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心構えの第一歩。ファーストエイド&エマージェンシーキットの『持つ意味と考え方』

ファーストエイド&エマージェンシーキットは、山行の必需品ですが、ただ持っているだけでは意味がありません。

なにより重要なのは、自分のプランに合った適切なキットを携行し、的確な思考と判断で正しい対応をすることです。

今回は、山岳ガイドの近藤健司さんに万が一の場合に最善の判断と行動ができる考え方の基本や、アウトラインをご指導いただきました。

低山も8,000m峰もリスクマネジメントは同じ。

山では自己責任だけではすまないことがほとんど。たとえ単独登山であっても、山で活動すること=周りの人を巻き込むことになる。万一の際、自分が助かればいい、あるいは助かることだけを考えればいい、ということではない。

ひとりでは人を助けることができない(難しい)、ということも認識する必要がある。パーティ山行であっても少人数での救助は困難だ。人ひとりを運ぶのに何人必要だろう? 背負って第三者に引き渡すまでひとりで安全に移動できる場合は別としても、担架で運ぶことも考えれば6人が必要だ。

“6人”。これが最少のパーティサイズだと近藤さんは言う。ここから人数が減るぶん、リスクは大きくなる。単独登山者や少人数登山者は、そのリスクを大きく認識することが重要だ。

こうしたレスキューの考え方、心構えの第一歩が、「ファーストエイドの作り方」や「仲間との準備や装備の共有」ということ。その考え方の基本、核となる要素を紹介していく。

私が教えます! 近藤謙司さん

国際山岳ガイド。「アド 山ベンチャーガイズ」代表。

チョ・オユー無酸素登頂、チョモランマ冬季北壁最高地点到達などの記録をもち、エベレストをはじめとした8,000m峰、アイガー、マッターホルンをガイドすること通算100回をゆうに超える。

主な著書に、『エベレスト、登れます。』(産業編集センター)など。

【CHECK.1】シミュレーションこそが大事
「レスキューとリスクマネージメント」

まずセルフレスキューの基本について。

重要な考え方は、「自分たちでなんとかすること」ではなく、「速やかにプロのレスキュー隊に引き継ぐこと」もちろん、自分たちで対応できることは実行する。ただし、できない場合の判断を即座に下すことが最重要だ。

考えているうちに取り返しのつかないことになってしまう。その判断基準のひとつは、歩けるかどうか。

「歩けない」場合は、速やかに救助要請をする。第一報は必ず警察にすること。

警察が受けた場合は、連絡元の位置が記録される。現在地を知ってもらえる大切な手段となる。

リスクマネジメントの最大のポイントは、シミュレーションだ。計画書の作成、その際の読図、必要なファーストエイドキットをつくる……。

これらはすべて、現場で起こりうるリスクを想定し、万一の際にどう対応するのか、そのために必要な装備はなにか、ということを具体的に考えることからはじまる。

そのうえで、一連のことを現場で即座に判断し、実行するための準備をする。これがリスクマネジメントの要となる。具体的なリスクマネジメントができたら、知識、技術を高め、かつ情報は山行メンバーと共有する。この繰り返しの継続が、安全快適な山行に繋がっていく。

レスキューの流れ

セルフレスキュー

事故発生後に事故者の仲間やその場に居合わせた人たちが行なうべき初動救助。

プロに比べるとシステム的ノウハウが少ない場合や、人数が少ないといったことも懸念される。

プロのレスキュー隊

組織的レスキュー(チームレスキュー、第三者レスキュー)。

警察、消防、民間などの組織だった救助隊が、十分な人数と装備(場合によってはヘリコプターも)を揃えて行なう。

救助要請後は、安全な場所で待機しよう。

【CHECK.2】プランニング
「計画書なくして、山に入るべからず」

「計画をテキスト化することで、その山行の50%が成功している」逆にこれをしていない人は、すでに50%の確率で遭難している。そう心得たい。

かつては、計画書は「書面にしろ!」と先輩に言われ習ったものだが、現在はワードやエクセル等で作成し、メールなどで共有するほうがいい。

データ作成した計画書は、警察の地域課や役所の観光課などのアドレスに送ることもできる。

たとえば「コンパス~山と自然ネットワーク」などを利用すれば、フォーマットに沿って計画書を作成し、かつデータの共有がオンラインで可能だ。現地での更新もできる。大いに利用すべきだ。

計画を立てる際、確認しておきたいポイントは、地図下の項目のとおり。各項目の想定しうるリスクを具体的に把握・共有し、リスクへの対応策をシミュレーションする。

たとえば、季節に関してなら春と秋の違い。同じような季節と思いがちだが、春は冬型の体質・気持ちからの移行、秋は夏型からの移行という違いがある。同じ気温でも体感が異なることで、体への影響にも大きな違いが生じる。実際、機能障害による事故や傷病の発生は秋が非常に多い。

また、日照時間や日没時刻も異なるので確認する。対応策としては、グローブは予備を必携するなど、まずは的確なウエアと装備を考えて携行することだ。不確定要素が内在する山では、想定されるリスクを最大限シミュレーションし、準備に反映する。これがプランニングの核となる。

山行ルートのシミュレーション

北アルプス表銀座縦走コース(中房温泉~燕岳~大天井岳~槍ヶ岳~上高地)

距離:約37km(登り:約3,290m/下り:約2,190m)
季節:無雪期(夏) 行程予定:2泊3日(最終日に上高地に泊まる場合は3泊4日)
【1日目】 中房・燕岳登山口~燕山荘~燕岳~燕山荘~大天井岳~大天荘(泊)
【2日目】 大天荘~西岳~水俣乗越~ヒュッテ大槍~(天候次第で)~槍ヶ岳~ヒュッテ大槍(泊)
【3日目】 ヒュッテ大槍~(2日目不可の場合、槍ヶ岳)~大曲~槍沢ロッヂ~横尾~徳沢~明神~河童橋~上高地バスターミナル

そのほかの留意点

エスケープルート

途中下山や引き返しの選択は午前中に判断するのが理想。

初日はスタート地点への引き返し。

2日目は大天井岳から常念乗越を抜けて一ノ沢登山口へ下山。

途中で回復した場合は常念岳を越え、当初予定した上高地へ。

槍ヶ岳を回避する水俣乗越を下る短縮ルートも想定する。

山小屋、休憩ポイント

やむを得ず、宿泊する山小屋を変更する場合、予約をした山小屋に必ず連絡をすること。

休憩ポイントに関しては、混雑している休憩ポイントをできるだけ回避する。

そのため休憩できそうなスポットを想定しておく。

水分・エネルギー補給は歩きながらでも可能なので、休憩時間やとる間隔は力量に合わせて臨機応変に。

【CHECK.3】キットの準備
「起こりうることのシミュレーション」

「だれが見ても即座にそれとわかる」「ドライバッグに収納する」ファーストエイドキットは、自分以外にも使う場合を考えておく。赤地に白十字、あるいは「First Aid」と明記するなど、一目瞭然なケースに収納する。

また濡れると使えないキットもある。密閉式ビニール袋、ドライバッグを積極的に使用しよう。

キットを作るための重要事項は、発生しうるリスクを具体的に考え、リスクに対する具体的な対応策を考察すること。そのうえで必要なキットを選定すれば、自ずと必要不可欠なキットができあがる。

昨今はコロナ対策用に消毒液や除菌シートなども必須。すぐに取りだせるようポケットなど複数箇所に入れておこう。

また、薬は本人のものを使うのがベスト。アナフィラキシーショックなど、アレルギー対応も考慮したい。持病や既往症がある場合は、メッセージメモをキットに入れておく。

ガイドツアー時に使用しているキット。基本的な外科系内科系キットを携行。

赤いスタッフバックに「First Aid」と明記し、スケルトンのドライバッグに収納。

近藤謙司さんのファーストエイドキット小型版。医療用手袋、消毒液など、軽度の傷病対応用。

山行内容によっては、これのみ携行。

【CHECK.4】キットを的確に使う
「手で、体で覚えること」

「見えなくても、できるようにする」これは、ファーストエイドキットに限らず、すべての装備においていえることだ。

たとえば、救助の際に必要となるロープワーク。覚えておくべき結び方は、手で覚える。どんな状況でも必要な作業ができるようにしておきたい。

また大出血時、キットをパックから取り出し、そこから滅菌ガーゼを出して、患部にあて……、そんな悠長なことはしていられない。まずは医療用手袋で直接圧迫止血をしつつ、ガーゼ等を取り出す。即座に止血することが先決だ。

そのためには、医療用手袋をすぐに取り出せるポケットに複数入れておくなどの準備が必要となる。現場で的確な対応を臨機応変にするためには、最大限のシミュレーションをし、具体的な対応策を考えることがやはり大事な要素。

講習会などに参加し、知識や技術のステップアップをして経験を積むことも重要な準備だ。

8000m峰等の海外登山ツアーはもちろん、技術と知識のステップアップスクール、講習会などを開催する「アドベンチャーガイズ」。

近藤さんから話を直接聞ける貴重な場でもある。

1980年代から国際山岳ガイドとして活動する近藤さんは、最新ギアの導入にもつねに注力。

写真はワンタッチ操作可能な安全環付きカラビナ。

現在日本では入手困難。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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