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すぐに登れると思っていたシャルプーⅥは、近くて遠い存在だった 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯07

ついに初めてのシャルプーⅥへのトライが始まった。
立ちはだかった高所の壁。一筋縄ではいかない未踏峰アタックの厳しさを突き付けられる。

編集◉PEAKS
文・写真◉石川貴大

\ #6はこちら /

標高4,600mで始まるキャンプ生活、登山道のない山 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】#6

標高4,600mで始まるキャンプ生活、登山道のない山 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】#6

2024年10月04日

ついに始まる本番

天候の予想を踏まえ、ややタイトではあったがゴーアップの日程を10月22日から24日に決定した。22日の朝、ダワさんに登山の安全を願う「プジャ」という祈祷をしてもらったあと、ベースキャンプを出発した。まず、TC1を回収し、5,300mのC1までテント装備を上げた。みんな黙々と荷上げと準備をこなしていくが、どことなく隊全体に偵察や荷上げのときにはなかった緊張感が漂っていた。未知の領域に入り込む不安と登頂への期待が入り混じった感じだ。

C1からは、夕焼けのなかに世界第3位の標高をもつ巨大なカンチェンジュンガがそそり立っているのが見えた。山々が力強く存在する世界でちっぽけな人間の存在を実感する。それぞれ夕焼けをじっと眺めながら明日の登山を思った。翌日は3時に起床して行動を開始するので夕食を早々に済ませ、19時には寝袋に潜り込んだ。

 

▲C1にて夕焼けのなか、明日に備える。

 

▲世界第3位の標高をもつカンチェンジュンガ。

高所の影響を感じる朝

23日の午前3時。やはり、5,300mともなると冷え込みも強くなる。外気温はマイナス5℃ほどに感じた。私はこの日ほとんど眠ることができなかった。少しウトウトはしたが1時間寝れたかどうかという感じだ。サキさんも似たような感じだった。寝不足はよくあることと思い、朝食を食べ始める。だが、いままで食べていたアルファ米がなかなか喉を通らない。仕方なく食べきることは諦めて半分残した。こんなに食欲が落ちたのは初めてだった。サキさんはテントの外で少し吐いていたようだった。緊張と高所の影響を実感する。

まだ陽が昇る前の暗闇に寒さを感じながらテントの外に出て準備を始める。金子・石川、花谷・サキでそれぞれペアを組みロープを結んだ。ここからはいよいよ氷河上を歩いていく。金子・石川のペアが先に氷河に取り付いた。氷河の氷にアックスとクランポンを効かせながら登る最中、息切れとともに少し吐き気を感じていた。喉になにか詰まる感じがしてむせる。なんだろう、この重さは……。そんな私とは違い、ロープを結んでいた金子君は好調に見えた。

少し平坦になった場所で気持ちを切り替える。病は気からではないが、大きな呼吸をして「ハッ!」っと力を入れ直すと、先ほどまでの不調がなくなってきた。日が当たるようになると気持ちも和らいだ。しかしながら、氷河にはクレバスという巨大な氷の割れ目が点在しているので、慎重にルートを選びながら進んでいかなければならない。

 

▲氷河の真っ白な雪原を進む。

 

▲眼下にはヒマラヤの絶景が広がる。

想定の範囲外

5,600mまで標高を上げるとコルに出た。いままでの行程はひとつの谷のなかだったため、ようやく尾根の反対側の景色を見ることができた。見渡す限り山々が連なり、遠くには世界第5位の標高をもつマカルーが見えていた。たくさん山があるんだなと改めて実感する。

ここからは標高約6,000mの前衛峰タナプーへと伸びるリッジを進んでその基部を目指す。基部にたどり着くと、思っていた以上に斜度がある雪壁が立ちはだかった。普段ならなんてことのない雪壁、日本でも経験のある斜度ではあったが、このときの雪質は悪く、アックスを振り込んでもザラザラの雪を切ってしまい、支持力は得られなかった。また、周りにはガラガラの岩しかなく、雪にしろ岩にしろ万が一落ちたときに止めるための支点として十分に機能させることができないと感じた。登れるかもしれないという気持ちもあったが、本調子ではない体も相まって、ここは行けないんじゃないかと思ってしまったのだ。金子君と相談し、装備的にも今日は行けないと判断し、後方を来ていた花谷さんたちと合流した。話し合いの末、別ルートを検討しながら一旦C1へ戻ることに。そもそもタナプーに登攀はないと考えていたためクライミング装備はベースキャンプに置いてきていたのだが、それが大きな誤算だったのだ。

C1へ戻るとサキさんに高山病の症状が強く出始めていた。吐き気や頭痛で座っているのも辛そうな状態だった。戻って正解だったのかもしれない。C1で小休止をとると下山の準備を始めた。24日からは天候が崩れていく予報が出ていたことと、別ルートに可能性を見出すほうがいいと考え、すべての装備を下ろすことになった。日程的に残りが少なかった花谷さんが同行できるのはここまでとなった。

次のルートを模索して

一夜明け24日、別ルートの有力候補だったベースキャンプから近く、シャルプーⅥ峰の南側のコルに抜けるルートを偵察に向かった。結果的には、タナプーを越えていくよりももっと悪かった。落石や懸垂氷河の崩壊のリスクが非常に高い場所だったのだ。装備は降ろしてしまったが、最初のトライと同じルートからタナプーを越えるのがいちばん可能性が高いということになった。25日はレストを取り、26日からクライミングの装備を持って荷上げとルート工作を事前に行なうことに決まった。

ここからは花谷さんに別れを告げ、3人での登山が始まった。26日と27日の2日間で氷河上の傾斜が強い場所に1本、タナプーの基部に1本、フィックスロープを設置した。気温が下がった影響か、このときのタナプーの基部は雪が良い状態に変わっており、簡単に登ることができた。また、ロープを伸ばした先の岩に比較的信頼できる支点も作ることができた。高所への順応もだいぶ進み、明らかにパフォーマンスが上がってきていた。28日、29日と2日間ベースキャンプでレストを挟み、30日から2回目のゴーアップを決定した。

 

▲ベースキャンプからほど近い丘に登り、新たなルートを考える。

2回目のゴーアップ

30日、ベースキャンプからC1まで歩みを進める。ルート工作のおかげで体の順応も進んでいた。しかしながら、翌日は1時に起床して夜間行動となる。前回はなかったクライミングも交えながら進まなければならない。寒さや、高所でのクライミングの影響がどこまで出てくるのかわからない部分も多い。そして、進むだけでなくつねに帰る方法を頭に入れておかなければならない。どこまで行っても登山道は用意されていないのだから。それを実感させられたのがこの2回目のゴーアップとなった。

 

▲2回目のゴーアップが始まる。

 

次回は、シャルプーⅥへの2回目のトライをお伝えします。登って下る、下降の難しさを実感させられた数日間。

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PROFILE

石川貴大

PEAKS / フォトグラファー・登山ガイド

石川貴大

日本山岳ガイド協会認定ステージⅡの登山ガイド。山岳撮影や山岳歩荷、リバーガイドなど多方面で活動。プライベートではクライミングを中心に一年を通して山を楽しんでいる。

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