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夜間行動を避けるためのリスクマネジメント。安全管理の考え方を知り、いざという事態に備える。

綿密な計画を立て山に入ったものの、体力不足、思わぬ道迷いなどが原因で行動終了前に日没が近づいてきた……。そんな状況で焦らないためにどのような行動をすべきか、安全管理のプロフェッショナルである村越真さんに教えてもらった。

リスクマネジメントの大原則

【原則1】「決断」を避ける

登山遭難を避ける上で、「適切な決断」が重要だといわれる。しかしリスクマネジメントの視点から見ると、決断が必要だということは、どちらの選択肢を採ったとしてもなんらかの懸念があることになる。「決断」が必要だったということは、どちらの選択肢を採っても、それぞれに困った状態に遭遇する可能性があるということだ。これでは「イチかバチか」というのと相違ない。

【原則2】リスクマネジメントとは事前の適切な対応

リスクとは専門的には「損害の起こりやすさ」などと定義される。起こりやすさだから、いまはまだ起こっていないが起こる可能性がある。たとえば、山に登れば捻挫で歩行不可能になることがあるだろう。しかし、多くの場合そうはならずに無事下山できる。死亡に繋がるような滑落や落雷も同様である。したがって可能性、つまりまだ損害が生まれないうちに適切な対応を取ること。それがリスクマネジメントなのだ。リスクマネジメントとは「決断」を避けることにほかならない。

また、リスクマネジメントとは止めることばかりではない。分析・評価を経て対応を決める。リスクを下げる方法を採りつつ実行する場合もある。ときには、リスクはあるが、あえて実行することもあるだろう。専門的にはこれは「情報に基づく意思決定による保有」という言い方がされている。簡単にいえば、「よく考えて、大丈夫だと判断したので、やる」ということだ。山には常にリスクがある。それは取りも直さず、リスクはあるがそれを精査したうえで、そのリスクを保有しているのだ。

【原則3】リスクの把握がすべてに先立つ

たとえば単独行は一般に推奨されていない。しかし、単独行のリスクはどこにあるのだろうか? 「○○はダメ」ですませるのではなく、なぜ○○はだめなのかを考えよう。そのためには、具体的にどんなリスクがあるかを把握することが必要だ。

リスクの絶対値を知ることは難しい。そこで活用したいのが、「リスク増大要因」だ。雨が降ってくれば転びやすい。身体が濡れれば低体温になりやすい。「雨」という要因がリスクを増大させたわけだ。リスク増大要因のなかには、気象、路面のようすなど、その場で感知できるものもある。なにがリスクを増大させるか?という発想でリスクを把握する。

「夜間行動は避けよう」と一般的にいわれるが、なぜ夜間行動は避けるべきなのか? あるいは、日中の行動時間が足りない状況で夜間行動をしないとすれば、それは山に留まることを意味するはずだが、それは本当に大丈夫なことなのだろうか。この問いに答えることができて、初めて、夜間行動すべきか否かに適切な答えを出すことができる。

【原則4】制御可能性で考えよう

登山のリスクに対して判断を下すときに重要な視点が「制御可能性」だ。私の研究でも、高所登山家など高いリスクに関わる専門家は、制御可能性という観点でリスクの評価を行ない、対応していた。制御可能とは、「その場で最悪の状態にならないようなんとかなる」ということだ。

たとえば「落雷」は事前に雷警報で対応することはできるし、樹林帯なら「なんとかなる」だろう。だが、高山帯では安全空間は乏しく「なんともならない」という状況に陥りやすい。つまり制御可能性が低いということだ。夜間行動で発生するリスクの制御可能性はどうだろう?

もちろん、リスクを制御するためには知識と技術が必要だ。落雷であれば、安全空間という知識がなければリスクを制御できない。制御可能性という視点で見ると、必要な技術や知識も見えやすくなるだろう。

山中のリスクマネジメント

STEP1.留まるリスク・進むリスクの精査

留まるリスク

留まることにもリスクがある。留まる、つまり長い時間いれば「なにかが起こる」確率は高くなる。10秒で通過できるなら崖下の落石リスクは無視できるかもしれない。しかし1時間留まれば、リスクは360倍、一晩なら1,000倍をゆうに超える。これは無視できないだろう。あるいは、近くの小川はいまは水量は少なくても増水する危険もあるかもしれない。しかも、ビバークすれば眠ってしまうこともある。眠ってしまえば、どんな優秀な登山家でもリスク増大に対する制御可能性はゼロになってしまうだろう。

ビバークの際、留まる場所の安全性を確認することが重要だとよくいわれる。落ちてくるものと増水のリスクをチェックすることが必要だ。そのためには「見えること」が重要である。強力なヘッドランプであっても、留まる場所の安全性を確認するために、十分遠くまでの状況を把握するのは難しいだろう。早めにビバークを決めることの重要性がそこにある。

暗闇で移動することのリスク

夜間行動、すなわち暗闇で移動することにはどのようなリスクがあるだろうか。ヘッドランプがなければ論外である。もし「論外」という言葉がピンとこない人は、部屋の中でもよいから本当に真っ暗にして動こうとしてほしい。安全かどうかよりも、そもそも不安で動けないだろう。ライトがある状態であっても、転倒や斜面での滑落というリスクは足下が見にくい分、昼間よりも高くなるだろう。しかし、現代の強力なヘッドランプであれば、自分の近くはかなり見やすい。私なら夜間行動による滑落や転倒のリスクは高くないと判断する。むしろ、そこは夜間になってしまったことの焦りという心理的な影響が大きいのだろうと判断できる。焦りがあると、人は周囲の重要な情報を的確に見ることができなくなるものだ。

暗くなることで高くなるリスクは道迷いだ。私はロゲイニング等で夜間のナビゲーションもやる。しかも道など一切ない大自然だ。暮れ始めると、相当怖い。ルート上に道迷いのリスクや急斜面による転倒のリスクはないか? これを精査しよう。

STEP2.リスクを低減するために

決断でなく計算

重要なことは、夜間行動するか/ビバークするか、を決断しないことだ。決断でないとしたらなにか?それは「計算」である。計算が味気なければイメージリハーサルといってもよい。残りの距離は? 自分たちの現在のスピードは? そして今日の日没の時間は(あるいは暗くなる時間)? これらの情報があれば、暗くなる前に自分が安全な下山口まで進めるかどうかは「計算」できる。

答えがNOなら、明るいうちに到達できる地点から下山口までのルートの安全性はどうだろう。知っている道であれば判断は難しくない。知らない道でも地図からある程度推測することはできる。道は明瞭か?滑落につながる急斜面や不整な路面はないか? ないと判断できるなら、夜間行動によるリスク増大はないだろう。

このような「計算」は、登山計画時点でしているはずだ。それをしていればこそ、登山のリスクを一定以下に保つことができる。

計算により着けないとなり、暮れた後のリスクが高いなら、どこかでビバークが必要になる。留まるリスクの精査で明らかになったように、ビバーク場所のリスクを把握し、その上でベストな選択をすることが大事だから、目的地の方向に向かいながら、明るいうちにリスクのない場所を見つける。

また、条件が変わると、この計算結果は変わる。疲れてくればペースは落ちるだろうから、可能な移動距離は減るだろう。思ったよりも路面が歩きにくければ進める距離はやはり少なくなるだろう。条件が変わるごとに計算を繰り返すことで、リスクは許容できる程度に保たれる。

STEP3.問題の難しさを意識しよう

できているつもりで間違っている

より厄介なのは、「わかっている」「大丈夫」という自信である。人はリスクのある選択肢に対して、「大丈夫だ」と思いがちで、これを一般的には正常性バイアスと呼んでいる。運や偶然をゼロにはできない山登りで、自信こそがあなたを奈落に突き落とす悪魔である。

過酷な環境での意思決定研究の第一人者のクラインは、それを回避する方法として「プレモータル(pre-mortal)分析」を提唱している。直訳すると「死亡前診断」という物騒な用語である。「もしこの選択が失敗に至るとしたらどんな理由があるか考えること」である。失敗を想定すれば、そこに陥るリスク増大要因に目が向く。自分ひとりでなく、仲間といっしょに考えられればなおよい。

不確実なら安全側に

登山遭難は年間3,000人程度。国民の総登山回数(推定値)からみれば、1万回に1回くらい発生する。このように滅多に発生しないことへの判断は、だれにとっても難しい。判断に「自信が持てない」「正解かどうかわからない」ことのほうが多いだろう。このようなときには、安全側に傾けた意思決定をする。わからないということはより大きなリスクもあるわけだから、そのリスクを避ける判断をすることが賢明だ。

著名な登山家の多くは「自分は臆病である」という。「臆病でない人はみんな死んでしまいました」とさえ言っている。わからない、自信が持てないというのは悪いことではない。「不安」はあなたの頼りがいのある用心棒になる。

教えてくれた人:村越 真さん

野外活動におけるリスクマネジメントの第一人者であり、OMMなどのイベントでは安全管理を担当。「オリエンテーリング全日本選手権」で22回の優勝を誇るなどナビゲーションのプロフェッショナルでもある。

※この記事はPEAKS[2021年3月号 No.136]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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