山での『擦り傷・切り傷』どうする?|医療の専門家に聞いた、山のフィジカルトラブル対処法
PEAKS 編集部
- 2022年03月16日
登山中、医療機関から遠く離れた場所で、専門知識も持たない私たちは、ケガなどに対してどのように向き合えばいいのか。救急医の伊藤 岳さんに、岩肌に肘や膝をぶつけて血が出てきた、転倒して頭を切ったといった「擦り傷・切り傷」への対処法を教えてもらった。
INDEX
擦り傷・切り傷への対処法
転んだりなにかに体を強くぶつけたりすると皮膚が傷つき、出血を伴うことがある。私生活も含めて、擦り傷と切り傷を経験したことがない人はほぼいないだろう。そのため、範囲が狭い小さな傷なら、多くの人が絆創膏を貼るなどして対処できるはずだ。
しかし、絆創膏では覆えないほどの広範囲を負傷した、負傷箇所が土や砂などでひどく汚れている、見るからに大量の出血が確認できる場合などはどうだろう。
小さな傷も大きな傷もやることは同じ。「洗浄」「止血」「被覆」が対処法となる。洗浄とは文字どおり、傷を水などで洗って汚れを落とすこと。止血は手などで傷口を圧迫して行なう。被覆は、ガーゼ、包帯、防水フィルムなど使用して負傷箇所を覆うことを指す。
見るからに出血量が多い、止血を試みても出血が止まらない、出血が続いて意識がボンヤリしてきたなどは危険なサイン。ひとりでできる対処法に固執せず、救助要請を考慮しよう。
擦り傷や切り傷は、皮膚の露出を減らすことも事前対策のひとつ。併せて技術・体力・時間に余裕のある登山計画を立てること。
事前対策
長袖長ズボンを着用する
運動量が多い人や暑がりな人のなかには、半袖短パンで山に登る人もいるだろう。しかし、長袖長ズボンを着用して皮膚の露出を避けることで、予防できるケガもある。
手袋も身につける
皮膚の露出を避けることは手も同じ。転倒などで手の平を負傷するといった事態を避けるために、手袋も着用したほうが良い。通気性に優れたグローブなどが市販されている。
ヘルメットを装着する
転倒などで負傷して頭部をケガする人は意外と多い。頭をケガから守るにはヘルメットの装着が有効だ。転倒・滑落の危険性が高い場所での適正使用が求められる。
具体的な対処法
負傷箇所を洗浄する
石など大きな異物を取り除き、水をかけながら傷をこすり洗いして汚れを落とす。穴を開けたキャップを使うと節水しながら圧をかけた洗浄が可能。手には防水手袋を装着する。
圧迫して止血する
手の平や指などで出血箇所をピンポイントに直接圧迫する。出血の勢いや量にもよるが、まずは5分間圧迫してみて、止血できないときはさらに長い時間圧迫してみる。
ガーゼなどで被覆する
最後にガーゼなどで傷口を覆い、包帯やテーピングテープ、防水フィルムなどで固定する。止血できなかった場合も、包帯などで最終的には圧迫が継続されるような状態を作る。
教えてくれた人:救急医 伊藤 岳さん
兵庫県立加古川医療センター救急科長。公益社団法人日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長。2010年から北アルプス三俣山荘診療所で、夏山診療に従事する。
※この記事はPEAKS[2021年3月号 No.136]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
Info
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文◉吉澤英晃 写真◉増川浩一、樋口勇一郎、野口祐一、落合明人、宇佐美博之、武部努龍
イラスト◉藤田有紀、森 朗 監修◉伊藤 岳
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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