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山写真からこの夏の行き先を決める!北アルプス 私のベストルート

登山専門誌を眺めたり、Webメディアやだれかのブログを読んだとき、「ここに行ってみたい」と心を奪われるすばらしい山写真にであったことはないだろうか。
そんな写真とともに、フォトグラファーやライターがテント泊でたどった北アルプスの垂涎ルートをご紹介!

編集◉PEAKS編集部
文◉福瀧智子、村石太郎(ルート2)、麻生弘毅(ルート3)

【ルート1】一度はみてみたい静寂の池ノ平で望む裏剱の雄姿

  • 3泊4日・約26.4km
  • 入山口:室堂ターミナル
  • 下山口:黒部ダム

室堂ターミナル→雷鳥平→剱御前小舎→剱澤小屋→真砂沢ロッジ(泊)→二股→仙人峠→池ノ平小屋→池ノ平山→池ノ平小屋(泊)→二股→真砂沢ロッジ(泊)→内蔵助→平黒部ダム

▲池ノ平小屋付近から望む剱岳。チンネや北方稜線、八ツ峰などの岩峰群がみごと。(Photo by Shotaro Kato)

立山黒部アルペンルートの最高地点である室堂ターミナルから別山乗越に登って眺める剱岳を「表」とするなら、北東側から望む剱岳は「裏剱」ともいわれる。上の写真は、立山連峰のなかではかなり奥まった場所にあるためなかなか足を延ばす機会がない池ノ平小屋からの裏剱の眺望だ。これまで訪れた北アルプスのなかでもこのエリアはとくに静かで、印象深い。

この山行では、別山乗越から剱御前小舎を経て剱沢を下り、岩を高巻いたり雪渓を歩きながら真砂沢ロッジで一泊。翌日、二股までさらに下り、そこから氷河認定されている三ノ窓雪渓や小窓雪渓のすばらしい景色を眺めながら仙人新道の長い登りを詰めていった。

裏剱エリアでは別天地と称される仙人池もおすすめだが、仙人峠を挟んで西側にある池ノ平もすばらしい。池塘が点在する平の池周辺は広々と心地よく、剱岳をもっとも印象づける八ツ峰の稜線が大迫力で目の前に迫る。

また、剱岳の主稜線上からつづく池ノ平山へは2泊目に利用する池ノ平小屋から往復3時間。余裕があるなら、ぜひピストンを。山の斜面にすばらしいお花畑が広がり、標高を上げるたび裏剱の表情も変わる。アクセスは決して容易ではない山域だが、北アルプス好きなら一度は訪れたいエリアだ。

▲後立山連峰の遠望を背に池ノ平山を歩く。(Photo by Shotaro Kato)
▲日本三大雪渓のひとつの「剱沢大雪渓」。(Photo by Shotaro Kato)
▲終盤は黒部川の深い渓谷を伝って下山する。(Photo by Shotaro Kato)
▲黒部ダムがゴール! 時間帯によっては迫力満点なダムの放水を下から見上げることができる。(Photo by Shotaro Kato)

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フォトグラファー/加戸昭太郎
小誌『PEAKS』や『ランドネ』のほか、『山と溪谷』『岳人』など登山専門誌を中心に撮影を行なう。被写体は人物や日常の風景、料理など多岐にわたる。大阪府枚方市出身。

【ルート2】槍ヶ岳を、西鎌から、東鎌から、ぐるりとまわる4 泊5 日の縦走路

  • 4泊5日・約46.8km
  • 入山口:高瀬ダム
  • 下山口:中房温泉

高瀬ダム→烏帽子小屋(泊)→野口五郎岳鷲羽岳→三俣山荘(泊)→三俣蓮華岳→槍ヶ岳~殺生ヒュッテ(泊)→西岳→大天荘(泊)→燕岳→中房温泉

Photo by Taro Muraishi

比較的長めとなる4泊5日の山行である。僕はいつも、初日の行動時間を少なめに配分するのだけれども、このルートでも1日目は約5時間で終える。行程中で、なによりも気に入っている時間が、2日目の早朝に待っているから。

烏帽子小屋のキャンプ地を夜明け前に出発して、三ツ岳へと至る尾根から眺める日の出。これが抜群の美しさなのである。さらには、野口五郎岳へと至る広大な縦走路が、とにかくすばらしい。

同じ日には、鷲羽岳の山頂を踏む。ここで深い谷を刻む硫黄尾根の向こうに、空に突き刺すようにそびえる槍ヶ岳が見えてくる。

さらにその翌日は、フォトジェニックとしかいいようのない双六岳から望む槍ヶ岳の雄姿も待っている。この日は、双六小屋を通過して槍ヶ岳山頂を踏み、少し標高を落として殺生ヒュッテへと向かう。ここでは巨大な槍ヶ岳が目前に迫る景色を眺めながらのキャンプを楽しみたい。

4日目は、多少の苦労を伴うけれど東鎌尾根を抜けて大天井岳へ。燕岳まで進んでもよいけれども、大天荘からの展望を眺めたいがため、ここが僕の定宿なのである。最終日、燕岳山頂へと寄り道をして、合戦小屋で名物のスイカをつまんで体をクールダウンさせて中房温泉へ下山したい。

▲夜明け前、ヘッドランプを灯して烏帽子小屋を出発すると、唐沢岳越しの日の出が待っている。(Photo by Taro Muraishi)
▲双六小屋からの西鎌尾根は、徐々に槍ヶ岳に近づいてゆく高揚感がたまらない。(Photo by Taro Muraishi)

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アウトドアライター/村石太郎
登山道具について日本随一の知識を誇るアウトドアライターであり、北アラスカの原野を彷徨い続ける冒険旅行家。小誌では長年にわたる連載「野外道具探訪記」を担当している。

【ルート3】槍ヶ岳を背に、大キレットを越えて北穂高岳へ

  • 2泊3日・約43km
  • 入山口:上高地
  • 下山口:上高地

上高地→明神→徳沢→横尾→殺生ヒュッテ(泊)→南岳→大キレット→北穂高小屋(泊)→涸沢→上高地

▲威風堂々そびえる北穂高岳。小さく見えるのは、岩稜のオアシスこと北穂高小屋。(Photo by Hiroyuki Usami)

上高地から槍ヶ岳へ。きわどい岩稜を登って北穂高岳、涸沢へと至り、上高地へと戻ってくる周回コース。なかでも、南岳小屋から北穂高小屋へとつづく「大キレット」は、国内の一般登山道のなかでも屈指の難ルートとして知られている。

初日は梓川を遡るように歩き、大曲を過ぎると傾斜がきつくなる。殺生ヒュッテに泊まったが槍ヶ岳山荘まで進んでおけば翌日がラク。

槍ヶ岳から南岳へは快適な登山道がつづく。南岳小屋を越えると、えぐられた深〜い谷とその向こうにそびえる北穂高岳の偉容という、大キレットの全容が明らかに。まずはクサリやハシゴを伝って、大キレットの最低鞍部へ。そこからはナイフリッジのような岩稜を登っていく。難所の「長谷川ピーク」は飛騨側への下降が高度感抜群! 足場は確実にあるので慎重に進みたい。つづく「飛騨泣き」も迫力満点‼ 通過後のトラバースも緊張をしいられる。北穂高小屋直下の傾斜はきついが、尾根は広いのでそれまでよりは歩きやすい。とはいえ落石には注意。

最終日の涸沢への下りも、傾斜がきついので、緊張感を持続させてほしい。

▲緊張が強いられる長谷川ピークの下降。高度感はすさまじいが、足の置き場は確実に存在する。(Photo by Hiroyuki Usami)
▲北穂高小屋のテラスからは大キレット越しの槍ヶ岳がバッチリ!(Photo by Hiroyuki Usami)

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アウトドアライター/麻生弘毅
普段、緊張感のない登山をしているからか、大キレットの印象は鮮やか。年に……3年に一度くらいは、心と体を整えて臨むような登山もよいものですね。

【ルート4】こんな美しいところが日本にあったなんてと感動した

  • 4泊5日・約52km
  • 入山口:折立
  • 下山口:黒部ダム

折立→薬師峠キャンプ指定地(泊)→北ノ俣岳~黒部五郎小舎(泊)→三俣蓮華岳~三俣山荘(泊)→鷲羽岳→水晶小屋→赤牛岳→奥黒部ヒュッテ→東沢出合キャンプ地(泊)→平ノ渡場→黒部ダム

▲お椀状の雄大なカール地形をもつ、自然の造形美が印象的な黒部五郎岳。(Photo by Masato Kameda)

北アルプス南部のなかでも奥地にそびえ、登山最盛期でも混み合うことなく静かな山歩きができるのが黒部五郎岳ではないだろうか。

ここを訪れたのは、ある取材のルート上にあって通過点にすぎなかったけれど、その美しさには正直言葉を失うほどだった。ダイナミックなカール地形や巨岩が立ち並ぶ景観、稜線直下に流れる清流、お花畑などを見て、それまで北アルプスのさまざまなルートを歩いたことがあったが、こんなにきれいなところが日本にあったのかと感動したことをよく覚えている。

このときはルートは折立から入り、北ノ俣岳、黒部五郎岳を経て、人気エリアの三俣山荘周辺を抜け、鷲羽岳、水晶岳、そして赤牛岳から黒部ダムへつづく読売新道を4泊5日で歩いた。どこも北アルプスらしい展望だったが、なかでも太郎平から黒部五郎へと至る長大な稜線はでっかい山をつないで歩いているという実感があってよかったし、最後に登頂した赤牛岳は、花崗岩の赤茶けたザレ場が印象的で、悠々と山容が大きかった。子どもたちにも縦走に行ける体力がついてきたので、あの圧巻の黒部五郎岳のカールを見にいっしょに北アルプスへ行ってもよさそう!

▲水晶小屋手前から鷲羽岳方面を望んで。(Photo by Masato Kameda)
▲三俣蓮華岳はその名の通り富山県、岐阜県、長野県の3県にまたがる。手前に見える赤い屋根は三俣山荘で、テント場からは鷲羽岳が一望。(Photo by Masato Kameda)

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アウトドアカメラマン/亀田正人
クライミングや雪山、カヤック、狩猟採集などアウトドアのハードな一面を切り取ることを得意とする。最近は写真だけでなく動画撮影・編集も行なう。

【ルート5】後立山連峰最南エリア絶景針ノ木サーキット

  • 2泊3日・約21.3km
  • 入山口:扇沢
  • 下山口:扇沢

扇沢→柏原新道→種池山荘(泊&生ビール)→岩小屋沢岳→新越山荘→赤沢岳→スバリ岳→針ノ木岳→針ノ木小屋(泊&生ビール)→大沢小屋→扇沢

▲扇沢を起点に稜線部をグルリとまわる「針ノ木サーキット」を歩く。メインはピラミッド型の重厚感ある山容の針ノ木岳(標高2,821m)

北アルプスの北部といえば、白馬三山や鹿島槍ヶ岳などを擁する後立山連峰が人気だ。このあたりは日帰りから長い縦走まで幅広く山を楽しめる日本指折りの登山エリアだが、混み合う北アルプスにおいてその最南部がじつは穴場だ。

扇沢から急登の柏原新道をよじ登り、後立山連峰の稜線にのると登山者の多くは鹿島槍がある北へ向かう。そちらをメジャールートとするならば、逆方向に針路を取るのが今回のルート。最南にそびえる針ノ木岳こそ雪渓や二百名山として名が知れているが、その手前に並ぶ岩小屋沢岳や赤沢岳、スバリ岳は山に詳しい人でなければすぐにはピンと来ないかもしれない(かくいう私もそうだった)。

ところがどっこい、その歩き応えや展望のよさは想像超え200%!針ノ木岳は〝北アルプスのへそ〞と呼ばれるだけあり、そこへと至る稜線上からは剱岳はもちろん、立山連峰、穂高連峰などが見え、天空縦走路と名付けたくなる絶景の稜線歩きが待っている。

こんなすばらしいルートで人が少なく、しかも山小屋では生ビール(針ノ木小屋はエビス)が飲めちゃうのだから、これを最高と言わずしてなんというのか。

▲針ノ木岳山頂から黒部ダム湖越しの立山連峰を眺める。
▲2日目はアップダウンが多く、岩場・ガレ場も登場。

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編集者/福瀧智子
登山をはじめバックカントリスノーボードやシーカヤックによる海旅など恵まれた日本のフィールドを広く遊び、それらの関連雑誌で編集・執筆を行なう。

 

※この記事はPEAKS[2024年7月号 No.166]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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