冬期山行ウエア談義「アウターシェル」
PEAKS 編集部
- 2021年01月19日
普段冬山用ウエアのインプレッションをしている各分野のエキスパートたちが集い、各アイテムの特徴や購入の際のアドバイスなどをテーマに座談会を開催。それぞれの現場での経験をベースにした貴重な話が飛び交った。ぜひご参考あれ!
文◉山本晃市 Text by Koichi Yamamoto(DO Mt.BOOK)
写真◉高橋郁子 Photo by Ikuko Takahashi
出典◉PEAKS 2017年11月号 No.96
SPECIAL TALK SESSION
座談会メンバー
高橋庄太郎(雪山テント泊山行)、山畑理絵(雪山小屋泊山行)、森 勝(冬期低山ハイキング)、平野応典(冬期アルパインクライミング)、村石太郎(スキーツーリング)
――本企画でご担当いただいているそれぞれの立場からお話を聞かせてください。まずはアウターシェル、ハードシェルとソフトシェルの使い分けや役割ついてお願いします。
山畑 雪山ワンデイの場合は、歩くルートやその日の天候でハードにするかソフトにするかを決めています。ただし、ソフトは防風フィルム入り。例えば、急斜面を歩くルートがあればハード、樹林帯メインでアクティブに歩きたいときはソフト、といった感じで使い分けています。
高橋 ハードシェル、最近ほとんど着ないんですね。テント泊での雪山山行という観点でいうと、とにかく荷物が多いのでとても汗をかく。ハードシェルで遮られていると、夏のように汗をたくさんかいて内側にたまってしまう。そうなるとソフトシェルのほうが快適。日帰りならば、発汗量も抑えられるのでハードシェルのときもあります。そういう場合は、ソフトシェルの上にハードシェルを重ねて防風・防水を強化する。とはいえ、そもそも悪天のときはそんなに歩かないので、実質あまり着用しないですね。
森 低山ハイクでは、レインウエアがメインになります。ハードシェルは逆に持たない。
歩くルートや天候で、ハードかソフトを決める。【山畑】
高橋 レインウエアでも代用できますが、よりハードな環境ではもう少し丈夫なほうがいいですね。傷みにくく、長く使えますから。
山畑 最近はしなやかで動きやすいハードシェルもありますよね。
平野 ぼくもほぼソフトシェルしか着ない。ソフトのほうが着心地はいいのだけれど、完全防水のソフトシェルが現状ないので、どちらか一枚となるとどうしても防水性を優先させる。その場合は、ハードシェル。ただ、ティートンブロスのネオシェルを使ったモデルでニットバッカータイプのものはすごい。防水性もありソフトシェル的な機能もあり着心地がいい。
高橋 ぼくの場合、ソフトシェルは防水性のない、できるだけ薄いものを使っています。だから悪天候時はハードシェルを重ねてます。
平野 結局レイヤリングで対応すれば暖かさも担保できますからね。
森 レイン以外では、極薄のソフトシェルが好きで、よく使っています。アウトドアリサーチのストレッチのきいたフェロッシーというモデルを愛用しています。
村石 ハードシェル、またはハードフェイスフリース、いわゆるソフトシェルの両方を使います。厳冬期はインシュレーションも併せる。スキーの場合は滑走するので、ハードシェルを着ないと寒い。稜線に出ると急に天候が変わったりするので、ハードシェルが不可欠です。
――アウターで、いちばん重視しているポイントは?
平野 動き、防水、重さ、これだけ。ハードシェルの重さの基準は、メンズは500g前後、ウィメンズが400g以下。これがいまの主流。昔、鎧(よろい)と呼ばれていたころに比べてとても薄くなっているし、軽い。それと3層マスト。2・5層だと結露して凍ってしまったりしますから。
村石 賛成です。スキーの場合、ストップ&ゴーを繰り返したときの内側の空気循環をよくする、動いているときの温度差、変化を少なくしてくれることを重視しています。ムレや汗冷えをできるだけ抑えたい。だから、素材も重視しています。
低山ハイクでは、レインウエアがメイン。【森】
平野 ただ、通気性がよすぎる素材はヌケがよすぎて寒い、なんていう感想もあった(笑)。でもマウンテンハードウエアのドライQエリートなんかは、使い方次第ですごい威力を発揮する。
村石 ネオシェルもかなりヌケがいいですよね。
平野 そうそう。ただ、レイヤリングで解消できる。だからネオシェルを選んじゃう。登攀の場合は、シルエットも重視したい。細身のものが引っかからなくていい。
高橋 ぼくは過度に汗かきの体質なので、少々ヌケがよすぎても通気性が高いものはうれしい。
森 冷え性なので、ぼくは女性に近い感覚。動いていないと辛い。手首までしっかり覆うものがいい。それと収納性を重視しています。
――ベンチレーションについては、どうでしょうか?
平野 二度と締められない脇下のものが多かったから、。トリプルジッパーはナイスアイディアだった。でも脇の下にあると着心地はいいとはいえない。そのため脇の下の場合は3番のジッパーを使っているものが多い。幅5㎜ぐらいの細いもの。一般的なのが5番。いまはジッパーを前身頃の両端に配置して、脇の下だけ通気性の高い生地で対応しているものも増えましたね。
村石 グローブをしたままでも開けやすくて閉めやすいのがいい。引っかからないものですね。
山畑 私もオーバーグローブをしたままでも操作しやすいかを必ずチェックします。
過度に汗かきの体質なので、通気性の高いものがいい。【高橋】
村石 間違いなくいえることは、ベンチレーションは絶対にほしいということですね。
高橋 ハードシェルではとくにですが、フロントはダブルジッパーがいいです。首部分を閉めつつ、裾だけを開けて換気できるので。
――アウターシェルをひとつ選ぶ1とすれば、最重視する点は?
平野 最初に選ぶならハードのほうが雨でも問題がないのでいい。順番的にはまず外側からの濡れを抑えないとならないですから。
村石 冬はどうしてもハードシェルが必要になる。
高橋 現状では、なくてすまされるアイテムではないですよね。
平野 行動中は結局ソフトシェルを着ている人が多いけど(笑)。
村石 天候がそんなに悪くなくて発汗量が多ければソフト、天候が荒れてきたらやはりハード。そんなふうに使い分けています。
高橋 どちらかではなくて両方を使い分ける、ということですね。
森 ぼくもそうです。
村石 あと、ビブタイプかパンツタイプかも選ぶ際の判断材料です。移動距離が長くなるとずり下がってしまうことがあるので、ぼくは絶対的にビブのほうがいい。
発汗量が多ければソフト、天候が荒れてきたらハード。【村石】
平野 登攀の場合はハーネスをつけていればずり落ちないので、むしろ装備を付けたまま着用できるかどうかを重視しています。サイドフルオープンでフラップ付きでないと使い勝手はよくない。ただ、ビブは暖かい。
村石 絶対的にそうですね。それにトイレのときも終わったあとはラクですし。
森 低山ハイクの場合は、意外と素材は気にしない。条件がそれほど過酷ではないので、選択肢は広い。もちろん低山でも注意は必要ですが、むしろデザインも楽しんでいます。ゆったりシルエットが個人的には好きです。下山してそのまま街着としても使えるような。
――最後に購入する際のアドバイスがあれば、お願いします。
高橋 サイズを間違えないこと。とても大事なことです。大きすぎてスカスカでは本来の機能を発揮しない。それから色。(万一の遭難時)発見してほしければ、目立つ色を使うべきですね。
村石 フードです。なかなか難しいのですが、きちんと自分の顔に合うものを選んでほしい。
動き、防水、重さを重視。それと3層はマスト。【平野】
平野 ヘルメットを使うときは本当に重要ですよね。それから、下半身のほうが上半身よりも寒さに関して鈍感(強い)なので、上半身ほど素材を優先しなくてもいい。ですので、ぼくが重視したいのは、やはりボトムの装備装着時の着用のしやすさですね。
山畑 細かい部分ですが、ジップタイの長さや質感、これもストレスのかかり具合を大きく左右するので重視しています。
森 低山の場合は、軽量性だけにこだわる必要性が比較的少ない。ですので藪漕ぎや倒木をまたぐときなど、破れてしまうこともあるから、多少重くても耐久性を重視したい。長く使えるものがいい。
高橋 そう、とくにパンツ、ハードシェルを選ぶなら裾などが補強されているタイプがいい。慣れていない人ほどビリビリに破いてしまう。これ意外と多いので、注意してほしいですね。
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文◉山本晃市 Text by Koichi Yamamoto(DO Mt.BOOK)
写真◉高橋郁子 Photo by Ikuko Takahashi
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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