八ヶ岳全山縦走! 網笠山から蓼科山まで3日間で一気に踏破! ーpart1ー
PEAKS 編集部
- 2021年06月18日
いつも遠くから眺めていた八ヶ岳。何度か登ったことはあるが、全山縦走はまだ挑戦できていない夢の計画だった。しかし、ついに願いが叶うときがきた! これは、観音平から大河原峠までいくつものピークを越えて、八ヶ岳全山を踏破した3日間の物語。
文◉田中 幸 Text by Sachi Tanaka
写真◉武部努龍 Photo by Doryu Takebe
取材期間◉2019年9月18日~20日
出典◉PEAKS 2020年5月号 No.126
この瞬間を感じるために、この場所にいるような気がした。
5年前、長野県佐久市に住み始めて一番感動したのは、佐久市からきれいに見える八ヶ岳連峰の姿。
「いつか全山縦走に挑戦したい!」
と思っていたもののなかなかタイミングが合わず、いつまでも頭のなかで計画は膨らみ続けていた。
そんな昨夏「今年こそ絶対に行く!」と決めた。数年分の想いが私を動かしたのだ。いっしょに行きたい人はすでに決まっていて、何度もいっしょに冬のバックカントリーツアーをともにした、信頼のおけるガイド・竹尾雄宇くんに声をかけた。
そんな雄宇くんからの推薦で、カメラマンは初対面の武部努龍くん。アウトドア関係の撮影もたくさんしていて、登山経験はかなり多そうだ。
この八ヶ岳全山縦走計画は8月上旬を予定していたが、台風が頻繁に発生してしまい何度も流れてしまった。天気に悩まされた夏だった。予定が何度も流れ、緊張感や期待感が緩み始めてきたある日、「初日は天候が崩れるかもだけど……」と雄宇くんから連絡があった。
私は「行こう!」と即断した。
当日の朝、私の車をゴール地点になる大河原峠にデポし、登山口までは雄宇くんの車で移動した。
朝4時半、観音平に車を停めていると、コンコンっと窓を叩く音。
ドアを開けて後部座席に元気よく乗り込んできたのは、雰囲気からしてアウトドア好きを感じさせる、真っ黒に日焼けした想像どおりの努龍くんだった。
登山のおもしろさは、登る前と登ったあとでパーティ間の関係性がグッと近くなること。今回のメンバーが3日目にはどんな気持ちで登山口に下りてくるのか、想像するだけで山行の楽しみが膨れ上がってくる。
5時をすぎるとうっすら明るくなり「じゃー行きますか!」と、自己紹介もままならないうちに私たちの長い長い縦走が始まった。
今回の八ヶ岳全山縦走は、一番南の編笠山から北の蓼科山まで延びる35㎞オーバーのルート。まずは観音平から編笠山まで一気に標高を上げる急登に気合いを入れる。
気持ちのいい傾斜の樹林帯からスタートした。
この日の天気は曇りで朝の風は強め、昼からひと雨くるかもという予報だった。それでもときおり立ち込めた雲のなかから強い光が差し込み、幻想的な霧のなかにある光を浴びながら、景色は見られないながらも気持ちよさが感じられた。
まずはサクッと1座目の編笠山に登頂!
周囲はなにも見えない。
次に目指す青年小屋までは大きな岩を渡り歩く道だ。このガスのなかでは赤くペイントされた矢印だけが頼りだが……。道を誤らないよう黙々と歩くと、霧のなかから突然青年小屋が出現した。
若い女性スタッフが「どうぞ~」と元気に迎えてくれたので、快く入り口のスペースで休ませてもらう。編笠山からの視界の悪さを体験した私たちは、ここでキレット小屋が開いているという情報を聞き、赤岳天望荘まで行く予定からキレット小屋に泊まることへ変更した。
青年小屋からはヘルメットを被る。足場が崩れ落ちそうなクサリ場も出てきて、荒々しい南八ヶ岳の特徴が徐々に現れ始めた。一気に気が引き締まる。真っ白な視界の権現岳に登頂すると、だんだん風が強くなってきた。
「早くたどり着いてくれ~」と願いながら進むと、「見えたよ!」と、先頭を行く雄宇くんからうれしい報告が聞こえてきた。
キレット小屋は新築のようにピカピカしていて、薪の香りが漂っている。まるで冬のおばあちゃんちの匂いのようだ。私は1人部屋の個室をいただき、4人は余裕で横になれそうな部屋一面に荷物を広げて、積まれた布団に寄りかかるとそのまま深い眠りに吸い込まれてしまった……。
目が覚めたのは14時すぎ。1階に下りると小屋番さんが登山道の標識を作っていた。山を歩いているときに手書きの標識を見ると安心するのは、こうして人の手で作られる温かさを、知らず知らずのうちに感じているからだろう。
外に出てみると霧は薄くなり、今回の山旅で初めて景色というものが見えた。天狗尾根のイカツイ稜線が聳え立っているのもシルエットで見える。なんて神秘的でものものしく迫力ある存在感!
初日の真っ白な世界から一転。赤岳からは遠くまで青空が広がっていた。
小屋に戻ると、ふたりも起きていた。500㎖缶ビールを3人で分けながら、今後の行程を話し合う。薪の香りもいいおつまみだ。
小屋の中は薪で焚くご飯の湯気で食欲をそそる香りが充満している。
そんなキレット小屋の夕食は、本物の釜土で炊いたごはんと手作りのカレー。お米の味は初めて食べるほどの甘さだった。
夕食を終えると外はもう真っ暗。
しかし風は止んで星空が見えそうなほど天候が回復している。先ほど見た天狗尾根のシルエットが一段とくっきり見え、一気に緊張感が湧き出てきた。この先どんな景色と険しい道のりが待っているのだろうか……。
そんな不安と緊張で眠れるか心配だったが、部屋に戻って薪ストーブの暖かさと快適な布団に包まれた私は、数分後には安眠していた。
>>>Part2はこちらから
竹尾雄宇
白馬や小谷、糸魚川を中心にバックカントリーツアーを開催するガイドカンパニー、番亭の代表ガイドでありスノーボーダー。JMGA登山ガイドステージⅡ、スキーガイドステージⅡ。
田中 幸
プロスノーボーダー。スロープスタイル選手として活躍し、現在はバックカントリーをフィールドに活動中。FM軽井沢の番組「ハッピーラジオ」のメインパーソナリティも務めている。
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文◉田中 幸 Text by Sachi Tanaka
写真◉武部努龍 Photo by Doryu Takebe
取材期間:2019年9月18日~20日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。