界を奪われて現在地が不明になる
- 急な天候悪化への警戒を怠らない
Q:どうして日本海側のほうが雪が多いんですか?
A:脊梁(せきりょう)山脈に北風がぶつかり、運ばれてきた雲が上昇。そうして発達することで、日本海側に雪が降らされます。
日本列島を縦断する山脈の連なりを、脊梁山脈と呼ぶ。太平洋側と比べて日本海側ばかり雪が降るのは、この山脈が果たす役割が大きいという。
「シベリアからやってきた冷たい空気が暖かい日本海の上を通ることによって雲ができ、日本海側に雪を降らせます。さらに山脈にぶつかって風が上昇するため、運ばれてきた雲も発達し、山に多量の雪を降らせます。水分を落として乾燥した空気は太平洋側へ。西から東へと冷たい風が吹く、冬型の気圧配置がここにも関係しています」
POINT
- 脊梁山脈にぶつかり雲が発達する
- 雪を降らして乾燥すると太平洋側へ
雪崩を避けるにはまず雪崩を知ることから。そして気象と組み合わせてみましょう。
西穂山荘での日々をとおして気象の知識を身につけた粟澤さん。雪崩の場合は、実際の雪山での経験が大きいという。
「山小屋の仕事のなかにはルートの整備もあります。そこで観察を繰り返すようになりました。こういう跡があるということは、いつ、どういう原因で発生したのだろうと。昨日が暖かかったせいじゃないかというように」
雪崩は恐いものだ。だから、雪山から足が遠のき、降雪とともに登山靴やバックパックを部屋の奥へとしまう人が多いのだろう。
粟澤さんは、雪崩を知るには観察が重要だという。雪山をつぶさに見続けることで、小さな予兆でも見逃さなくなる。
「それがただの雪山の景色でも、観察を続けることで、わかるようになることがあります。歩きやすい、雪崩が起きそう、雪庇が発達しているといったように。それが回避につながります。もちろん、観察といっても日常的に山と接しているという人は少ないでしょう。だから、まずはどういうタイプの雪崩があるかを知りましょう。そして、それを気象と結びつけられるようになったら雪山の危機管理はグッと高まります。ふたつを掛け合わせることで、雪山をより深く理解して、より楽しむことができるようになるでしょう」
Q:どういうときに雪崩が発生するのですか?
A:発生パターンから雪崩の分類を知りましょう。発生の形、雪の水分、すべり面の位置。もっとも危険なのは面発生表層雪崩です。
雪山の恐ろしさ、その最たるものが雪崩である。いつ雪崩が発生するかを知るためには、粟澤さんによると分類を知ることが重要だという。
「いくつもの要素が複雑に絡み合って発生するのが雪崩です。だから、その仕組みを知るためには雪崩のパターンを理解したほうが早いでしょう。日本雪氷学会による分類では、発生の形が点か面か、雪質が乾雪か湿雪か、すべり面の位置が表層か全層か。この6つに分類できますが、雪崩事故全体の9割以上が面発生表層雪崩です」
POINT
- 雪崩は発生パターンで6つに分類する
- 大半が面発生表層雪崩
Q:雪庇によって雪崩が発生するとも聞きました。
A:大きくなりすぎてしまった雪庇は、自分の重さに耐えきれなくなって崩壊します。これによってブロック雪崩が発生します。
雪庇とは、風が吹き上げることによって雪が庇のように伸びたもののこと。雪山における危険要素として知られるが、真上からは判別しにくい。そのため登山者がうっかり踏み抜くと滑落事故を起こしてしまう。また、雪庇の危険は滑落に限らず、雪崩を引き起こすこともあるようだ。
「自分の重さに耐えられなくなった雪庇は崩壊し、その衝撃によって雪崩を発生させることがあります。これをブロック雪崩と呼び、気温の上昇とともに発生しやすくなります」
POINT
- 雪庇の崩落からブロック雪崩へ
- 溶けて発生しやすくなることも
Q:雪崩を回避できるようになるにはどうしたらいいですか?
A:雪山といっても千差万別。経験を積むことが大切です。
山頂まで一歩ずつしか近づけないように、雪崩対策も段階を踏むことが最重要。粟澤さんは、気象とリスクを学んでから雪山にチャレンジすることが望ましいと説く。
「雪崩のリスクを減らすには、ある程度は自分で判断できるようにならなければいけません。気象に関する基本的な知識を身につけ、ルートファインディングを習得しましょう。そのうえで、その年の積雪状況や山域の特色を考慮できるようになりましょう」
POINT
- 気象や地図読みの知識を習得
- 千差万別な状況への対応力が必要
Q:雪崩に巻き込まれたときにはどうすればいいですか?
A:泳ぐなども手ですが、状況を観察して回避しましょう
想像はしたくもないことだが、自分が雪崩に巻き込まれてしまったときにはどうすればいいのだろうか。
泳ぐようにバタバタと体を動かし、最後は口もとにエアポケットをつくる。
そういった意見もあるが、果たして効果はあるのだろうか。
「雪崩に遭ったら、地上に出る可能性を少しでも上げるために泳ぐという選択もあります。でも、一番はやっぱり雪崩に遭わないようにすること。危険を察知して回避することが重要です」
POINT
- 雪崩に遭ったら泳ぐのも手(!?)
- つぶさに観察してリスクを軽減
Q:仲間が雪崩に巻き込まれました。どうすればいいですか!?
A:流されていく瞬間を凝視! 的確なポイントへ
雪恐れていた雪崩が発生した!
幸運にも自分は回避することができたようだ。でも、仲間は!? いま、まさに目の前で流されていく――。
「その場合、目の前で起きている一部始終を見逃してはいけません。ほんの一瞬でも見逃さないように、凝視していましょう。そうすることで、どれだけ流されたか、左右どっちに流されたか予測を立てることができます。そして的確な判断を下して、すぐにポイントへと捜索に向かいましょう」
POINT
- 流されていく瞬間を見逃さない
- 慌てずに的確なポイントを見抜く
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文◉編集部 Text by PEAKS
イラスト◉高橋未来 Illustration by Miki Takahashi
協力◉粟澤 徹 Special Thanks for Toru Awazawa
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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