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宮澤 崇史のエタップ紀行「ツール・ド・フランス観戦」

エタップを走ったあとは、ツールの観戦

ツール・ド・フランスのコースを走る。イベント「エタップ」を走った宮澤崇史さん。その後はツール観戦を行った。元プロ選手は「どうやって、なにを観戦するのか?」その楽しみ方を紹介していきます。

ツールの楽しみ方

ツール・ド・フランスの魅力を知るには、その場に足を運ぶことに尽きる。
スタートは全ての選手が緊張感を持って迎える。
選手達はチームバス内のミーティングで今日のステージをどう戦うかを話し合い、サインボードへと向かう。

スタート前のチームバス周り

スタート地点では選手を見る時間よりも各チームカーやチームバスを見ることに費やす時間の方が圧倒的に長くなる。
サポートカーに積まれた自転車はどれもアウター、そして軽いギアから4枚目にセッティングされている。レース中自転車を交換しなければならなくなった選手が走り始めた時、クランクを回しやすいギアに入れて渡せるように。このように、どのチームも細心の注意を払ってレースに臨む。

サイモン・イェーツのバイク(ギアはアウター4枚目)

懐かしい顔に再会

緊張感を全身に漂わせながらサインへと向かう選手に話しかけることは非常に難しい。逆にゴールした後であれば、選手との時間は作りやすい。
選手と接点を持つならば、レース前よりもレース後がお勧めだ。

レースは、集団が安定している時よりもレースが活性化している前半戦、もしくは勝負どころで観戦すると得られる情報は多い。
選手との近さはどのスポーツ競技も叶わないところがロードレースの醍醐味だ。
選手達が走る風を肌で感じながら、スタート前に見たあの緊張感とはまた違った眼光の鋭さ、本気で走る緊張感を体感できるのは、数十センチの至近距離で観戦できる競技だからこそ。
レース会場で久しぶりに会ったクリス・ユール・イェンセン(ミッチェルトン・スコット)そして、マイケル・モロコフ(ドゥクーニンク・クイックステップ)。二人ともレース前のほど良い緊張感の中でリラックスしていた。大勢の人でごった返す中で遠くから僕を見つけて”Hey, Takashi!”と声をかけてくるほど周りが見えていた、すなわち落ち着いていたということだ。

クリス・ユール・イェンセンと再会

スタート、ゴールが同じ16ステージを楽しむ

第16ステージのニーム〜ニームでは、スタートと、前半のアタック合戦から抜け出した先頭集団がメイン集団にタイム差をつけようとしている20km地点、そしてゴールを観戦した。優勝したのはカレブ・ユアン。
各チームのソワニエがゴールで待ちかまえ、選手を迎える。

表彰式待ちのジュリアン・アラフィリップ

発着地点が同じこのステージ、僕たち観客はスタートとゴールの両方を見ることができたし、選手たちは移動の必要がなく連泊できるという、長期戦のツール・ド・フランスの中でも休息日以外で唯一ゆっくりできたステージになったことだろう。

ニームはフランス最古の古代ローマの都市。当時そのままの円形闘技場や神殿が街の中に点在する、素晴らしく魅力的な街だ。
エタップを一緒に走ったメンバーで地元のワインバーに繰り出し、南仏のワインと地元の食事とのペアリングを存分に楽しむ。

ニームの中心街にあるメゾン・カレ

何軒かハシゴをした後、メゾン・カレ(歴史的記念物・古代ローマ時代の神殿)でワインを飲みながらフランス文化に触れる。古代の人々がきっとそうしたように(日本では重要文化財の建物によじ登って酒を飲むなんて行為は許されないだろう。文化に対するフランスの懐の深さよ!)。

ツール・ド・フランスとエタップの話題は尽きることがない

フランス人がしないことまでとことんやり抜くことで、フランスという土地を理解する。
ニームを後にし、最終ステージのパリへと向かう。

パリ市内は黄色一色!

そして最終ステージのパリへ!

シャンゼリゼは昼前から厳戒体制。市内を東から西へ移動することはほぼ不可能で、コースを一周しないと反対側へは渡れない。
昼過ぎにはセーヌ川の北コース側は歩行者すら通ることができなくなっていた。
自転車レースを飛び越えて存在するツール・ド・フランスというイベントの大きさと影響力をひしと感じた。
ツール・ド・フランスを他の自転車レースと比べることすら間違っている。
ここで行われるのは間違いなく、世界一、唯一無二のイベントなのだ。

今回この最終ステージを、凱旋門を真正面に望むコンコルド広場で見ることができた。
VIP席が独占するゴール前500mから400mはレースのクライマックス。

VIPエリア「ヴィラージュ」のテラス席。

ここにたどり着くまで走り抜いてきた戦士達へのリスペクトをお祭りの中で大いに盛り上げること、それは選手にとっても嬉しいこと。
残り一周、最大限に盛り上がった観客、最高潮に達した集団の緊張感の融合といったら、簡単に表現できるものではない。そしてゴール。誰もが万感の思いを胸に抱く瞬間。

残照に輝くコルコルド広場を過ぎ、シャンゼリゼを走るプロトン

そして、潮が引いた後のようなレース後のバックヤード。選手たちはツールという長い長い旅路の果てに、それぞれ家族の元へと帰っていく。
チームカーの脇では、各選手の家族が恋人が今か今かと待っていた。
年間を通して一緒に過ごせる時間が少ない家族は、選手達にとってかけがえのない存在だ。

サイモン・イェーツ、レース直後の穏やかな表情

新たなる旅立ち

しかしこの旅も、2019年シーズンの一幕にしか過ぎない。
またすぐに、次の旅へと選手たちは向かっていく。
終わりの見えない旅はまだまだ続き、引退という終止符を打つその日まで選手は戦い続けるのだ。

自転車レースの中でもこれ以上ないツール・ド・フランスという唯一無二のイベント、その瞬間を目に焼きつけた。
長い歴史のほんの僅かな一片でも目に焼き付けることができたならば、それは我々自転車ファンにとって何にも代えがたい一生の記憶になるだろう。

 

宮澤崇史

NIPPO、ブリヂストン・アンカーを始め、UCIワールドチームにも在籍したスプリンターで、北京オリンピック代表選手。2014年に現役を引退後、チーム監督やレース解説、若手育成など多くのバイクに携わる仕事に携わっている。

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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