北村秀行が解説! 好敵手ブリの行動理論【Part 2】
SALT WORLD 編集部
- 2021年12月08日
魚はそれぞれに生態、性格が異なる。そしてその魚を知ることで、攻略の幅が広がる。常に魚のことを研究し、得た知識を基にして何がベストかを考え長きにわたり様々な魚と対峙してきた、ジギングの超エキスパート・北村秀行氏。今回、そんな北村氏にブリについて書き綴ってもらった全3回の、【Part 2】をお届けする。
ブリの日本近海の回遊ルート
ブリには2系群いて、日本海対馬暖流系群と太平洋系群がいる。日本海対馬暖流系群は北海道沿岸と東シナ海の間を往復回遊する対馬暖流域北部往復型。能登半島以西の日本海と東シナ海の間を往復回遊する中・西部往復型がいる。
産卵は東シナ海中南部がメインで、南で早く1月から始まり、北で遅く4月で終わる。
2月~4月中旬、玄海灘沖の七里が曽根周辺の水深90mで、これから産卵するであろう、腹太の10kg前後のブリが釣れるが、5月になると産卵後のブリが多くなる。大型ブリは1月~2月の早期に下り、4月になると産卵後の痩身で、頭が大きい、大根ブリと呼ばれる個体が出現し、北上が始まる。
▲七里が曽根水深90mでヒットした、3月産卵期のブリ。10・5㎏。
日本海中部では、マダイや産卵に加わらない2~3歳魚のワラサが越冬している。東北の日本海は冬季潮温が2・3度も上昇し、表層潮温が8~9度もあり、ブリのいる層の潮温は9~10度だろう。ブリの生活最低潮温は8度前後で、それ以下では低温マヒし、長時間続けば死ぬ。
太平洋系群のブリは、房総半島以南に産卵場所が何か所かあり、遠州灘~四国南西岸回遊群、紀伊水道~薩南回遊群、豊後水道~薩南回遊群があり、小規模の回遊群もいる。産卵は南方の薩南諸島域では早く、2月頃から始まり、房総、伊豆半島では遅く、7月頃に終わる。
ブリの産卵行動と成長
自然産卵の目撃報告はなく、ブリの仔稚魚の発生で産卵場を確認し、特定するが、未確認の産卵場や遊泳層、回遊コース等、まだ不明な点が多い。8kg前後のブリ30匹に、アーカイバルタグ(データ記録式タグ)を腹部に手術して埋め込みリリースして、再捕されたブリのデータを解析したところ、新たな興味深いデータが取り出せた。
ブリの遊泳水温層は18~23度の層で、潮温の低い春は90mを、表層潮温が上昇する夏は50~80m層を遊泳し、産卵期になると200mより深い層に頻繁に潜っては急浮上を繰り返していたのだ。そして最探430mまで潜った記録が出てきた。
この動きは産卵期の行動で、産卵に関係しているのは明白で、産卵期以外に浅深移動は記録されていない。多回産卵行動時、魚自体の腹部筋肉だけで卵や精子を放出するのには無理があり、急浮上、潜行を繰り返し、水圧を利用して腹部から肛門へ卵や精子を移動させているのだろう。数日から数週間おきに産卵を繰り返す多回産卵なので、次に産卵する卵や精子を肛門部に移動させているのだ。
▲回遊ルートなど、未知の部分も多い。北村氏は、様々な場所でタグ&リリースを行っている。下は、データ記録式のアーカイルバルタグ。これにより、産卵期に深い層に潜っては急浮上するという行動をしていることが分かった。
この深く潜ったブリは薩南海域の黒潮流域を回遊移動していた個体で、この海域に来遊するのは産卵しか考えられない。生まれた場所に帰り、産卵する行帰巣本能で、性成熟するとこのような行動をするのだ。
産卵数は3歳魚で60万個、6歳魚で150万個前後を産出する。分離浮性卵で直径は1.3~1.5㎜の球形卵で、受精後、潮温20度では48時間で孵化。仔魚の浮力でゆっくりと浮上、孵化後は4~5日で表層の空気を吸い開鰾(かいひょう)して、浮袋を膨らませ、背骨を真っ直ぐにする。
開鰾が解明される以前は、人工種苗の背骨が曲がったり、欠損したりした。エアレーションで攪拌され、空気が吸えず、水槽の底で死ぬ仔魚が多く、原因が不明であった。
▲ブリの仔魚。自然産卵の目撃報告はなく、ブリの仔稚魚の発生で産卵場を確認し、特定するが、未確認の産卵場や遊泳層、回遊コース等、まだ不明な点が多い。
仔稚魚には遊泳力はなく、表層を浮遊し、潮目に多く寄せられ、流れ藻等の浮遊物周辺に蝟集する。成長とともに遊泳力がつき、浮遊物から離れ、群れでの回遊が始まる。その後、2歳の後半から性成熟が始まり、3歳では全てが性成熟する。
成長はヒラマサよりは遅いが、マダイやハタ類よりは早く、最大で25kg前後に成長する。30kgが捕獲されたという、昔の話を聞くが、最近は20kgでも珍しく、10~13kgで大物だ。ヒラマサの寿命は12年で最大96kgに成長するという記録があるが、ブリは寿命は7年であり、大きさに差が出る。ブリの群れは大群で、少なくても300匹、多いと1万匹の群れになり、捕食競争が激しく、捕食率も良いとは言えない。
一方ヒラマサの群れは、3~30匹の少数であり、捕食率も良く、貪欲で何でも捕食するため成長も早い。ブリの群れはイワシ、サンマのように、同じ方向を向いて回遊する。ヒラマサはあっち、こっちに頭を向けて泳ぎ、我先に移動する感じだ。
群れている理由は、1個体では2個の目しかなく、狭いエリアしか危険察知ができないが、目の数が沢山になれば、広い範囲の危険察知ができるからだ。危険察知能力、危険回避能力を高めたことで、その結果として異常と思えるほど臆病な性質になった。渓流魚に例えるとブリはヤマメ的で、ヒラマサはイワナ的な警戒心だ。
▲ブリの生息域と産卵場(※○~○月は、産卵する期間の目安)
【この記事は2019年10月現在の情報です】
北村秀行が解説! 好敵手ブリの行動理論【Part 1】はこちら>>>
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SALT WORLD 編集部
近海から夢の遠征まで、初心者からベテランまで楽しめるソルトルアーフィッシングの専門誌。ジギングやキャスティング、ライトゲームなどを中心に、全国各地の魅力あるソルトゲームを紹介しています。
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