
雪がないと開花できない!?みんな大好きミズバショウの生態|まだ知らない尾瀬ストーリー#04

HagiwaraMai
- 2025年02月20日
“尾瀬”と聞くと思い描く景色はどんなものでしょうか?
「湿原と山と木道」という景色を思い浮かべる方が多いかもしれません。尾瀬はその景色があまりにも有名で、その成り立ちや歴史、その周辺地域のこと、そこに関わる人々のことはほとんど知られていません。じつは尾瀬には感動的なストーリーがいくつもあるのです。
尾瀬をこよなく愛するOze Nature Interpreterの私が、尾瀬のさまざまなストーリーをお届けします!
雪がないと開花できない!?みんな大好きミズバショウの生態
「夏が来れば思い出す〜」で有名な尾瀬とミズバショウ。この曲を歌ったことのある方も多いのではないでしょうか(私より若い世代の方は知らない人もいるらしい)。
ミズバショウは雪溶けとともにその白い仏炎苞と、黄色いお花を見せてくれます。そう、白い部分は仏炎苞(ブツエンホウ)という葉っぱの一部なのです。お花は黄色い部分のブツブツ一つひとつ。ミズバショウのお花の数はとーっても多いんですよ。

じつはこのミズバショウ、冬になる前にすでに次の年の準備を終えていて、”冬芽”の状態で冬を迎えます。秋にはまったく注目されることがないミズバショウですが、写真を見てあれがミズバショウの冬芽だったんだ!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
秋に湿原をよーく見てみると、ミズバショウの冬芽がたくさんあることに気がつくと思います。

ミズバショウだけでなく、高山植物は基本的に短い夏のあいだに、発芽→開花→実をつける→種子を作る、と大仕事をいっきに行なうため、秋に次の年の準備をしていたりします。なんて効率が良いのでしょう!
でもそんなミズバショウの冬芽は、寒さにとっても弱い。もしも冬芽の状態で”雪が降らなかったら”、開花することはできないそうです。どこかの雪が降らない場所にあるミズバショウを植えた植物園では、袋に落ち葉を入れてミズバショウの上に敷き詰めておくとか。
そのくらい、ミズバショウにとって雪のお布団は重要なのです。え?雪がお布団!?と、イメージが結びつかない方もいらっしゃるかもしれませんが、雪の下では外気温よりも暖かい状態が保たれるようです。
ちなみにミズバショウは雪が降る北海道や新潟では普通に見られる植物で、この『夏の思い出』によって尾瀬のミズバショウが有名になったとき、その地域に住む方々は、なぜ尾瀬にミズバショウをわざわざ見にいくのか理解できなかったとか(笑)。
さてさて、ミズバショウと雪が大切な関係にあることはなんとなく理解いただけたかもしれません。しかし、最近はその雪が溶けてミズバショウが咲いてからのある問題が個人的に気になるようになりました。霜の害です(農作物などを育てている方ならきっとピンとくる問題ではないでしょうか)。

近年、尾瀬では雪の降る日が少なくなり、雪溶けの時期が早まるとミズバショウも早めに開花するようになりました。GW中でも暖かい日が続き、いっきに雪溶けの進む日があります。ミズバショウもそれに反応するように次々と開花して、かわいらしい姿があちこちで見られるようになります。
ただ、6月頃に遅霜が降りることがあり、そうなるとすでに開花していたミズバショウやほかの植物たちが焼けてしまったりします。霜で焼けてしまった植物は黒く変色し、発芽していた植物はお花をつけることがなく、開花していた植物は種子をつけることもありません。
ミズバショウもたくさんの黄色いお花をつけた”肉穂花序”という棒状の部分がボキっと折れてしまい、種子をつけることができなくなってしまうこともあります。また、このことによって開花しなかったお花があると、通常そこに集まる昆虫などほかの生き物たちへの影響もあるようです。

そして何より、私たち人間がこの気候変動を引き起こしてしまっている。自然のなかにいると、その一つひとつの小さな変化が彼らにとってとても大きなものであり、そのことがもしかしたらその種を絶滅させてしまうことにつながるのでは……と考えさせられることがあります。
「自然を守るってお説教みたいだよね」と言われることがあるけれど、こういうことを目にすると、どうしても自分のやってきたことを反省せずにはいられません。
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PROFILE

ランドネ / Oze Nature Interpreter
HagiwaraMai
尾瀬高校自然環境科の卒業生であり、尾瀬のビジターセンターや山小屋、ガイド団体で働いた経歴をもつ。現在は、尾瀬をこよなく愛するOze Nature Interpreterとして尾瀬とその周辺地域の知られざるストーリーを伝える活動をしている。
尾瀬高校自然環境科の卒業生であり、尾瀬のビジターセンターや山小屋、ガイド団体で働いた経歴をもつ。現在は、尾瀬をこよなく愛するOze Nature Interpreterとして尾瀬とその周辺地域の知られざるストーリーを伝える活動をしている。