【雪山登山の注意点】始める前に知っておきたい基礎知識
PEAKS 編集部
- 2024年12月20日
INDEX
イメージは先行するけれど、実際に行ったことのない雪山登山。
どんなことが起きるのか、幅広く基礎知識を知っておきたい。
読者のみなさんが抱く、よくある質問を先生にぶつけてみました。
編集◉PEAKS編集部
文◉福瀧智子
イラスト◉高橋未来
先生:山岳ガイド/佐藤勇介さん
山岳ガイドステージII保有。夏はフリークライミングと沢登り、冬はアイスクライミングや雪稜・岩壁登攀、長期縦走を行なう。山形県出身、東京都在住。
Q1.雪山とひとくくりにしても、千差万別ですよね?日本の山ではどのような違いがありますか?
A.雪山とひとくくりにしても、降り始めから雪解けまでは約6カ月間と期間が長く、山のようすはさまざま。大きくは「新雪期」「厳冬期」「残雪期」と3つに分けることができ、登山の難易度も異なります。
本州の主な登山エリア 積雪期と気温の目安
■1.新雪期
雪が降ったり解けたりを繰り返しながら、徐々に根雪(雪解けの時期まで残る雪)がつき、少しずつ積雪量が増えていく時期。まだ藪が出ている箇所も多く、稜線では雪が風に飛ばされ岩などが露出していることも。雨か雪かの判断がつきづらいのもこの時期の特徴のひとつ(写真は11月末の赤岳)
- 北アルプス:11月~12月下旬
- 日本海側の中級山岳エリア(2,000m級・八ヶ岳含む):11月半ば~12月下旬
- 太平洋側の中級山岳エリア(2,000m級):12月下旬~1月初旬
■2.厳冬期
冬型の気圧配置の日が多く、積雪量が一気に増える時期。雪質は乾燥した粉雪が中心で、降雪直後などはラッセルが必要に。風の強い日が多く、また森林限界以上ではホワイトアウトも起きやすい。積雪量や地形、天候によって雪崩の発生もあり、初心者には厳しい環境(写真は1月の越中駒ヶ岳)
- 北アルプス:12月下旬~2月下旬
- 日本海側の中級山岳エリア(2,000m級・八ヶ岳含む):12月下旬~2月下旬
- 太平洋側の中級山岳エリア(2,000m級):12月下旬~2月下旬
■3.残雪期
積雪量は3月をピークに、徐々に減っていく時期。まれに大雪になることもあるが、みぞれや雨が降ることが多い。雪面はよく締まり歩きやすいが、日中と朝晩の寒暖差が激しいため早朝はアイスバーンやクラスト、日中は緩んでザラメ雪に。晴れる日が多く、熱中症や日焼けにも注意が必要(写真は4月末の燕岳)
- 北アルプス:3月~6月初旬
- 日本海側の中級山岳エリア(2,000m級・八ヶ岳含む):3月~5月下旬
- 太平洋側の中級山岳エリア(2,000m級):3月~4月旬
Q2.雪山に遊びに出かける計画を立てるなかで知っておくべき天気図の例はありますか?
A.天気図には季節によって現れやすい型(パターン)があります。降雪に関係する特徴的な天気図を覚えておくと、大量に雪が降りそうか、山が荒れるか……といった見当をつけることができます。太平洋側の山は冬場でもほとんど雪は降りません。
代表的な冬型の気圧配置といえば「西高東低型」。大陸からの冷たい空気が日本列島へ張り出し、西が高気圧、東が低気圧となる気圧配置のこと。日本海には筋状の雲が現れ、日本海側の地域に雪を降らせる一方で、太平洋側は晴れる傾向。「南岸低気圧」は冬後半から春先にかけて日本列島の南を通過する低気圧。低気圧が引き込む「寒気」によって関東甲信地方が雪になることがあり、降雪後は雪崩が発生しやすくなる(画像引用:気象庁「日々の天気図」)。
Q3.夏山にない、雪山ならではの天候はどのようなものがありますか?
A.西高東低の気圧配置となり、等圧線が密になると北よりの季節風が入り日本海側の山岳地域では強い風雪に。太平洋側では乾燥した冷たい強風となります。もちろん無風快晴の天候の日もあります。
■1.低気温
■2.暴風雪
■3.強風
緯度の高い北海道や東北、標高の高いアルプスなどは、髪の毛や水滴のついたニット帽、スマホまでが瞬く間に凍るようなマイナス気温にも遭遇する。そんななかへ登山に行くと肝に銘じて防寒対策を行なうことが大切。また、吹雪によって視界が悪化し、目的地まで予想以上に時間を要することも。現在地や進むべき方向を的確に見極めるためのスキルも求められる。強い風にも最大限の注意が必要だ。佐藤さん曰く「そのへんに置いておいたものが一瞬で消えてしまうほどの強風はざら。同じ風速10mでも、気温差も影響して冬の風速10mは夏の風より3倍くらいつらく感じます。雪山の風は命の危険を感じることがしばしばある」
Q4.雪山特有の地形的な危険にはどんなタイプのものがありますか?
A.雪崩がイメージしやすいですが、足元にも注意が必要。雪庇やツリーホール、スノーブリッジ(下に水が流れる橋状のアーチ地形)などを踏み抜くこともあります。木々から落ちてくる雪にも注意です。
■1.ツリーホール
転落に注意が必要なツリーホールは樹木のまわりにできる深い穴。
■2.雪庇
雪庇は尾根や稜線付近の風下側にできる雪の吹きだまりで、上から気づきにくい。
■3.雪崩
雪崩は吹雪の最中やまとまった降雪の直後に起きやすく、人為的な刺激が誘発することが多い。沢状の地形は雪崩が集中しやすく小規模でも被害が大きくなる可能性がある。
Q5.初冬とゴールデンウィーク、雪山スタートに適したタイミングはどっち?
A.雪山は残雪期からのスタートが好ましいです。その一因が日照時間。冬と春とでは日没に2時間以上の差があり、下りにさしかかる時間帯でも春はまだ雪が緩んでいて、歩きやすいからです。
冬至の日照時間は10時間弱。17時前には日没してしまう。時間的なリミットは精神的な焦りにつながり、トラブルに発展することも。日が長い季節に雪山を始めるのがベター。
Q6.雪のなかを歩くのはどれくらい大変なのでしょうか?
A.雪の締まった残雪期は比較的歩きやすいですが、柔らかい新雪の多い厳冬期はラッセルを強いられることがあります。大量降雪の直後は腿や腰まで潜る雪を進むこともあり、ツボ足では歯がたちません。
雪山は登山靴のまま歩く「ツボ足」が基本だが、雪に埋もれてまったく進めず、敗退ということも少なくない。体力や時間を浪費しないためにスノーシューやワカンを併用したい。
Q7.雪山登山のために新しく導入する道具はどんなものがありますか?
A.雪山で使う道具は数えればきりがないほどたくさんありますが、行き先によりその種類も異なります。まずはすでにもっている3シーズンのものに、少し足せば行けるような積雪の少ない低山から始めるといいと思います。
Q8.ウエアリングで注意すべき点はありますか?
A.雪山で一番怖いのは汗でウエアが濡れ、体を冷やしてしまうこと。汗をかかず、かつ寒くもないという絶妙なウエア環境を作ることが大事なのですが、これが難しい。夏山以上に早めの脱ぎ着を心がけます。
雪山では短時間でも行動を止めたらすぐに保温着を身に付けるのが鉄則。ダウン製品などはパック内の取り出しやすい場所に入れておくと行動がスムーズ。
Q9.人より冷え性なのですが、大丈夫でしょうか。
A.同じようなウエアを着ていても寒いと訴える人は女性が多いです。熱を作る筋肉が少ないことなどがその理由。男女問わず冷え性の人は体質をよく理解し、人より多く防寒ウエアを備えれば大丈夫です。
熱が逃げやすい手足の先端、耳、頭部を保温することで体温低下を防ぐ。体幹を暖めるのも効果的。厚手の下着を着用したり、運動中にベストや腹巻きを身に付けたり、背中にカイロを貼るなども◎
Q10.サングラスを忘れると目への影響はどうなりますか?
A.目の症状で怖いのが「雪眼」。強い紫外線を過剰に浴びることで起こる角膜の炎症で、涙が出つづけたり目が開けられなくなり、正常に戻るのに時間を要します。サングラスはレンズがUVカットのものでないと効果がありません。
雪山に降り注ぐ強い紫外線に当たりつづけると角膜の炎症はわずか1時間で起こるとされる。サングラスはUVカットレンズのほか、側面から入り込む紫外線も防止するため、顔に密着する形状のスポーツタイプや、写真のようなサイドシールド付きを選ぶといい。
Q11.GPSは必要?スマホで代用はできますか?
A.GPSはあるにこしたことはありません。大きい画面で確認できるスマホは便利ですが、不安材料も。自然環境が厳しいなかではグローブ操作ができ、画面も大きい専用のGPS端末がベストです。
「どこでも自由に歩ける雪山は、言い換えればだれかのトレースがない限り自身で道を判断するということ。また前後左右すらわからなくなるホワイトアウトはコンパスを使ってもなかなかまっすぐ歩けず、滑落したり、雪庇を踏み抜くような危険も隣り合わせ。GPSを活用して道迷いしないようにする必要があります」
Q12.行動食にはどんなところに気をつけるべき?
A.水分は凍結を防ぐため、水でもお湯でも基本的に保温ボトルに入れて携行します。行動食は手軽に短時間で食べられる、凍りにくいもの。揚げドーナツやかりんとうなど油分を多く含むものがオススメです。
山でおなじみの「おむすび」は凍りやすい代表的な行動食。「トレイルミックスやドライフルーツ、パンなど水分の少ないものは雪山でよく食べられます」
※この記事はPEAKS[2025年1月号 No.169]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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