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東京・奥多摩のピラミダルな山を望む里山[檜原村の湯久保山]|全国50/1万8,000山の旅#01 

自宅の書棚にある一冊の本によると、日本には少なくとも1万8,000も山があるらしい。そんなに山があるならば、人気の有無に関係なく、まずは50座くらい登ってみようじゃないか。ランダムに選ばれた山に向かい、地元のグルメを味わい、麓の温泉もセットで楽しむ。そんな行きあたりばったりの山旅で、今回は檜原村の湯久保山を訪ねます。

野藤の花咲く“藤小倉”

藤倉バス停の近くにある手描きの周辺マップ。右上に「ゆくぼ山」の文字を見つけた。

湯久保山は、東京都内にある内陸唯一の村、檜原村にある標高1,044m(※)の静かな里山。奥多摩三山のひとつ、御前山から南東に向かって伸びる湯久保尾根の途中にひっそりと佇んでいます。

(※湯久保山の標高は資料によってまちまち。今回は山頂にあったプレートにならって1,044mと記載)

 

 

この道標が湯久保山への入口。藤倉バス停から川沿いの道を上流に向かった場所にあります。

湯久保尾根については、1977年発行の『秋川の山々』(木耳社)に記載があり、「湯久保尾根(御前尾根)」と、かつての別名も記されていました。ですが、尾根の麓にある小沢集落から御前山に至るまで、尾根上のようすが詳細に記されている文中には、湯久保山の四文字がどこを探しても見当たりません。代わりに、こんな一文が目に留まりました。

「左手に大嶽山を眺め、右に淺間尾根や、笹尾根を眺めて歩む間に、灌木地に入り、これを出ると非常に展望の勝れた突起に達するが、この突起を藤小倉(一○四四米)と言つて、五六月頃にはこの邊一面に野藤の花が咲き亂れるのでこの名稱がある」

つまり、かつて湯久保尾根の1,044m付近は、“湯久保山”ではなく“藤小倉”と呼ばれていたらしいのです。

 

 

歩いた尾根には石仏や石碑が点在していた。人の暮らしが山と関わっていたようすが窺い知れます。

さらに興味深いことに、1998年に発行された『東京にある里山―檜原写真誌』(けやき出版)には、「湯久保尾根は、御前山(一四○五メートル)から南東へ張り出し、湯久保山(一○一九メートル)から急激に高度を下げて……」と書かれていました。もしかすると、本当の湯久保山は尾根上にある1,019mのピークのことなのでしょうか?

しかし、湯久保尾根の標高1,019m地点は現在、仏岩ノ頭と呼ばれていて、前述の『秋川の山々』にも同様に書かれていることから、1,044mが湯久保山(旧藤小倉)、1,019mは仏岩ノ頭と考えるのが、自然な流れといえそうです。ですが、藤小倉がいつから湯久保山と呼ばれるようになったのか、肝心な謎を解明することはできませんでした。

 

 

尾根の中腹で休みながら眺めた景色。たおやかな里山の山並みに心が和む。

ちなみに、湯久保という地名は漢字からも連想できるように、温泉が由来といわれています。『東京にある里山―檜原写真誌』によると、湯久保尾根のすぐ南面を流れる湯久保沢の谷底には明治の中頃まで温泉が湧いていたらしく、それは卵が煮えるほどの高温だったとか。当時は湯久保温泉などと呼ばれていたのでしょうか? いまは痕跡すらないそうですが、どんな泉質だったのか、温泉好きとしては少々気になるところです。

湯久保山は通常、湯久保尾根の末端に位置する小沢集落から登ることが多いですが、今回は最短ルートである藤倉バス停から向かうことにしました。

最初はアスファルトの道を歩き、倉庫のような建物を何軒かすぎると、足元は落葉の山道に変わります。さらに進むと南東の斜面が開けてきて、視界は期待値以上の眺望に。のどかな里山の景色を眼前に一服してから杉林に入り、傾斜が和らいで穏やかな尾根を進むと、しばらくして湯久保尾根と合わさり、そこに「湯久保山」と掘られたプレートが木立にかけられていました。

 

 

湯久保山から見えた御前山。時間があれば御前山まで足を伸ばすのも楽しそう。

湯久保山の山頂はすっかり植林されていましたが、いまでも藤の木は残っているのでしょうか? いずれにせよ、春に薄紫色の花弁が咲き乱れるかつてのようすを思い浮かべると、さぞきれいだったことでしょう。すっかり落葉した木々の間からは、みごとな三角形の御前山が望めました。

 

下山後は「手打らあめん」と「うる肌の温泉」へ

山を下ると腹が減る、ということで今回立ち寄ったのは、手打ち麺が自慢の「手打らあめん たちばな屋」。檜原村で1947年(昭和22年)から続く、地元に愛される名店です。暖簾をくぐると広くて明るい店内が迎えてくれます。

看板のラーメンに使う麺は、前日に仕込んでひと晩寝かせておいた生地から作る、自家製の手打ち麺。生地を麺にする作業も機械に頼らず、包丁でていねいに切り出す点もこだわりです。それを、豚ガラと鶏ガラに、しょうが、ネギ、玉ねぎを加えて香りと甘味をプラスしたスープと合わせて、醤油味または塩味でいただけます。

「味付け玉子らぁめん(醤油味)」は¥880と安心価格。麺とスープの美味しさは言うに及ばず、半熟の煮玉子とジューシーな焼豚も食欲をそそる。

注文した「味付け玉子らぁめん(醤油味)」をひと口啜ると、手打ちのストレート麺はコシがあって、食感はつるりとしていて喉越しもいい。スープはコクがありながら、あっさりしていて、野菜の甘味を感じながら気付けば最後まで飲み干していました。

 

 

秋川溪谷 瀬音の湯は、温泉総選挙「うる肌部門」で第1位を2度も受賞したことがある名湯が自慢。

空腹を満たしたら、汗を流しに温泉へ。「秋川溪谷 瀬音の湯」は檜原村に隣接するあきる野市にある有名な温泉施設。地下1,500mから湧出する温泉はアルカリ度が高く、湯船に浸かると肌がぬるぬるする柔らかな湯触りが特徴です。

内湯のほかに露天風呂も完備されていて、頭上には眺めを狭める庇がないため、今回は南の夜空に輝くオリオン座を眺めながら美肌の湯を満喫できました。

 

次の旅先は“八王子市の堂所山”

湯久保山。選ばれたときはどこにあるのかわからず、興味もまったくなかったのですが、歴史を知るほど親近感が湧くからおもしろい。野藤の花が咲き乱れる湯久保山、見たかったなぁ。

次回は八王子市にある堂所山を訪ねます。今度は知っている方が増えるのではないでしょうか?

 

今回の山旅データ

湯久保山

赤線が歩いたルート。

  • 適期:秋〜春
  • 【アクセス】
    JR五日市線武蔵五日市駅から、西東京バス「藤倉行」に乗り、「藤倉」バス停で下車(※駐車場がないので公共交通機関の利用がおすすめ)
  • 【コースタイム】
    藤倉バス停→(1時間)→湯久保山→(40分)→藤倉バス停
  • 【アドバイス】
    尾根上には桜の木があったので、春にはお花見を楽しめるはず。コナラも多く生えていたので、秋には紅葉を期待できるでしょう。冬は落葉して展望がよくなります。ただ、道は不明瞭で看板もないため、読図を学んでからGPSアプリ必携で登りましょう。

【今回の食事処】手打らぁめん たちばな家

ラーメンのほか、定食、丼ぶり、天然の山女魚と鮎の塩焼きなど、悩ましいほどメニューが豊富。ちなみに、丼ぶりの欄にある「開花丼」とは、豚肉のスライスを煮て玉子でとじた一品。四足の動物を食べるようになった「文明開化」にちなんで名付けたなど、由来には諸説あるそうです。

  • 住所:東京都西多摩郡檜原村5574
  • 連絡先:042-598-0029
  • 営業時間:昼11:00〜15:00、夜17:00〜20:00
  • 定休日:火曜日(祝日の場合は翌日)
  • アクセス:西東京バス「檜原村役場前」バス停から徒歩2分
「たちばな家」の詳しい情報はこちらもチェック!
https://hinohara-kankou.jp/spot/tachibanaya

 

 

【今回の立ち寄り湯】秋川渓谷 瀬音の湯

内湯、露天風呂、外にはサウナも完備。建物の中にはレストランがあり、時間に余裕があれば宿泊コテージに泊まることも可能。敷地内には物産販売所があり、毎朝届けられる地元の朝採り野菜を中心に買い物も楽しめます。

  • 住所:東京都あきる野市乙津565
  • 連絡先:042-595-2614
  • 営業時間:10:00〜22:00(最終受付21:00)
  • 入浴料(3時間):大人(中学生以上)¥1,000、子ども(小学生)¥500
  • 定休日:火曜日(祝日か繁忙期は変わる場合あり)
  • アクセス:西東京バス「十里木」バス停から徒歩8分
「瀬音の湯」の詳しい情報はこちらもチェック!
http://www.seotonoyu.jp

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PROFILE

吉澤英晃

PEAKS / ライター

吉澤英晃

1986年生まれ、群馬県出身。沢登りもするし雪山にも登る、自称オールラウンダー。山に登りながらいつも考えているのは、下山後の温泉と食事のことばかり。じつは山より入浴とグルメのほうが好きなのではないかと、最近山仲間に疑惑を持たれている。

吉澤英晃の記事一覧

1986年生まれ、群馬県出身。沢登りもするし雪山にも登る、自称オールラウンダー。山に登りながらいつも考えているのは、下山後の温泉と食事のことばかり。じつは山より入浴とグルメのほうが好きなのではないかと、最近山仲間に疑惑を持たれている。

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