マウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権2023|川崎雄哉選手インタビュー
一瀬立子
- 2023年06月20日
2023年6月6日〜10日、オーストリア・チロル州のインスブルックとシュトゥーバイで、マウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権(Mountain & Trail Running Championships, WMTRC)が開催された。今回のレースを含め世界選手権に5回出場している川崎雄哉選手にレースを振り返ってもらった。
文◉PEAKS 一瀬立子
写真提供◉川崎雄哉、一般財団法人日本トレイルランニング協会
12人の日本人選手が出場。秋山穂乃果選手が9位入賞の快挙
マウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権には各国の代表選手のみが出場することができる。種目は、バーティカル(7.1km、累積標高1020m)、ショートトレイル(45.2km、累積標高3132m)、ロングトレイル(86.9km、累積標高6500m)、クラシック(Loop1:7.5km / 累積標高374m 、Loop2 :7.5km / 累積標高377m)の4種目。日本からは、ショートトレイルに上田瑠偉、森本幸治、楠田涼葉が、ロングトレイルに近江竜之介、小笠原光研、甲斐大貴、川崎雄哉、西村広和、吉野大和、秋山穂乃果、髙村貴子、吉住友里、計12名の選手が出場し、ロングトレイル女子では、秋山穂乃果選手が9位入賞の快挙を果たした。
日本人選手のリザルト
ショートトレイル
男子
上田瑠偉 12位 4:34:45
森本幸司 124位 6:05:14
女子
楠田凉葉 62位 6:11:30
ロングトレイル
男子
30位 小笠原光研 11:04:57
31位 川崎雄哉 11:05:51
36位 甲斐大貴 11:13:59
81位 西村広和 12:37:31
DNF 近江竜之介
DNF 吉野大和
女子
9位 秋山穂乃果 12:01:23
36位 吉住友里 13:27:56
DNF 髙村貴子
川崎雄哉選手が世界選手権に出場し続ける理由
ー今回のレースコースはどんなものでしたか?
川崎 距離が約87kmと長めでしたが、2022年大会も80km以上あったので、距離的には変わったところはないのですが、今回はヨーロッパならではの山岳コースで長い登りが3つあり、傾斜がきついところは走り続けることはできないなど、今までに経験してきた“走れるコース”ではありませんでした。ポールを使う選手の方が圧倒的に有利だったと思います。私は普段からポールを使っていないので、急に取り入れてもうまく使いこなせないと思い、いつもどおりに走ることにしました。
コースの難易度の高さに加えて気温が高くなったこともあり、ロングコースの参加選手161人中、39人がリアイヤということからも、今回のレースの厳しさが伝わると思います。
ー川崎さんも苦しいレース展開となったようですが、なにがあったのでしょうか?
川崎 今年4月末のウルトラトレイルマウントフジを終え、テーパリング期に入ったところ、体調を崩し気味でした。現地入りしてから風邪気味で万全の状態ではないなかスタート地点に立つことになってしまいました。
レース序盤は調子は悪くなくトップ集団につけていけたのですが、2つ目の長い登りで体調に異変を感じ、ここからはかなり苦しいレースとなりました。結果を出したいという思いと日本代表選手としての責任、それに反して思うように動かない体。リタイアしたいという気持ちが浮かんできて、心の中で葛藤を繰り返していました。
しかし、サポートエイドで日本チームのスタッフに励ましてもらい、さらに、吉野選手が捻挫で、近江選手が体調不良でリタイアしたことを聞き、「自分はただ苦しいだけ。他の選手が行けなかった分、最後まで行くんだ」と心に決め走り続けました。団体戦はチームの上位3人の選手の完走記録を合計して結果が出ます。リタイアするわけにはいかないと思いました。
67km地点の最後のサポートエイドで、小笠原選手と甲斐選手が追いついてきて、3人で「ここまできたら最後まで行こう!」と士気を上げ、最後は小笠原選手に抜かれたものの、31位でフィニッシュ。完走し、ロングコースの団体で8位という結果に貢献することができたので、代表選手としての役割は果たせたかなと思っています。個人の結果については順位よりも、あの状態で走り切れたことを自分なりに認めてあげたいです。
今回完走できたのは、日本チームの他の選手やサポートしてくれたみなさんのおかげです。日本チームとして団結して戦えてたことをうれしく思います。
ー世界選手権に出場し続ける理由はなんですか?
川崎 中学・高校と陸上競技に打ち込み、オリンピックに出たいとずっと思っていました。陸上で世界に行くことはできなかったけど、トレイルランニングに出合い自分の可能性に気づくことができました。オリンピックではありませんが、日本代表選手として走ることで子どもの頃の夢を叶えられているので、世界選手権に出場する意味を感じています。
また、国内レースでは上位入賞をしていますが、世界に行くと「まだまだだ」と思い知らされ、それがいい刺激になっています。それから、日本の他の代表選手との交流する時間も普段ではなかなかない貴重なものですし、世界の文化や人々に触れ、視野が広がるのも楽しみの一つです。今回、最後の18kmを香港の選手と励まし合いながら進み、一緒にフィニッシュしました。今までにない経験に感動しました。今年の秋には香港のレースに出る予定なので、それがとても楽しみになりました。
次回は2年後ですが、また挑戦したいです。今年子どもが産まれたので、その子の記憶に残るようになるまではトップ選手として走っていたいという気持ちがあります。
ー今後、世界選手権について期待することは?
川崎 国内における世界選手権の認知度が上がっていくといいですね。そのためには、企業をはじめとした多くの方々からのサポートが必要です。「世界選手権に出場したい」という選手が後に続くよう、選手としていい結果を出すこと、また、自分のできる範囲で世界選手権に関する情報を発信していきたいです。
川崎 雄哉(かわさき・ゆうや)
1984年生まれ、長崎県出身。滝ヶ原自衛隊所属。
《主な戦績》
2022年
球磨川リバイバルトレイル 100 マイル 優勝
信越五岳トレイルランニングレース 110km 優勝
マウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権 ロング 16 位
日本山岳耐久レース 2位
2023年
ウルトラトレイルマウントフジ FUJI(100マイル) 2位
マウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権 ロング 31位
次回大会は、2年に1回の開催と変更されたため、2025年9月25日〜28日にスペインで開催される。
マウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権(Mountain & Trail Running Championships, WMTRC)
公式サイト
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