登山を楽しむための「地図読み”読図”」の基本3Step!地形図で山を知る
PEAKS 編集部
- 2022年03月05日
INDEX
登山という行為は、自分で計画を立て、自分の意思決定で山を移動するアクティビティだ。そのためには事前に登る山を知っておくことが大切で、知るための手がかりとなるのが地形図だ。登る山をより楽しむための要素として、地図読みの重要性を笹倉孝昭ガイドが解説する。
文◉笹倉孝昭 Text by Takaaki Sasakura
イラスト◉尚味 Illustration by Naomi
出典◉PEAKS 2021年2月号 No.135
教えてくれた人
笹倉孝昭さん
山岳ガイド。測量事務所でアルバイトとして勤務していた過去を持つ。地図が作られていく過程を現場で見たことは、登山者として地図を読む立場になっても役に立っていると実感している。
「地図を読むことは山のようすを知る作業です」
「登山は立体的かつ長距離歩行の野外活動です。山容に合わせて、登ったり、下ったり、水平に歩いたりを繰り返しながら、長い距離を移動する行為といい換えてもよいでしょう。
確実に移動するためには、自分が歩くルートの特徴や山のようすを事前に把握し、ルート上のどの辺りにいるのかという現在位置の確認をつねに行いたい。しかしながら、この確認作業は頭のなかにルート概要と地形概念が格納されていなくてはできません。
登山は行動を自分で管理するアクティビティであり、計画と実際の違いを照合して歩く行為です。ただ歩くことと、計画したルートをたどりながら移動することはまったく別物です。前者は気ままな散策で後者こそ登山(マウンティング)です。
地形図を読む、あるいは読み解く作業が重要なのは、この作業を行う過程こそが、ルート概要と地形概念を頭のなかに格納することに役立つからにほかなりません。
登山の準備として地形図の上にルートを引き、尾根や谷、ピークやコルなどの顕著な地形、傾斜、崖や露岩などの険しい箇所を確認しながら山全体のようすを想像します。スタートとゴールはもちろん、ウェイポイント(通過点)も明確にしておきましょう。
そして、ウェイポイント間の標高と標高差、標高差の累計を登りと下りに分けて集計したもの、さらに区間毎の所要時間とそれらを合計したトータルの行動時間を算出する。これらの作業で得られる成果物、つまり概念図、高度プロファイル、行動時間が登山計画と呼ばれるものになり、実際の登山活動と比較する基準値となります。
結果として得られるものも重要ですが、読み解く作業にかける時間と手間は、山のようすを記憶するということに関していえば、結果以上に重要な要素です。読み解いた結果を登山中に活用するために、行動時間の計測は必ず行いましょう。経過時間との差違を推しはかる大切な情報となります。
また、GNSレシーバー(※)による位置確認も行ったほうがいいですが、ルート概要や地形概念が頭に入っているうえで行動指針に役立つものであると認識しておきましょう。」
※GPS受信機を含む衛星による位置情報システムの総称
【Step 1 登山前】地形図からしっかりルートを把握
Point:地形図から概念図を書き起こしてルートのようすを把握する
①概念図をつくって地形図を理解する。
地形図のままでは情報が多いため、特徴的な地形を抽出して覚えやすくしよう。概念図とは尾根、谷、ピーク、コル、建物などを図案化したものだ。ラフなイメージを頭のなかに格納しておくことで、必要なときにすぐに読み出せるようになる。
②ルートを確認する。
スタート地点からウェイポイント(通過点)を経由して目的地までのルートを地形図上に示すことでフルトラック(全行程)のイメージを把握する。このときウェイポイントの標高、区間距離と区間毎の所要時間も確認しておこう。
③高度プロファイルをつくる。
ルートの確認作業で調べたウェイポイント(通過点)の標高をもとに高度プロファイルを作成する。高度プロファイルとはルートのアップダウンをグラフ化したものだ。
表計算ソフトで散布図を作成、国土地理院Webの断面図機能を利用してもよい。
④行動時間を算出する
ウェイポイント(通過点)間の所要時間を集計して全体の行動時間を予測しておく。傾斜や険しさによって調整が必要になるが、一般的には標高差300mの登りが1時間、下りは40分程度を目安とすればよい。
【Step 2 登山中】立ち止まってしっかり観察
Point:行動中は「山(=目の前の地形)」をしっかり見る
①まず山を見る。
行動中は周囲を観察する。概念図と、ルート全体のイメージと、見えている地形を照らし合わせて、自分の現在位置を確認しつつ行動していこう。周囲を観察する目的はナビゲーションだけではない。落石などの危険を察知する意味もある。
②「イメージと違う」と感じたら“STOP”!!
以下の“STOP”の手順でルートの修正をしよう
- S:stop=立ち止まる T:think=考える
O:obserb=観察する P:plan=行動プランを決める
概念図やルートのイメージと状況が違うと感じたら、まず立ち止まる。次に考える。周囲をじっくりと観察して、正しいルートへ戻るプランを立てる。この4つのステップの頭文字をとって「STOP」と呼んでいる。
④行動時間を管理する。
区間毎の予測時間と実際に要した時間を記録する。遅延があった場合はその理由をその場で検証しよう。スタート地点に引き返せるリミットは中間地点の予定時間が目安となるので、判断は中間地点までに行ないたい。
【Step 3 下山後】答え合わせをして次に活かす
Point:もう一度見直して答え合わせをする
①行動時間をチェックする。
下山後は記録した行動時間を確認しよう。この作業によって、実際の地形やルートの険しさと要した時間をリンクさせることができる。これが次の山行の時間算出の基準になる。この記録が蓄積されれば、計画の精度が高くなる。
②地図上でルートの確認をする。
なにも書いていない地形図に歩いたルートを記憶だけで記入してみよう。このときどれくらい正確に山を観察したかが試される。ルートの軌跡をログで記録していれば、記憶と照合して答え合わせをしてみるのもいいだろう。
③地形図と実際の地形を繋ぐ。
①と②の作業は地形図と実際の地形を繋ぐ役割を持つ。登山前に地形図を読み込み、実際に歩き、下山後に検証することは、地形図の読み解き方を覚える学習方法になる。登ったきりで終わらずに検証する時間を持つことが大切だ。
Q.登山地図の役割とは?
A.コースタイムにフォーカスしたもの。
登山地図は地形の把握よりも特定山域のコースタイムや登山道の状況、小屋や交通機関の情報などを伝えるために作られたものだ。山域全体を見通せるように作られているため、縮尺はエリアによって異なり、大まかになっていることもある。そのため地形の特徴を知るには縮尺が一様な地形図を使うほうがよい。
しかしながら、毎年更新されている登山地図からは、災害によって通行止めになっているとか、交通機関に変更があるなどの新しい情報を得ることもできる。登山エリアのさまざまな情報は登山地図から得ると効率がいい。登山地図は地形図と併用しながら登山計画に役立ててほしい。
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文◉笹倉孝昭 Text by Takaaki Sasakura
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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