八ヶ岳全山縦走! 網笠山から蓼科山まで3日間で一気に踏破! ーpart2ー
PEAKS 編集部
- 2021年06月21日
いつも遠くから眺めていた八ヶ岳。何度か登ったことはあるが、全山縦走はまだ挑戦できていない夢の計画だった。しかし、ついに願いが叶うときがきた! これは、観音平から大河原峠までいくつものピークを越えて、八ヶ岳全山を踏破した3日間の物語。
文◉田中 幸 Text by Sachi Tanaka
写真◉武部努龍 Photo by Doryu Takebe
取材期間◉2019年9月18日~20日
出典◉PEAKS 2020年5月号 No.126
>>>Part1はこちらから
翌朝は5時にキレット小屋を出発。外は冬の朝を思い出すような冷たい空気に包まれていた。ヘッドランプが必要な暗さだが、街の明かりと富士山のシルエットははっきりと見えている。遠くの稜線までクリアだ。
歩き出してすぐ、気を抜けない片斜面のガレ場が現れた。両手でしっかり体を支えて登ると、樹林帯から出たあたりで突然風が強くなってくる。だが、少しずつ気温が上がってくるのを背中で感じられた。そろそろ太陽が昇りそうだ。
「モルゲンロートだ!」
雄宇くんが突然叫ぶ。耳元でバサバサ鳴るフードを取って振り返ると、言葉を失うような見たこともない絶景が目の前に現れた。
「これがモルゲンロート!?」
昨日歩いてきた道の山肌が、太陽の光を浴びてピンク色に染まっている。
「こんな色の山の景色は見たことない……」
その瞬間、風が止んで静寂が訪れた。時間が止まっているような錯覚にとらわれる。
「撮って撮って!」と、同じように景色に見惚れていた努龍くんへ、雄宇くんが慌てて声をかけた。5分後には影が広がり、通常の山の色に戻っていく。本当に一瞬のできごとだった。まるで夢を見ていたかのような気分。
しばらく余韻が残るような、催眠術にでもかかっていたかのようにも感じられた。
その後も険しいガレ場が続く。
「クライミング好きにはたまらないんだろうな」と想像できるくらい、緊張のなかにも余裕が生まれてきた。登ることに集中し続けたせいか、あっという間に小天狗に到着した。
日が差し込んだ山の稜線からは、360度どこを切り撮っても絵になる。赤岳にたどり着く前にこんな絶景を拝めるなんて!
そんな稜線からの景色だけでなく、傾斜のあるガレ場の登りも好きだということにも気がついた。山に来ると新しい発見がいくつもある。逆にガレ場の下りは大嫌い!
緊張に対する心構えが大きかったぶん、赤岳山頂までは体力的に余裕をもって登ることができた。
富士山まできれいに見えている。
天望荘からは登山者も増え、世界には多くの人々が生きていることを思い出した。ここからもハシゴやクサリ場が続く。集中力を持続させることに気力を存分に使う。
硫黄岳山荘に着くと、やっとひと息つけた。南八ヶ岳の難関はひとまずクリア!
山荘で水を購入すると、ここに来て初めてトレッキングポールを両手に持った。高山植物も楽しみながらの、大好きな長い稜線歩きが始まるのだ。
八ヶ岳登山で好きなことのひとつは、赤岳の姿をいろんな角度から楽しめること。赤岳山頂に立たなくても、「赤岳を見る」ためだけの山行を何度かしたことがある。
いろんな登山口が選べてルートも多彩。自分のレベルや求めるものに合わせて山登りが楽しめるのも良いところだ。毎回八ヶ岳に来ては「次はこういうルートでもいいなー」とか、山行プランを考えながら楽しんでいる。
しかし、私がなによりも一番好きなポイントは、硫黄岳から眺める赤岳の姿。この絶景のなかでお弁当を食べると、ぜいたくなピクニックをしている気分が味わえる。
硫黄岳の迫力ある噴火口が見えてくると、私の苦手なガレ場の下りが始まった。それでも黙々と歩みを進める。夏沢峠に着くころには半袖で歩けるほどの気温になっていた。
赤岳が2899mで夏沢峠は2430m。すでに陽も高く昇る時間。気温も上がるはずだ。
ちょうど良さそうな岩に腰掛けて、軽い食事と休憩を済ませる。
いよいよ北八ヶ岳と呼ばれるエリアだ。夏沢峠からはおもしろいくらいに景色がガラっと変わった。
やっとヒヤヒヤしない場所まで来たのだ。森のなかを歩くと心地よい安堵感が訪れた。
根石岳から東天狗へ続く道には、まるで雪のように丸くて白い小石が登山道に散らばっていて、気持ちのいい稜線歩きが楽しめる。
しかし初日の行程を短くしたため、次の宿泊地である白駒荘までの到着時間を気にしなければならない。
稜線の途中から天狗の奥庭へ向かうルートを進むことにした。
大きな岩の積み重なる道が、遠くに見える黒百合ヒュッテの屋根まで続いている。
「え? この道をずっと歩くの?」とびっくりしたが、ふたりとも口を開かずそれぞれのペースで淡々と歩いていく。
必死についていくと、おもいっきりスネを何度か岩にぶつけ、歯を食いしばるほどの激痛に耐えることになった。
いま思い返しても、今回の八ヶ岳全山縦走でキツかったトップ3に入る場所だ。なんといってもこの日はキレット小屋からすでに10時間も行動している。
やっとの思いで黒百合ヒュッテに到着したのは15時を回ったところ。疲労困憊のなかコケモモマフィンを注文したが、ゆっくりと味わうことができなかった……。
黒百合ヒュッテからは心地いい木道歩きが続く。途中で高見石に立ち寄ると、白駒池を上からきれいに望むことができた。
「ここから眺めるご来光は、さぞすごいことだろうね!」とふたりが言う。明日もう一度白駒荘から高見石まで戻ってきて、朝日を見に来ようということになった。
結局、白駒荘に到着したのは16時半すぎ。じつに11時間半のロング縦走になってしまった。あー、疲れたー。
自家製野菜の天ぷらをはじめ、地産地消の料理を味わえる白駒荘の夕食で至福の時間を堪能し、ビールを飲みながら地図を広げる。
「夜起きて星空を見ようか」とも話していたけれど、フカフカの布団と檜のいい香りに包まれて、朝までぐっすり眠ってしまった。
>>>Part3はこちらから
竹尾雄宇
白馬や小谷、糸魚川を中心にバックカントリーツアーを開催するガイドカンパニー、番亭の代表ガイドでありスノーボーダー。JMGA登山ガイドステージⅡ、スキーガイドステージⅡ。
田中 幸
プロスノーボーダー。スロープスタイル選手として活躍し、現在はバックカントリーをフィールドに活動中。FM軽井沢の番組「ハッピーラジオ」のメインパーソナリティも務めている。
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文◉田中 幸 Text by Sachi Tanaka
写真◉武部努龍 Photo by Doryu Takebe
取材期間◉2019年9月18日~20日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。