
今村駿介が終盤に逆転しエリート初制覇、U23は橋川丈、女子は水谷彩奈がV|全日本選手権TT

せいちゃん
- 2025年06月29日
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2025年6月29日(日)、栃木県栃木市と群馬県板倉町にまたがる渡良瀬遊水地で「第28回 全日本選手権個人タイムトライアル・ロードレース大会」が開催された。男子エリートでは今村駿介(ワンティ・NIPPO・リユーズ)が最終盤に逆転し初優勝。男子U23は橋川丈(愛三工業レーシングチーム)が、女子はU23の水谷彩奈(チーム楽天Kドリームス)が総合トップタイムを記録し、それぞれ栄冠を手にした。
舞台は渡良瀬、久々の平坦王者決定戦
ロードレースの舞台となった静岡県の日本CSCとは異なり、今年のタイムトライアルは渡良瀬遊水地で開催。谷中湖の北ブロックと谷中ブロックの外周をまわる1周7.3kmのコースは、テクニカルなコーナーも無い完全なフラットレイアウトだ。過去にJBCFのタイムトライアルチャンピオンシップなどが渡良瀬遊水地で開催されたことはあるものの、全日本選手権は初開催。近年はアップダウンの厳しいコースが続いていたため、純粋な独走力が試される久々の平坦王者決定戦となった。
男子U23:橋川丈がロードの雪辱晴らすリベンジV
午前8時30分にスタートした男子U23は、36.5km(5周)で争われ、16名が2つのウェーブに分かれて出走した。

第1ウェーブでは、望月蓮(チームブッファーズ・ジェスチョンドパトリモワンヌ)が快走。1周目完了時の中間計測でトップに立つと、そのままの勢いで前を走る選手をパスし、45分00秒の好タイムでフィニッシュ。暫定トップに立った。

午前9時30分スタートの第2ウェーブ。序盤は梅澤幹太(チームブリヂストンサイクリング)が望月のタイムを上回るペースを見せるも、2周目以降は失速。ロード王者の森田叶夢(京都産業大学)もタイムが伸び悩む中、圧巻の走りを見せたのは、先週のロードレースで森田に敗れた橋川丈(愛三工業レーシングチーム)だった。中盤から後半にかけてぐんぐんとタイムを伸ばすと、2周目完了時点で暫定トップに浮上。そのまま力強い走りを維持し、44分49秒でフィニッシュ。見事ロードの雪辱を果たし、フィニッシュ後には高々と人差し指を掲げた。2位には望月、3位には梅澤が入った。

ベルギーで生まれ育った22歳の橋川は、元プロ選手の橋川健氏を父に持つ。今季から愛三工業レーシングチームに加入し、その実力を日本の頂点で証明した。
優勝した橋川は「少しホッとしました。TTは実力勝負で、準備がすごく大切。チームのスタッフの皆と愛三工業レーシングチームで準備してきて、僕が最後に勝負するという形にしてくれたので、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」とチームへの感謝を語った。そして、「これはまだ自分にとって自転車競技選手としての道の途中なので、もっともっと強くなって、来年はエリートでチャレンジしたい」と更なる飛躍を誓った。
2位の望月は「目標タイムに届かなかったので悔しい」と唇を噛み、3位の梅澤は「序盤から突っ込んで、ずっと耐える走りでかなりしんどかった」と過酷なレースを振り返った。
女子:TT初挑戦の水谷彩奈が衝撃の優勝

女子エリート+U23(29.2km、4周)では、衝撃的なニュースターが誕生した。レースは序盤、エリートの梶原悠未(TEAM Yumi)が1周目の中間計測でトップタイムを叩き出しリードする。

しかし、これを猛追したのが、U23でタイムトライアル初挑戦という水谷彩奈(チーム楽天Kドリームス)だった。なんとTTバイクに乗るのはこれが2回目、バイクも男子U23に出場した長島慧明(AX Cycling Team)が走ったものを借りて出走したという19歳は、1周目に梶原に5秒のビハインドを負うも、3周目には逆転。そのまま力強い走りでエリート選手を抑え、40分00秒のトップタイムでフィニッシュ。U23優勝と同時に、総合優勝という快挙を成し遂げた。2位には梶原、3位には阿部花梨(イナーメ信濃山形)が入った。
優勝した水谷は「TTに出場するのが初めてで、TTバイクに乗るのも2回目でした。1周目は速すぎたかなと焦ったんですけど、それをキープできたので良かったです。100点満点です」と満面の笑みを見せた。先週末のロードレースではフィニッシュしリザルト発表後、僅か2秒差でタイムアウトという悔し涙をのんだが、1週間で最高の笑顔を咲かせた。
2位の梶原は「きつい気温の中、力を出し切ることができました」と語り、3位の阿部は「先週のロードは4位で悔しい思いをしたので、今日は表彰台を目指して頑張りました」と安堵の表情を見せた。
男子エリート:今村駿介、最終盤の大逆転で頂点へ
午後2時から始まったメインイベントの男子エリートは、43.8km(6周)で争われた。

第1ウェーブでは、22歳ながらエリートに出場した林原聖真(群馬グリフィンレーシングチーム)が53分6秒の暫定トップタイムを記録し、強豪ひしめく第2ウェーブを待つ。

午後3時10分スタートの第2ウェーブ。2023年チャンピオンの小石祐馬(JCLチーム右京)が1周目から異次元のタイムを連発し、レースをリード。ディフェンディングチャンピオンの金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)は1周目で12秒のビハインドを負うスロースタートとなった。

レースは小石が中間計測でトップタイムを刻み続け、このまま逃げ切るかと思われた。しかし、最後の最後でドラマが待っていた。ヨーロッパのレースで揉まれてきた今村駿介(ワンティ・NIPPO・リユーズ)が、5周目完了地点の中間計測で、ついに小石のタイムを上回ると、そのままの勢いでフィニッシュ。52分33秒というタイムで、劇的な逆転優勝を飾った。金子も後半に猛烈な追い上げを見せたが9秒及ばず2位、先行した小石は12秒差の3位となり、トップ3が僅か13秒にひしめく大接戦を今村が制した。

福岡県出身の27歳、今村は2019年のU23王者。今シーズンからベルギーのコンチネンタルチームに所属し、海外で実力を磨いてきた。その成果を、日本一の称号という最高の形で証明してみせた。
優勝した今村は「嬉しいですね。このために帰ってきてるんで」と率直な喜びを語った。レース中は無線が聞こえず、「アナウンスの盛り上がり具合と、通過するときの皆さんのリアクションを見ながら走っていた」という。そして「最後はしっかり出し切れたことが良かった。海外から帰ってきて、少しは力がついているところを見せられたかなと思う」と、ヨーロッパでの成長を結果で証明した。
2位の金子は「悔しいです」と一言。2連覇を狙っただけに、その表情には無念さが滲んだ。3位の小石は「暑かったです。プランとして1周目から飛ばしていった」とレースを振り返った。トップ3が僅か13秒にひしめく大接戦を、今村が制した。
リザルト
男子エリート(43.8km)
1位 今村駿介(ワンティ・NIPPO・リユーズ) 52分33秒
2位 金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム) +9秒
3位 小石祐馬(JCLチーム右京) +12秒
4位 林原聖真(群馬グリフィンレーシングチーム) +33秒
5位 岡篤志(宇都宮ブリッツェン) +55秒
6位 寺田吉騎(バーレーン・ヴィクトリアス・デベロップメントチーム) +58秒
7位 山本大喜(JCLチーム右京) +1分2秒
8位 新城幸也(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ) +1分14秒
9位 宮崎泰史(キナンレーシングチーム) +1分26秒
10位 風間翔眞(シマノレーシング) +1分47秒
男子U23(36.5km)
1位 橋川丈(愛三工業レーシングチーム) 44分49秒
2位 望月蓮(チームブッファーズ・ジェスチョンドパトリモワンヌ) +11秒
3位 梅澤幹太(チームブリヂストンサイクリング) +36秒
4位 山里一心(早稲田大学) +40秒
5位 大室佑(群馬グリフィンレーシングチーム) +46秒
6位 森田叶夢(京都産業大学) +52秒
7位 神谷啓人(京都産業大学) +1分6秒
8位 三浦一真(チームブリヂストンサイクリング) +1分15秒
9位 三宅太生(群馬グリフィンレーシングチーム) +1分48秒
10位 永井健太(ヴィクトワール広島) +2分30秒
女子エリート+女子U23(29.2km)
1位 水谷彩奈(チーム楽天Kドリームス) 40分00秒
2位 梶原悠未(TEAM Yumi) +34秒
3位 阿部花梨(イナーメ信濃山形) +1分0秒
4位 山下歩希(弱虫ペダルサイクリングチーム) +2分2秒
5位 森本保乃花(近畿大学) +2分20秒
6位 古谷桜子(内房レーシングクラブ) +2分31秒
7位 石田唯(TRKWorks) +2分40秒
8位 渡部春雅(Liv Racing Japan) +2分41秒
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PROFILE

稲城FIETSクラスアクト所属のJプロツアーレーサー。レースを走る傍ら、国内外のレースや選手情報などを追っている。愛称は「せいちゃん」のほか「セイペディア」と呼ばれている