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新型ゴアテックス プロを採用した先鋭ジャケット アークテリクス・アルファSVジャケット レビュー

アークテリクスのフラッグシップモデルであるだけでなく、現在市場にあるハードシェルの最高峰的存在といってもいいでしょう。それが「アルファSVジャケット」。

定価はなんと10万円+税! しかし価格だけならこれより高いものも存在します。そのなかでどうしてアルファSVが最高峰なのかというと、このモデルは、ハードシェル界に及ぼしてきたさまざまな革命の歴史をもつからです。同時に、「厳しい山で使えること」だけを考え抜き、タウンユースなどは一切考慮しない研ぎ澄ました作りであることもその理由。いってみれば、F1カーみたいなジャケットなのです。

そのアルファSVが、3年ぶりにモデルチェンジを果たしました。今回の目玉は、新しい「ゴアテックス プロ」を採用していること。ゴアテックス プロというのは、通常のゴアテックスより耐久性を高めた、文字通りの「プロ」バージョン。過激なクライマーやスキーヤー、山岳ガイドなどの酷使にも耐える強さを持っています。それが今季大きくリニューアルし、そのレベルアップしたゴアテックス プロをアルファSVはいち早く採用しています。

新型ゴアテックス プロの採用により、より信頼性を増したアルファSVジャケット。それを実地で試す機会に恵まれました。10万円のジャケットなんて、なかなか着られる機会はないものですが、そこは山岳ライターとしての役得。実際に雪山で使ってみましたので、その使用感をレポートします。

鎧のようなジャケット

手に取った第一印象は「硬い!」。生地感がゴワゴワパリパリしていて、今どきのハードシェルとしては異彩を放つほどの硬さです。それもそのはず、アルファSVの表地には、100デニールという、ウエアではほとんど聞いたことがない厚さのナイロンが使われています。ちなみに100デニールというのは、バックパックにも使われるような生地。まさに鎧のようなジャケットであります。

ところが実際に着てみると、意外なくらいしっくりします。体にムダなくフィットするシルエットで、ストレッチ生地を使っているわけでもないのにしっくりくるのです。その理由はふたつあると感じました。

ひとつは、絶妙な立体裁断。とくにヒジまわりに顕著なのですが、ものすごく凝った裁断が施されています。なんだかよくわからないけど妙にしっくりくるこの着心地は、アークテリクスが長年のウエア作りを通じて、ミリ単位で磨き上げてきたパターニングの賜物なのだと想像します。こういう部分って店頭でさらっと見ただけでは本当にわかりにくいのですが、着てみればすぐ感じ取れます。理由はわからなくても、「なんかしっくりくるな」と感じるわけです。こういう見えにくいところにとことんコストをかけているのは、アークテリクスというブランドの価値だと思います。さすがF1カーブランド。

▲複雑なカッティングが施されたヒジ周り
▲腕利きの金属加工職人が合わせたような精巧な縫製
▲芸術的な袖の造形を見てほしい

もうひとつは、裏地のシーム処理。アルファSVには、幅8mmという極細のシームテープが使われています。地味な部分ですが、シームテープというのは意外なくらい着心地に影響するもので、どんなにしなやかな生地を使っていても、シームテープが太いと不自然な着心地になってしまうものです。

8mm幅のシームテープはゴアテックスの規格上、最も細いもの。ただしこれを採用するには高精度な加工技術が必要で、それができるメーカーと工場は世界でも限られるといいます。

▲これが8mm幅シームテープ。裏地も長持ちして環境にも影響の少ないドープダイ生地に新たに変更

試しに、手持ちのハードシェルやレインウエアの裏地を見てみてください。おそらくそのシームテープは22mmか13mm幅になっていると思います。8mm幅を使っているウエアは滅多にありません。わずか5mmの差ですが、この5mmによって着心地は大きく変わってきます。それは以前、8mm幅シームテープのジャケットを着ていて痛感したことです。

アルファSVの実地レビュー

さて、実際にこれを着て雪山に出かけてみました。
気づいたことは以下の3点です。

  1. 圧倒的な防風性能
  2. 硬さは意外と気にならない
  3. もしかして透湿性も高い?

圧倒的な防風性能

▲風に叩かれながらバックパックを整理するときも、ウエア内は平和

なんでしょう、この風の通さなさは。けっこうな強風に叩かれても、まるで板のように風をブロックし、ウエアの中は無風状態のような感覚なのです。この防風性の高さは、私がこれまで着てきたハードシェルのなかで一番であることは間違いない。

これは100デニールという極厚生地を使用していることが大きいと思うのですが、それだけではない。新型ゴアテックス プロはリニューアルにともない、「モスト ラギッド」(耐久性)、「モスト ブリーザブル」(透湿性)、「ストレッチ」(伸縮性)の3つのバリエーションができ、それぞれに特化した機能を従来より高めています。

同じ新型ゴアテックス プロでも、この3つのどれを使っているかは製品によって異なるのですが、アルファSVはモスト ラギッドを全面に使った耐久特化型のジャケットなのです。オールモストラギッドで構成したジャケットというのはこれ以外にはあまり聞きません。モスト ラギッドは、メンブレンからして厚手の専用タイプが使われています。これが防風性の高さにも貢献していることは間違いないでしょう。

ゴアテックスというと防水性ばかりが注目されますが、冬季用のウエアとして考えれば、それより防風性のほうがよほど重要なのです。数ある防水透湿素材のなかで、この防風性に関してはゴアテックスが頭ひとつもふたつも抜けている印象があります。しかもそのなかでも最強のモスト ラギッド。アルファSVがこれを採用した理由が理解できました。

ちなみに、これを着てスキーもしましたが、かなりスピードを上げても風はまったくといっていいほど感じませんでした。まさに、体の前面に防護バリアを張って滑っているような感覚です。

硬さは意外と気にならない

▲急傾斜の場所でも動きづらさは感じなかった

自宅で着てみたときは硬く感じたアルファSVですが、これを着て雪山を登ると、硬さは意識から消え、むしろ信頼感のほうが強く感じられました。

これが快晴無風の夏山であれば違うのでしょうが、雪山では常になにかしら風に吹かれており、基本的に余裕がありません。そうした条件では生地の硬さなどのデリケートな部分はあまり気になりませんでした。ガサガサする生地の音も、風の音に消されるうえに、そもそも雪山では耳まで帽子で覆っているので、大したストレスに感じないのです。

私はやわらかいウエアが好みで、これまではハードシェルも薄手のものばかり着てきたので、このことは自分的には発見でした。「さすがに硬すぎないか……」と家で感じた生地感が、条件が厳しくなるほど気にならなくなっていき、ある地点から逆に、体を守ってくれる信頼性に変化していったのです。

私はここで初めて商品名の「SV」(Severe Weather.)と付けられた意味を体で理解しました。これだけ丈夫な生地を採用しているのには、ちゃんと意味があったのだと。

ただし、森林限界より下の場所とか標高の低い雪山では、このメリットはあまり体感できないと思われます。大ざっぱな感覚としては、標高で2000m、風速10m/s以上になるようなコンディションで、アルファSVの価値は生きてくると思います。3000m前後になると、この頑丈さが絶対的な安心感に変わるでしょう。

もしかして透湿性も高い?

▲登りではけっこう汗をかいたはずなのだけど脱ぎたくならないのだ

頑丈さを主眼にしたゴアテックス プロ モスト ラギッドを使っているので、蒸れにくさはそれほど考慮されていないと思われるのですが、なぜかあまり蒸れない感覚がありました。これは下に着ていたウエアの機能も関係してくるのではっきりしたことがいえないのですが、「いつもより蒸れにくい……かも?」となんとなく感じた――くらいのことはいえそうです。

天気が悪くない限り、雪山ではある程度の標高に達するまでシェルは着ずに歩くことが多いのですが、今回はテストなので最初からアルファSVを着て登りました。が、登りで汗をかいても脱ぎたくなるまでに至らなかったのです。とくに我慢をするわけでもなく、結局、下山までずっと着ていました。

これが私の気のせいなのか、それとも根拠があることなのかはっきりさせたいのですが、ゴア社は数値的なスペックを公表していないので、モスト ラギッドは透湿性能も上がっているのかどうかがわかりません。ただ、旧来のゴアテックス プロに比べて蒸れにくいように感じたんだよな……。これは継続的に使ってみれば、もうちょっとはっきりしたことがいえるでしょう。

まとめ

まあ、さすがに10万円のジャケットだというのが、使ってみた感想です。とにかく、細かいところまでことごとく考え抜かれていることを感じます。使っていてストレスが本当にありません。そして条件が厳しくなるほど、よさが際だってくるのです。

文句を付けるところはほとんどないのですが、強いていえば、胸ポケットをもう少し容量を大きくしてほしいかな。外したグローブを入れておくときにやや余裕がなく感じました。

それからパウダースカートがない。これはバックカントリーで使う人にとっては難点になるでしょう。が、アルファSVはハーネス着用を前提にしたジャケット。ハーネスを付けるときはパウダースカートは邪魔でしかない。ならば要らない、というのがアルファSVの設計思想なのです。「あれば便利」程度の機能は全部そぎ落とす。だからこそF1カーなのであり、そこを日和ったら現在のアルファSVのステイタスは築くことはできなかった。ということであるはずなのです。

使用用途は――ずばり、アルパインクライミング。それも、スポーツ的なアイスクライミング等ではなく、がっつり山に入り込んで悪条件と格闘するような登山には最高の相棒となるでしょう。そこまでいかなくても、北アルプスや南アルプス、八ヶ岳南部あたりの3000m級の本格雪山登山をする人なら、これを選ぶ価値は十分にあると思います。3000mの稜線上での安心感、快適性がぐっと増すであろうことは保証します。

*ところで、このアルファSVをメインテーマに、昨年、オンライントークショー的なものに登壇しました。ほかではあまり聞くことができないかなり突っ込んだマニアックな話もしているので、ぜひご覧ください。

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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