BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • HATSUDO
  • Kyoto in Tokyo

STORE

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ
  • Bicycle Club BOX

自分の足で訪れ、自分の目で見るということ 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯05

日本で調べて見つけだした未踏峰、少ない情報のなかから見つけ出した写真。それと同じ風景が目の前に広がっていた。

文・写真◉石川貴大

甘い誘惑

タンギャムについた翌日、朝になると体調を崩していたふたりも僅かに回復したように見えた。この日は予定どおり、標高約3,500mにあるグンサを目指すことになった。いよいよ富士山の標高3,776m にも近くなってきた。体調のこともあったので無理のないペースで歩みを進めた。途中、雲の切れ間から雪のついた鋭峰が見えた。なんの山かはわからないが、いよいよ登山が始まるという気持ちが高まり興奮していた。

そうこうしているうちに大きな村が見えてきた。グンサだ。今回のキャラバンのなかではもっとも大きな村だ。ヘリポートや診療所もある。なかでもおどろいたのは宿泊予定のロッジだ。電気が引かれていて部屋にトイレもついている。食堂ではケーキやコーヒー各種が取り揃えられていた。ひさびさの甘い誘惑には勝てず、みんなで注文してしまった。 まさか標高3,000mを超えた奥地で素敵なコーヒータイムが取れるとは思ってもみなかった。体調に不安のあった金子君も元気そうにケーキをほおばっていた。いや、いま思うと元気そうに見えていただけだったのかもしれない……。

▲不調ながらも歩みを進める。
▲ケーキで少し元気を取り戻す金子君。
▲ところどころで針峰群が顔を出す。

隊長の体調

翌朝、次の村へ向けて準備を始める。ふと金子君のほうを見ると、なんだかすごく顔色が悪い。どうやら昨晩吐き気をもよおして、ほとんど眠れなかったようだ。今日は標高4,000mを超える。本人 は行くと言っているが心配の気持ちが残る。しかし最終的には全員でグンサを出発することになった。

だが、出発して20分もしないうちに金子君のペースが急激に落ちた。数日前からの体調不良のなか、無理して動き続けたことがやはり負担になっていたのだろう。これ以上標高を上げても、より回復が遅くなると思われたので花谷さんが付き添い、金子君はグンサに戻ることになった。私とサキさんは先に次の村を目指す。

花谷さんは金子君の状態をグンサの宿の主人に伝え、その後先行する私たちと合流した。行きたい気持ちと、実際の体調、そこでどう判断するかは自分自身が直面したらすごく難しいと思う。折角ここまで来たことを思うと「行けない」とはなかなか言い難い。体調が悪いなか、さまざまな葛藤があったのだと思う。しかしまだ日程には余裕がある。離脱した金子君が早く合流できることを願った。

▲金子君、体調不良との戦い。
▲キャラバン最後の村へ向けて進む。

富士山より高い場所

先行していた私たちは順調に標高を上げていった。途中の丘に上がると標高7,710mのジャヌーが顔を出した。急峻な山肌に突き出た山頂、威風堂々とした姿に圧倒された。ヒマラヤを肌で感じながら歩いている。そんな気持ちになった。

気持ちが高揚しながら歩みを進めるとキャラバン最後の村となる標高約4,100mのカンバチェンが見えてきた。富士山よりも高い標高4,000mを超えても村があるのはおどろきだ。

ここまで来ると高度の影響も気になってくる。カンバチェンに着くとすぐには休まず順応登山に出かけた。順応登山は到着地よりも100mほど標高を上げることで体をより高い標高に慣らす作業だ。宿泊する場所よりも高い場所に行くことで高山病の予防にもなる。少し空気の薄さも実感できるようになってきたのはこの辺りからだったと思う。この日は夕方からガスが沸いてしまったので景色は見えなかった。でも下調べで見つけた写真はこの村から撮られたもので間違いない。きっと明日は目指す山が見える。そう思うとなかなか寝付くことができなかった。

▲威風堂々のジャヌー。
▲最後の村カンバチェン。

これが私たちの目指す山

早朝、うっすら明るくなったころ、トイレのために外に出た。眠さに負けて開かない目でふらふらと歩いていると、ガスが晴れていることに気が付く。ふと後ろを振り返ると、朝陽が当たり始めた山が見えた。

「あ! この山だ!」

眠気は一瞬で飛び、胸が踊った。ようやく私たちが登る山「シャルプーVI峰」と対面することができたのだ。すぐにカメラを取りに部屋に戻った。しばらく撮影をしているとサキさんも外に出てきた。シャルプーVI峰を見るなり「すげー」を連発していた。

日本で調べていたとはいえ、ずっと離れた国に来て、それが本当に目の前にあるのだから、この感動はたまらないものだった。自分の目で見ることが、これほどうれしく価値のあるものだということを実感した。

なんでも情報が手に入る時代だからこそ、自分の足で見たいものを見にいくという行為は大事なのかもしれない。

▲私たちが目指す山、シャルプーVI峰(6,076m)。

次回はベースキャンプでの生活、アタックに向けての準備をお届けします。

SHARE

PROFILE

石川貴大

PEAKS / フォトグラファー・登山ガイド

石川貴大

日本山岳ガイド協会認定ステージⅡの登山ガイド。山岳撮影や山岳歩荷、リバーガイドなど多方面で活動。プライベートではクライミングを中心に一年を通して山を楽しんでいる。

石川貴大の記事一覧

日本山岳ガイド協会認定ステージⅡの登山ガイド。山岳撮影や山岳歩荷、リバーガイドなど多方面で活動。プライベートではクライミングを中心に一年を通して山を楽しんでいる。

石川貴大の記事一覧

No more pages to load