八ヶ岳全山縦走! 網笠山から蓼科山まで3日間で一気に踏破! ーpart3ー
PEAKS 編集部
- 2021年06月22日
いつも遠くから眺めていた八ヶ岳。何度か登ったことはあるが、全山縦走はまだ挑戦できていない夢の計画だった。しかし、ついに願いが叶うときがきた! これは、観音平から大河原峠までいくつものピークを越えて、八ヶ岳全山を踏破した3日間の物語。
文◉田中 幸 Text by Sachi Tanaka
写真◉武部努龍 Photo by Doryu Takebe
取材期間◉2019年9月18日~20日
出典◉PEAKS 2020年5月号 No.126
>>>Part1、Part2 はこちらから
朝4時に白駒荘を出発する。いよいよ最終日!
「今日で終わってしまうのか」と、励まし合ってみんなで登った山行の楽しさを噛み締めながら、前を行く仲間の後ろ姿について行く。
高見石小屋まで来ると、鬱蒼と茂る森の間が明るくなり始め「まだ着かない? ご来光に間に合う?」と、急いで高見石に取り付いた。
「わぁーっ!」
雲海がずっと遠くの地平線の向こうまで広がっていた。いまにもあふれ出しそうな朝日の光が見え、雲海の上にはウロコ雲のようなきれいな雲の層がある。それがどんどんご来光を迎えるように消えていくのがわかる。すると突然、オレンジ色の強い光が雲海の上から広がった。
「きたーっ!」
ご来光が見えた瞬間、雲の上にぽっかりと浮かんだ島にいるような感覚に捉われた。なぜか涙がこみ上げてくる。この瞬間を感じるためにいまここにいるような気がした。この風景を自分の目に焼きつけたい。
そんな、ずっと眺めていたくなる景色が広がっていて、私たちは変わりゆく目の前の世界に、ただただ感動していた。
白駒荘で用意してもらったお弁当で朝食を済ませて、次に目指したのは北横岳!
北八ヶ岳の特徴である、美しく幻想的な苔むした道が緩やかに続く。
坪庭に到着すると、しばし小休止をとることに。ロープウェイから山に登ってくる人たちを見ながら、「いまの私の足とあの人たちの足、取り換えられたらどれくらい疲れが違うんだろう」なんてつまらないことが頭に浮かんでいた。
ダメだ。頭を切り替えて出発だ!
北横岳の山頂に立つと、今回の縦走計画の最後の1座である蓼科山がどーんと私たちを待ち構えていた。振り返れば、いままで歩いてきた八ヶ岳連峰の山々がくっきりと見えている。それは、ここがゴールでもいいんじゃない?
と思わせてくれるくらいパーフェクトな景色だった。
ここからは、せっかくいままで登ってきた標高をグンと落とす1時間の長い下り。蓼科山は八ヶ岳連峰のなかでも稜線で繋がっておらず、滝ノ湯川が流れる谷を越えるのだ。
亀甲池まで下りて昼食休憩をとることにした。ついにここまで来たのかと、少し寂しさにも似た気持ちを感じる。しかし、まさかこの先が今回で一番のハードなポイントになるとは、このときはまだ思ってもいなかった……。
歩きやすい林道が続いたのは束の間、ゴツゴツとした岩が不規則に配置された道が始まった。私にとっては天狗の奥庭の比にもならない難路。急登のため、足を一歩出すのにも岩にしがみつき、よじ登りながら進む。額からの汗がポタポタと足元の岩を濡らした。
「忍耐」や「修行」といった言葉が頭のなかをぐるぐる回りだす。
ただ目の前の岩をよじ登るという動作にだけ集中した。
ようやく将軍平に到着すると、みんなで汗を拭って呼吸を整え、励まし合う。まるで部活に夢中だったころの熱い気持ちが蘇ってきたみたいだ。ここまで来たら完璧なエンディングを飾りたい。
そんな思いで歩くラストスパートは、足が進みに進んだ。八ヶ岳を全山縦走してきたのに、こんなに体力残っていたんだなと、驚くほどのスピードが出る。本当にタフなメンバーだ。
「気持ちいい! 楽しい!」と、アドレナリンが出てハイになっていた。
「やったーっ!」
ついに蓼科山に登頂!
3人でハイタッチを交わす。そして、そこには疲れが吹っ飛ぶ景色が広がっていた。編笠山から赤岳、歩いてきた八ヶ岳の山々すべてが見えている。南アルプスや北アルプスの稜線もクッキリ!
これは最高のご褒美だ。
初日の視界不良な天気も、この感動を迎えるために必要だったんだ。そんなことを思いながら八ヶ岳の山々を眺めていると、蓼科山だけ谷を挟むのに、なぜ八ヶ岳連峰に入るのだろうと疑問が湧き起こった。
「きっと八ヶ岳が一番きれいに見渡せるからだね!」
だれからともなく口にした。思わず妄想が声に出ていたようだ。
雪山をスノーボードで滑る私は、雪のない山を登ることも自然への感謝や人間の尊さみたいなものを、ゆっくりと再確認する時間になっている。
いっしょに登る人や季節が変われば、新しい感動や発見にもめぐり合え、人生をさらに豊かにしてくれる。八ヶ岳全山縦走は想像していたよりもずっとハードだったけれど、私に自信と勇気を与えてくれる経験になった。
そしてなにより、3日間の縦走をともにした時間のおかげで、新しい山仲間も誕生した。
そこには、疲れが吹っ飛ぶ景色が広がっていた。
ついに最後の大河原峠まで到着。
だが、出発地点の観音平までデポした車を拾うための1時間のドライブが残っている。今回の山での話をみんなで振り返り、車窓から見える八ヶ岳連峰を眺めながら、もう少し私たちだけの八ヶ岳時間を楽しもう!
登山靴を脱ぎ、温かいアスファルトの上でしばし開放感を味わってから、気分爽快に車のイグニッションキーを回した。
>>>この山行の際の二人の装備はこちらから
竹尾雄宇
白馬や小谷、糸魚川を中心にバックカントリーツアーを開催するガイドカンパニー、番亭の代表ガイドでありスノーボーダー。JMGA登山ガイドステージⅡ、スキーガイドステージⅡ。
田中 幸
プロスノーボーダー。スロープスタイル選手として活躍し、現在はバックカントリーをフィールドに活動中。FM軽井沢の番組「ハッピーラジオ」のメインパーソナリティも務めている。
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文◉田中 幸 Text by Sachi Tanaka
写真◉武部努龍 Photo by Doryu Takebe
取材期間◉2019年9月18日~20日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。