雪山テント泊で快適に過ごすテクニック11 |これを覚えておけば寒さや雪は怖くない!
PEAKS 編集部
- 2021年03月05日
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雪山でのテント泊は、夏山とは事情がまったく違う。雪や低温は快適さを損ない、体力を消耗させる。しかし、ちょっとしたコツを知っているだけで、雪山でも快適に過ごせる。
文◉堀内一秀 Text by Kazuhide Horiuchi
イラスト◉ナカオ☆テッペイ Illustration by Teppei Nakao
監修◉水野隆信 Supervising Takanobu Mizuno
出典◉PEAKSアーカイブ ソロトレッキング
テントの入口を雪で濡らさないように張る。
雪山テント泊で快適に過ごすための鉄則その1は「テントの中を濡らさない」ということ。なぜなら、雪山のような低温下では道具が濡れてしまうと簡単には乾かないし、そのまま外に出せば凍ってしまうからだ。そのため、「雪をテントの中に持ち込まない」ことが大切になってくる。
雪の上でテントを立てるとき、最近のテントは生地が空気をあまり通さないので入り口を閉めたままだと立てにくい。かといって、入り口を全開にすればテントを立てている間に雪が中に入ってしまう。
そこでベストな方法は、入り口のファスナーを少しだけ開けておくこと。それも、雪が入りにくいように上の部分を少し開けて空気が入るようにしておくといい。
テントを立てるときには忘れてしまうかもしれないので、テントを撤収するときに入り口のファスナーを上の部分だけ少し開けておくように習慣づけておくといい。そのほうがテントの撤収も楽に行なえる。
アクシデントを防ぐため中を整理整頓すること。
テントの中を濡らさないためには、まず外から雪を持ち込まないようにするのが基本。そのため、人が中に入るときにはウエアやシューズに着いた雪を、ブラシを使って可能な限り落としておく。
それでも万全とはいえない。一番危ないのは、クッカーや食器をひっくり返して水やお湯をテント内に撒き散らしてしまうこと。とにかく、水やお湯が入った容器がテント内を移動するときには、細心の注意を払ってこぼさないように気をつけなくてはならない。
そんなアクシデントを起こさないために、テントの中ではものを散らかさず、整理整頓して人の移動の邪魔にならないようにする。ものが散らかっていると、必要なものを探してガサゴソ動いているときに足でクッカーを蹴飛ばしてしまったり、腕をぶつけて倒してしまったりしかねない。
案外忘れがちなのがエアマット。空気が入った状態で折ってあると、力が抜けた拍子に跳ね上がることもあるので注意。
テント内の水分はスポンジで除去しよう。
さて、長々とテントの中を濡らさないための方法を説明したが、どんなに注意を払っても、テント内を濡らしてしまうアクシデントが起こる確率はゼロにはならない。
マットやテントのフロアが少し濡れるくらいなら大した害はないかもしれないが、スリーピングバッグやウエア、乾かそうと思って干しておいたグローブやソックスが濡れてしまうとダメージは大きい。
そんなダメージを最小限に食い止めるために、水がこぼれたらすぐ拭き取れる用意をしておこう。トイレットペーパーやティッシュでもいいのだが、ゴミが増えるので小さなスポンジが役に立つ。スポンジなら水を吸ってもゴミにならないし、テントの外で絞ればまた使うことができる。
その点、タオルよりも使い勝手がいいので、いざというときに備えてクッカーの周りにはスポンジを置いてすぐ使えるようにしておく。テントは濡れたままたたむと凍ってしまうので、撤収時の水分除去にも使える。
靴を履くための段は入口から20㎝は離す。
雪山テント泊で面倒なことのひとつに、テントを出入りする際の靴の着脱がある。
ただでさえ寒くて手が動きにくいのに、雪をテント内に入れないように注意を払いながら大きな靴を脱いだりするのは結構手間のかかる作業だ。
そんな面倒を楽にするためには、テントの入口の前の雪を掘って、一段低いスペースを作るといい。そうすれば足が腰の位置より低くなるので靴の着脱がずっと容易になる。
ただ注意してもらいたいのは、入り口ギリギリのところに段を作らないこと。ギリギリのところを段にしてしまうと、入り口すぐ下の雪が溶けて入り口の下が空洞になってしまうことがあるからだ。
だから段を作るときは、入口の端から最低でも20 ~ 30㎝くらい離れたところからにしよう。そうしておくと着脱するときの靴の位置が自然にテントから離れるので、靴を脱いでテントの中に入る際、靴についた雪を中に入れてしまうリスクを減らすことにもつながる。
スリーピングマットはフルサイズをチョイス。
雪の上に張ったテントの中で眠るのは、経験したことのない人からすると寒くて眠れそうにないと思うかもしれないが、実際にはそれほど寒くない。テントは狭い空間なので、中に入っている人の体温だけでも結構暖かくなる。
ただし、布一枚下は雪なので、下から熱が逃げていくのだけは避けなければならない。そのためにも、スリーピングマットは断熱効果の高いものを使いたい。
夏のテント泊であれば、上半身の下に半身用マットを敷き、下半身は空にしたバックパックを敷いて過ごしてもそれほど寒い思いはしない。
しかし雪の上の場合は、極力フルサイズのスリーピングマットを使ったほうがいい。断熱効果が高いのはなんといっても空気なので、パックとは断熱効果に大きな差がある。だから、雪山テントでパックを敷いても下半身が寒くて眠れないこともありえる。雪山のスリーピングマットは、ぜひフルサイズを持って行きたい。
ペグ代わりのアンカーはカットした“竹”がベター。
雪の上にテントを張るときも、テントが風で飛ばされたりしないようアンカーで固定する必要がある。もし山行形態が縦走のようにテントをたたんで次の場所に移動するのであれば、アックスをアンカーにして構わない。移動するときには、テントを撤収してアンカーは不要になるからだ。
しかし、ベースを張って登攀をするような場合は、アックスは使えない。かといって無雪期用のペグでは雪上のアンカーとして心もとない。そんなときは、竹を縦に割って短くカットしたものをアンカーとして持っていくといい。
竹のアンカーだと、2本を十字にして使うことができ、ただ刺しただけのペグに比べて、しっかり固定できる。
また竹は、丸い方を上にして埋めると、力がかかったときにしなって力を逃し、折れにくい。
あと、おすすめはできないが雪が凍結して回収できない場合、最悪、ヒモを切って残置することもできる。
インナーグローブはテント内でも肌身離さず。
雪山では、気温が低ければテントの中でも水が氷る。濡れた革の登山靴は、そのまま置いておけば朝には鉄のようにカチカチになって、足を入れることすらできなくなってしまう。
だからテントの中では、凍ってしまっても構わないものと凍っては困るものを分け、凍って困るものはスリーピングバッグの中に入れたり、間に挟んだりして凍らないようにする。
テントの中ではいろいろな作業をしなければならないので、グローブはほとんどの場合外している。場合によっては濡れてしまってテント内で乾かしていることもあるだろう。
もし濡れていないのであれば、インナーグローブも肌身離さず持っているようにしたい。理由は、グローブが必要になった際、冷たい思いをしないで済むように。フリースのポケットにでも入れておけば、体温で温まるし、邪魔になることもない。
それに、定位置が決まっていれば使いたくなったときにすぐに見つけることができる。
ヘッドランプやナイフは就寝時も手の届く場所に。
雪山にはさまざまな危険が潜んでいる。テントで寝ているときにいちばん怖いのは、雪崩でテントが潰されてしまうことだろう。雪崩のこない樹林帯でも、木に積もった雪が落ちてくることはあるし、積雪が激しいときは、定期的に雪かきをしないと、やはりテントは雪に潰されてしまう。
テントが雪で潰されれば、状況によっては命にかかわる。なにはともあれ、すぐにテントを切り裂いて外に出なければならない。そんな最悪の事態に備えて、寝る際には、ヘッドライトやナイフはすぐ手の届く場所に置いておく。
いちばんいいのは、ナイフはヒモをつけて首から下げ、ヘッドライトはポケットに入れておくこと。携帯電話も同様に扱っておけば万全だ。
とくにヘッドライトは、温度が下がると電池の性能が落ちてしまい、明るくなるのに時間がかかることがあるので要注意。
身につけておいてある程度に温度を保っておけば、必要なときにすぐ点灯できる。
次の日の行動着は寝袋の中に入れて寝る。
雪山では、気温が低いので体温を維持するために夏山より余分にカロリーを消費する。また、荷物も夏より重いので移動で消費するカロリーも多い。食料で十分カロリーを補給するのも大事だが、できるだけ無駄なカロリー消費も抑えたい。
もし雪山登山で、出かける前に行動着に着替えるつもりであれば、その行動着は前夜からスリーピングバッグの中に入れて、温かい状態を保っておくといい。
直接肌に触れるウエアが冷たければ、着替えるときに不快な思いをし、気分的にも落ち込んでしまう。
それに冷たいウエアは、自分の体温で温めなければならない。ウエアを温めるためには、当然自分の熱を使うのでそれだけ余計にカロリーを消費してしまう。つまり、着替えを温めておくことで、無駄なカロリー消費を抑えられる、ということだ。夜のスリーピングバッグは、最大限活用して雪山生活を快適にしたい。
ウォーターキャリーを湯たんぽ代わりに。
寒さに対する耐性は個人差があるので、冬用のダウンスリーピングバッグを使っても安眠できず、使い捨てのカイロやベンジンを入れるカイロを使って暖をとり、やっと眠れるという人もいる。
しかし使い捨てカイロは使ったあとゴミになるし、携帯カイロも燃料を運ばなければならない。装備の軽量化という点からすれば、余分な装備を足すのではなく、いまあるものを活用できればそれに越したことはない。
というわけで、暖をとるのにおすすめしたいのがウォーターキャリーだ。少しくらい押しても水が漏れないプラティパスのような丈夫なキャリーにお湯を入れると、湯たんぽとして使うことができる。
調理用のお湯を沸かすついでに湯たんぽ用のお湯も沸かし、キャリーに入れてそのままスリーピングバッグの中に入れてしまう。朝になってもほんのり暖かいはずなので、残ったお湯は温め直しやすく、調理に使う際もラクになる。
テントの入口は障害物の前にしておく。
岩や小さな木が出ている無雪期の山に比べ、雪がすべて覆っている雪山ではどこにテントを張っても良さそうなものだが、そういうわけにはいかない。テントを張るのに向かない場所もあるし、危険な場所もあるからだ。
基本は、平らで風が当たらない、雪崩の心配のないところ。テントの入口は、風下側に向けて風が入るのを防ぐ。ただし、風向きはずっと一定とは限らない。できれば、前の開けた景色のいい方向ではなく、景色の見にくい障害物のある方に入り口を向けておくと風向きが変わっても風が入ってきにくい。
それから、雪崩が起きそうな斜面の下を避けるのはもちろんだが、樹林帯でも木に積もった雪が落ちてくることがあるので、できるだけ雪が積もる葉っぱのついていない樹の下を選んでテントを張ったほうが安全だ。
また樹林帯でも、風向きによって雪の吹き溜まりになるような場所もあるので、そういう場所はよく確認のうえ、避けて張ったほうがベター。
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文◉堀内一秀 Text by Kazuhide Horiuchi
イラスト◉ナカオ☆テッペイ Illustration by Teppei Nakao
監修◉水野隆信 Supervising Takanobu Mizuno
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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