BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • Kyoto in Tokyo

STORE

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ

人生を変えてゆく旅|劇団EXILE・佐藤寛太の旅手引き #13

文・写真◉佐藤寛太

インドでの旅の記憶を振り返りながら、いまできることを楽しむ。

なぜ僕らは、ここではないどこかに思いを馳せ、足を運びたくなるのだろう。

星野道夫さんが『旅する木』にて、”ひとつの体験が、その人間のなかで熟し、なにかを形づくるまでには、少し時間が必要な気がする”と言っていたが、昨年7月にインドに行った僕は、当時のできごとを咀嚼するのに長く時間がかかっている。

いまもインドで書いていた日記をもとに、インド旅行記を事務所のブログに更新しているが、その度に当時の感情や、五感が蘇ってくるから文章とは不思議だ。

文字を頼りに記憶を遡ると、ひとりで見た壮大な景色より、人との交流で生まれたことのほうが記憶が鮮明だ。

バラナシというガンジス川の流れる街で、夜ひとり階段に腰掛けているとチャイ売りの青年に声をかけられたことがあった。「チャイはいらないよ」と答えると、彼は僕の隣に腰掛け、突然夢はあるかと聞いてきた。

インドに着いたばかりで、現地の人々のかなり強引な勧誘に神経をすり減らしていた僕は、会話を続けるのが面倒で、適当に「君の夢は?」と尋ね返すと、彼は顔を光らせて俳優になりたいんだ、といった。

その後も必死に言葉を紡ぎながら会話を続けてくれようとする彼に、僕は俳優をやってるんだとは言えず。長いことお互いの悩みや、人生において大事にしたいことを語り合ったのに喉に小骨が刺さったような居心地の悪さを拭えなかった。

帰り際、チャイを淹れてくれたので、料金を払おうとすると友だちからはもらえないよと笑顔で断られた。宿に着いて、彼のインスタグラムを開くと、数少ない投稿のなかふたりで撮った写真が一番上にあり、”新しい友達ができた”と書いてあった。

長く滞在したラダックでは複数の友だちができたが、山に登るときは誘いを断りひとりで行った。思い出せばもったいないことをした気もするが、少し誇らしくもある。

宿泊先のホステルでは、異なる国から集まった旅人たちが屋上テラスに集まり、人生について語り合っていた。旅の恥はかき捨てとは言ったものだが、一期一会の出会いに遠慮することなく、自分らしくすごすことができた。

テラスにいた人種はバラバラで、容姿は元より生まれや育ち、国籍さえも全く違うのに、ひとつの言語を介することで意思疎通ができるということに改めておどろいた。そしてなぜか宿にあった卓球で毎夜大盛り上がりし、スポーツは偉大だな、とも思った。

ヨーロッパからの旅人たちの多くは皆、政治や環境問題に対して自分の意見を持っていて、ギリギリの英語力で会話を追っていると、ときおり「君はどう思う?」と尋ねられた。たとえ日本語であったとしても応えることができなかったであろう答えを、僕はいまでも探している。

私立の学校の制服に身を包まれた子どもと、物乞いをする子どもが同じ街角にいる世界。それぞれ元気いっぱいの子どもたちは、おたがいの間に線引きしているように見えた。

標高4,500メートル地点で子どもを抱えたまま、道路に落ちてきた落石をピッケルやハンマーで壊し、ブロックを並べていた人々はみんな手作業だった。

日常に戻ったいまも、あのとき芽生えた疑問が頭から離れない。

人の持つエネルギーを感じ、信仰の強さを感じ、怖いことや心温まる体験をして、経済の壁と資本主義について考えるようになった。

新しいものに出会うことで自分を発見することが旅だとすれば、いま、僕にとっての『旅』は本を読んだり、映画を見ている時間だ。

いまはいまできることを楽しもうと思う。

2024年、どんな年になるだろうか。

SHARE

PROFILE

佐藤寛太

PEAKS / 俳優

佐藤寛太

劇団EXILE所属。福岡県出身で子どものころは自然が遊び場。キャンプを始めたことをきっかけに、その延長で2020年より登山を開始。主にひとりで山に登っている。初のフォトブック『NEXT BREAK』が発売され、主演映画『軍艦少年』や人気漫画を実写ドラマ化した『あけとせっけん』主演など、映画やドラマ、舞台など各方面で幅広く活動する、いま人気急上昇中の若手俳優。大の読書好き。仕事が忙しいときには山や旅にまつわる本で旅をする。

佐藤寛太の記事一覧

劇団EXILE所属。福岡県出身で子どものころは自然が遊び場。キャンプを始めたことをきっかけに、その延長で2020年より登山を開始。主にひとりで山に登っている。初のフォトブック『NEXT BREAK』が発売され、主演映画『軍艦少年』や人気漫画を実写ドラマ化した『あけとせっけん』主演など、映画やドラマ、舞台など各方面で幅広く活動する、いま人気急上昇中の若手俳優。大の読書好き。仕事が忙しいときには山や旅にまつわる本で旅をする。

佐藤寛太の記事一覧

No more pages to load