BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • Kyoto in Tokyo

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ

“まあまあ”の夜が更ける黒猫と黒電話の館「こむしこむさ」(長野県長野市)【グルメトラバース】#008

山に登り、麓の食を堪能することをライフワークとする、とある山岳ガイドの彷徨旅=グルメトラバース。
行きつ戻りつを繰り返した挙げ句に飛び込んだ核心部で、待ち受けていたものとは――。

入るべきか入らざるべきか……。それが問題だ

入ってみたい。でも怖い……。今夜はやめておくか。

そんな店が、旅先でフラフラと歩いているとたまにあるものだ。中を覗いたこともなく、そしてなんの情報もなく、でもその入口の佇まいだけで、とても気になる店。でも入れない。

いったん通り過ぎたがまた引き返し、その前でしばし佇む。その入口に、スっと素直に入れない怪しさがどことなく漂うのだ。でもでも、やっぱりすごく気になる。

長野に行くたびに何度かそれを繰り返し、やがて、あるとき決心がつき、2階に上がる急な階段をそろりそろりと登る。

目的地は2階。飛び込むのには勇気はいるが、期待せずにはいられない
明かりに導かれ階段を進む

入口は1階にあり、まずはその薄暗い急階段が決心のための難易度をさらに上げる。階段の一段一段に決心と覚悟とドキドキ感が湧く。階段を上がり着くと、ドアの前に黒い目をギョロっとさせた黒猫(看板)がいた。やっぱりやめるか……。この後に及んでも、急階段をやっとの思いで登り切ったのにまだ躊躇させるのかよ。それがここ、「こむしこむさ」だった。

入口の黒猫

目的地に向かう途中、気がついたらこの地に

ドアを開けると、ほのかに煙が漂う薄暗い店内。淡い光が揺らぐのはロウソクのせいらしい。正面に4人も座れば満員御礼の小さなカウンター。左手の窓側にある畳敷きの小上がりは、いかにも常連さんらしき数人のグループがテープルを囲み話が弾んでいるようす。

窓側には畳敷きの小上がりが

カウンターの端にやはり常連さんらしい少し若めの男性客。私の姿を見て帰る気になったか立ち上がりお勘定をしだした。カラーシャツにスカーフを巻き黒ベストを着た、この店の一部のように景色に溶け込んだダンディなマスターが、「まあ、頑張りなさいよ……」と最後に彼に声をかける。なにやら人生相談をしていたらしい。

軽くお辞儀をする男性客を見送りながら、「初めてですか?」と私にやっと声をかけてくれた。店内をキョロキョロと見回す、みるからに挙動不審の私は、そりゃどう見ても初心者だろう。

「なにを飲みますか?」「お腹空いてます?」といろいろ質問をされつつカウンターに落ち着く。ウイスキー?ワイン?ブランデー?と簡単に酒を選んで、つまみはおまかせ。そんな感じ。このアバウトさがまたグーだ。

マスターの田中基之さんはなんと今年で90歳オーバー(昭和6年生まれ)の方。この店を始めてからもう35年になるが、なんとほぼ無休だそうで、自宅から毎日10分ほど歩いて来るそうだ。生まれも育ちも東京のど真ん中、四谷の荒木町。芸者さんや置屋など花街の話しをしだすと、どこか遠くを見つめだす。

見た目には年齢不詳なマスターの田中基之さん

50代の終わりに、訳あって東京から別の場所へ向かうとき、たまたま長野に立ち寄り、なぜかそこに居着くことになってしまったという。そのため、35年経っても目的地には未だに行っていないし、なんでそこに行こうと思ったかも、もはや良く覚えていないらしい。

長野がマスターにとってはそれだけ居心地の良い土地だったのか、それともなにか訳ありなのか。ひょっとしたら長野で出会ってしまった黒猫のせいなのか……。

この店で、そんな(意味深な)思い出話を聞いていると、ドラマや映画や小説の世界に入ったかのような錯覚に陥る。自分は半村良という小説家の「雨やどり」を思い出した。この昭和BAR的空気感が、胸がぞくぞくとして楽しい。その時代のBARを知っている人にとってはとても懐かしく、また昭和の大人の世界を知らない人には、かなりの新感覚かもしれない。

揺らぐ蝋燭の明かりも、窓のベランダにある小さな植木鉢も、壁に並べられたボトルも、くわえたばこのマスターも、そしておそらくオープン当時からその場所に鎮座している黒電話も、みんなみんな昭和の匂いを醸し出しているのだ。

部屋の真ん中に鎮座する黒電話
ミツロウのロウソクが光る

さて、夜もふけてシンデレラすら帰る時間となったが、どうにも楽しくてマスターの話を途切れず聞いていたら、ただの置物かと思っていた年代物の黒電話が「チリリン、チリリン」と鳴り出した。

「うん、大丈夫」と一言だけ言って電話を切るマスター。私が、「どうしました?」という顔をしたら、「家にいる猫から電話がありました…」と一言。そうか……さすがマスター。猫とも会話ができるんだ、と納得。

そろそろお暇する時間になったのだ。今夜はこれでおやすみなさい。

今夜の酒とアテ

お酒はウイスキーやブランデー、ワイン・ビール等々、あるモノから選ぶ。つまみもその日あるモノをマスターが盛り付けてくれる。今夜はウイスキーをロックでいただき、アテは生ハムやチーズを生野菜といっしょに盛り付けてくれた。たとえばウイスキーを頼めばボトルがデンと出てきて、自分で何杯ついでも、最後のお勘定は変わらない。予算はひとり3,000円前後だ。

こむしこむさ

長野県長野市南石堂町1279-3
TEL.026-228-1919
定休日・営業時間:不定休(お客さんがいないと早締めあり。最近は21時ころが締めの目安)

ちなみに、”こむしこむさ”とは、フランス語(comme ci comme ça)で“まあまあ”という意味(ぼちぼち?それなり?)。黒猫と黒電話で“まあまあ”の夜が更ける。この緩い時間が心地よい。

行き帰りとも長野新幹線を使って後立山連峰へ

9月もそろそろ終わるシルバーウイーク後半は長野入り、長野帰りで白馬岳に行ってきた。

白馬岳など後立山連峰の山に入るときも、最近はその利便性から長野経由を利用することが多くなった。行きは東京から新幹線で長野駅へ入り、そこからはバスで信濃大町や白馬まで入る。そのため、今回の八方から唐松岳~不帰ノ嶮~白馬岳~栂池への縦走も、すべて入下山口から長野間はバス利用だった。そのため、松本経由で信濃大町へ入るルートはしばらく利用していない。松本や信濃大町で途中下車できないのは少し残念でもある。

初日の八方尾根は雨となってしまったが、2日目の不帰と白馬三山縦走、そして最終日の栂池への下山はとても良い天気で縦走が楽しめた。唐松岳から白馬岳までの縦走は、朝の出発を遅らせたこともあり、少しキツいコースとなったが、途中の天狗山荘に泊れば、体力的にも少し楽ができるだろう。紅葉はもう少し後だが、ナナカマドなどが少し色付き始めていた。そろそろ秋だ。秋の山も、食欲のグルメ旅と合わせて、楽しみである。

不帰ノ嶮
歩いてきた白馬三山を眺める

SHARE

PROFILE

川名 匡

PEAKS / 山岳ガイド

川名 匡

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

川名 匡の記事一覧

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

川名 匡の記事一覧

No more pages to load

x