雪山初心者はより慎重に!雪山山行計画を立てるときの注意点
PEAKS 編集部
- 2022年02月22日
INDEX
登山をするにあたって、いのいちばんに考えるべきことは登山計画です。
まずは自分にとってのベストなレベルを見極め、レベルに適した山とルートを選ぶといった計画を立てることから、登山自体は始まっているのです。
雪山初心者の場合、多くの登山者が訪れるような比較的メジャーなルートを選択するのがベストです。
初心者のみで登山をする場合は特に慎重な計画を立て、たとえ経験者に同行してもらう場合であっても、自分自身での情報収集は怠らないようにしましょう。
文・写真◉川名 匡
イラスト◉藤田有紀
Text by Tadashi Kawana
Illustration by Yuki Fujita
気象条件をしっかり把握、夏山との違いを知っておこう。5つのポイント
夏山(無雪期)との違いはまず雪があること。そして低温や強風などを意識した厳しい気象条件に対応する計画ということになる。
1.営業している山小屋情報をしっかりとチェックしよう。
積雪情報しかり、現地の最新情報を得ることも重要だ。
とくに山小屋利用の場合は、その時期により休業している小屋もたくさんあるため、まず目的のルート上にある営業小屋の最新情報を得る必要がある。
小屋に直接連絡を取れば、小屋までの積雪状況や最新のルート状況を確認することもできる。
2.積雪があることによって無雪期と行動時間が変わる。
無雪期の登山道ではない冬専用のルートを取る場合もある。
また、無雪期と同様の登山道を移動するとしても、雪上や氷結した道を歩くため、その移動時間は雪の積もり方や凍り方に大きく左右される。
登山地図などに表記されたコースタイムは、参考程度と考え、所有時間はルートごとにそのときどきの状況を加味しなくてはならない。
また、積雪量の多い地域は、雪崩の危険や急な斜面などで厳しい場合に、冬専用の迂回路などを使う場合もあるため、計画時での所要時間の算出は慎重に行なう必要があるだろう。
大量積雪によるラッセルや強風・吹雪など、悪天候に遭遇した際には、さらに所要時間が大幅に超過する場合もある。余裕を持った行程を考えたい。
また冬に初めて行くルートは、できれば無雪期に歩いていて、地形などを把握している場所がよい。
3.無雪期よりも楽な場合もある。
先に雪山に登るためのネガティブな(慎重な)状況ばかり上げてはみたが、じつは良質な歩きやすい雪が積もることでいいこともある。
夏場は石がゴロゴロしていたり、段差が厳しかった登山道も、雪が積もることで凹凸がなくなり歩きやすくなる場所も多い。
また積雪により登山道以外を移動することもできるので、場合によっては蛇行した長い登山道をショートカットしたりすることもできる場所もある。
ただし、ショートカットはルートの掌握が必要。それについても計画段階で加味することもできる。
4.行動時間や装備の増加に伴う疲れに注意!
行動時間が延びたり装備が多くなることにより、体力的に厳しいこともある。
無雪期の間に、雪山で想定される装備やそれ相当の重量を背負ってみて、トレーニングをしてもよいだろう。
軽量化は重要だが、必要な装備となにかあった際の最低限必要な非常用装備の携帯も必携。
5.計画を立てるうえで役に立つ情報収集方法は?
計画を立てるうえで、その場所(ルート)の情報を得るためには、ガイドブックや地元の自治体に問い合わせるのもいいが、夏山と違って雪山としての情報は少ないだろう。
そのため情報を得やすいのはインターネットで、さまざまな検索ワードで調べていくといいだろう。
“〇〇山積雪期”、“〇〇ルート1月”など、その時期や雪に関するワードを入れる。そうすれば、メジャーなルートであればいくつかのレポートにたどり着くことができるだろう。
なお、個人で上げているレポートには誤りや、その人独自のコースタイムなども多々あるため、複数のレポートを読み比べることが大切だ。
しっかりと危機管理、雪山のリスクと対策。6つのポイント
雪山に限らず自然のなかに飛び込む登山は、都会育ちの登山者にはリスクが沢山あるが、そのなかでも雪山であるがゆえのリスクもまた多い。
重要なことはその危機管理。どんな危険があるのかという危機意識をつねに持つことにより、ほとんどの危険は回避できるのだ。
1.雪目
紫外線量は標高が上がるにつれて多くなるが、さらに雪の反射で倍増(約80%増)し、真夏の砂浜の約3倍にもなる。
雪目とはその紫外線を大量に受けることによる角膜の炎症のことで、簡単にいえば目の日焼けだ。
最初は目がゴロゴロしたりシバシバしたりの症状だが、やがて症状が悪化すると痛みで目が開けられなくなる。
目が開けられないということは登山行動に最大支障をきたす緊急事態。
予防はその紫外線をカットするサングラスやゴーグルを装着すること。曇りのときも注意。
2.凍傷
凍傷は露出した皮膚表面が凍り付くことで、そのまま放置すると皮下脂肪まで達する。
雪山でも露出することが多い顔面や、末端で血液の循環が鈍くなる手や足先などは凍傷になりやすい。
風の強い稜線では、顔面をバラクラバで覆うことで防止し、手の先はしっかりとした冬用の手袋(防風対策)で覆う。
足先は防寒性能のよい冬用の登山靴と靴下で対応するが、靴下を必要以上に重ね履きしたり小さいサイズの靴で足を締め付けない(血行を悪くしない)ことも重要。
3.低体温症
身体全体(とくに内臓などのコア部分)が冷えて体温が低くなるのが低体温症だ。体力を消耗した状態で、低温に晒されることで起きる。
低体温症は夏場でも標高の高い山では雨などで身体を冷やされることで起きるが、とくに雪山では、低温や悪天候、身体の濡れでの症状悪化が考えられ、最悪の場合は意識障害や行動不能となってしまうことも。
逆に寒さを意識して厚着しすぎで汗をかいてしまうことにも注意。身体をつねにドライに保つことと、防風対策を考えたアウターが重要。
4.ホワイトアウト
登山道が積雪により消え、なおかつトレースもない状態で、ホワイトアウトとなると、道がわからなくなる危険がある。とくに森林限界の広い尾根上では細心の注意が必要だ。
大雑把な地形を記憶しているだけであったり、方向感覚への過信で危機に陥ることが多い。
また地図とコンパスを所有していても、正確な現在地がわからないと役に立たない。
最近はスマートフォンなどのGPSが使えるので有効ではあるが、電子機器の場合はバッテリ ー切れもあり得るので、注意が必要。
5.雪崩
一般に傾斜角30度前後の積雪斜面で、気象条件を含むさまざまなきっかけによって雪崩は発生する。
起こるメカニズムと回避方法を習得すれば、ある程度の予知・予防ができる。
まず雪崩が起きそうな斜面にはできるだけ近寄らないこと。そして危険地帯を通過する場合にはスピーディに動くこと。その知識がないうちは、危険地帯のない山に行くこと。
そして万が一の場合に備えて、雪崩ビーコンやシャベルなど、雪崩対応の装備を身につけ使い方を熟知することも重要だ。
6.滑落
初心者の積雪斜面の滑落は、そのほとんどがクランポンの不備と技量不足で発生する。
さまざまな気象条件、積雪の質、傾斜の角度、進行方向などに対応したクランポン歩行の訓練・講習などを、滑落の危険がある雪山に行く前に経験しておくと良い。
アックスを使った、いわゆる滑落停止訓練・講習も必要だが、それよりもまず、滑らない歩き方を習得することが重要だ。
簡単な雪山で訓練・経験を積むのもいいだろう。反復練習と経験を積むことにより、危険のリスクは大幅に減少する。
雪山、どうやって始めるべき?
無雪期の登山を始めるとき以上にハードルが高い雪山。
まずは経験者に連れて行ってもらい、現地で経験しながら習得していくのがいいだろう。
身近に連れて行ってくれる経験者がいない場合は、以下の方法も選択肢としてありだろう。
ガイド登山を利用してみる。
1対1から山に連れて行ってくれる個人ガイドは、技術レベルや行きたい山、したいことを的確に判断してもらえるので、とくにこれから雪山を始める人にとっては最適な選択ともいえる。
ただし、コスト的に高いことがハードルではある。
また、個人ガイドを選ぶ際は、そのガイドがどのようなルートをガイドしているか、自分に合う人かをしっかり見極めるといい。
登山ショップやツアー会社のツアー登山に参加する。
登山ショップやツアー会社が企画する雪山ツアーに参加する場合は、その冬装備を購入するショップに行けば企画のパンフレットなどが容易に見つけられる。
ツアー会社系の企画も、インターネットなどで容易に検索できるだろう。
技術習得よりも参加している同レベルの人たちとの交流も含め、山登りの世界を広めるきっかけになるだろう。
山岳会や山のクラブに加入してみる。
入会までのハードルは高いが、技術を系統立てて習得したり経験を積むには、専門的な習得方法を熟知したリーダーがいる山岳会やクラブに入ることが雪山技術を磨くにあたってはいちばんの近道といえる。
コスト的にはいちばん安いが、効果的に技術習得できる山岳会ほど硬派なイメージは強い。
入会にあたっては十分に検討する必要がある。
教えてくれた人
川名 匡
日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ/山岳会「森羅」代表・チーフリーダー。
山岳ガイド歴25年の大ベテラン。近年は初心者向きの山行が多い。
川名匡山岳ガイド事務所
山岳会「森羅」
mail:mt@tk5.jp
(出典:PEAKS 2020年12月号 No.133)
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文・写真◉川名 匡
イラスト◉藤田有紀
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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