Wilier Triestina・ZERO SLR【ハシケンのロードバイクエクスプローラー】
ハシケン
- 2019年12月18日
スポーツバイクジャーナリスのハシケンが、今もっとも気になる最新モデルをピックアップ。
テクノロジーの詳細はもちろん、前モデルとの比較など徹底的に掘り下げて紹介。
100km走行から感じたライドフィールを明らかにする。
待望のクライミングマシンがディスクブレーキをまとい誕生
イタリアンレーシングブランドのなかでも存在感を放つウィリエール・トリエスティーナ。北イタリアのロッサーノ・ヴェーネトに本社を構え、2019年で創業113年めを迎える老舗だ。
第二次世界大戦直後の1940年代後半、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスを制覇。1950年代にはモータリゼーションの荒波にさらされ栄光の歴史はあえなく途絶えてしまうが、1969年に現在も経営の指揮を執るガスタデッロ家により復活を果たすことになる。以降、アレッサンドロ・バッランによるアルカンシェルの獲得、アレッサンドロ・ペタッキによるマイヨ・ベールの獲得など、その活躍はレースファンの記憶に刻まれている。
技術革新が進んだ2000年代、現在もブランドの中核を担うチェントシリーズ、そしてゼロシリーズが誕生。初代ゼロ7(セッテ)はフレーム重量750gという軽量モデルとして人気を博した。それから8年、ウィリエールの革新的な技術の結晶としてゼロSLRが誕生。2019年、プロコンチネンタルチームのトタル・ディレクトエネルジーとともにツール・ド・フランスを駆け抜けている。
今回は、軽量ディスクブレーキロードとして世界で初めてケーブルの完全インターナル化を実現した、電動変速専用フレームを徹底的に紹介する。
TECHNOLOGY 【テクノロジー詳細】
ウィリエールの軽量レーシングラインがフルモデルチェンジを果たし、新たに誕生したゼロSLR。
ゼロシリーズ初のディスクブレーキ軽量モデルのテクノロジーに迫る。
2つの新素材を採用し、最高レベルの重量剛性比を獲得
軽量ディスクブレーキモデルとしては、世界初のケーブル完全内装を実現した電動変速専用フレームであるゼロSLR。独自で新たに開発したハスモッドカーボンに三菱65トンカーボンをブレンドし、さらにLCP(リキッドクリスタルポリマー)という液晶ポリマー技術を投入することで、衝撃吸収性と耐衝撃性を高めることに成功。フレーム重量780g、フォーク重量345gを実現しつつも高い品質を約束する。実際、高温の車内環境下に置かれたバイクに乗った選手の声として上がったフレーム性能の低下をフィードバックするなど、現場の声を生かした開発がなされている。さらに、フレーム製法は、従来のEPS製法からアドバンスドVABM-EPSプロセス製法へ変更され、仕上がりも洗練されている。
ゼロSLRでは軽さだけでなく、重量剛性比を重視して、カーボンシートの方向や張り込みを工夫。ディスクブレーキモデルとしては非常に軽量なフレーム重量780g を実現しつつ、ゼロ7やゼロ6を24%上回る重量剛性比を獲得。
ハンドルやシートポストは軽さを追求した独自開発となり、フレームサイズに合わせた6サイズを用意して最適化している。
軽さに加えてシリーズ最高レベルの重量剛性比を実現
フルインターナル化した軽量フロントフォーク
分割式で高さ調整が容易なエアロコラムスペーサーの採用
トレンドを踏襲しつつ独自のスタイリングを追求
軽量化を追求したエアロシートポスト構造
素早い脱着を可能にするマヴィックのスピードリリース採用
独自開発のインターナル「ゼロハンドルバー」
GEOMETRY
100km IMPRESSION 【100km徹底乗り込みインプレッション】
実走派ライター・ハシケンがイタリアンレーシングブランドが生み出す
軽量レーシングモデルを徹底インプレッション。
ウィップを生かした登坂を楽しめる新生クライミングマシン
ゼロシリーズ初となるディスクブレーキモデルのパフォーマンスに、大きな期待を持って走り出した。ここ数年、各社のフラッグシップモデルはこぞってエアロダイナミクスを追求し、生粋の軽量モデルでさえ重量増に目をつむってエアロ道へと舵を切ってきた。そんななかで、ゼロSLRは愚直に軽さを追求した結果、フレーム重量780gを達成。まずはその姿勢に拍手を送りたい。もちろん、フレーム重量が走りの性能とイコールではない。冷静に性能を見極めるため、秋深まる筑波山麓へとひとり駆け出した。
直線的な設計とケーブルのインターナル化によりスタイリッシュさをまとうゼロSLRは、そのただずまいどおりスマートな走り出しをみせた。山に入る前からトルクに対する素早いレスポンスが返ってくる。ゼロシリーズにおいてもっとも高い重量剛性比を実現しているだけあり、ダイレクト感は強い。いわゆるキビキビとした運動性能を実感できる。ただし、決してパワー負けするようなことはなく、サクサクとペダルを踏みこみやすい。
ディスクブレーキモデルは総じて剛性が高まりやすく、走りがソリッドになりすぎる傾向にあるが、ゼロSLRは低速域からの加速を得意とし、非力なライダーのパフォーマンスも引き出してくれる懐の深さが魅力ではないだろうか。いわゆるウィップを感じられるフレームだ。
登坂に入ると、その印象をさらに強くしていった。素早い左右のリターンが可能なダンシングは過去のゼロシリーズよりも安定感が増していてリラックスしやすい。前述のとおり踏み込みに対する抜けがよいのでケイデンスをキープしやすい。勾配が高まり疲労が蓄積してくるシーンで高い登板性能の恩恵に授かることができた。
アルテグラ完成車のホイールはシマノRS770であるため、個人的にヒルクライムやグランフォンドレースに挑戦するなら、より軽量なホイールをチョイスしたいところだ。しかし、この仕様で実測重量7・1kgであり、軽々と6kg台前半の山岳スペシャルに仕立てることも容易だ。そのポテンシャルの高さには改めて感服する。
軽量クライミングバイクであってもダウンヒル時の安定性は失っていない。狙ったラインをビシッとトレースする快感を楽しみながら連続するコーナーを一つひとつクリアしていった。シビアなコントロール性能はさほど求められず、下りが苦手なライダーでも安心できるだろう。
ライドを終えて、登坂適性をブラさずに全体のアップデートにも成功していることを確認できた。細部の構造に目を移せば、伝統的にレーサーの意見を尊重するウィリエールらしく、目新しい新設計のゼロハンドルバーだけでなく、軽さを突き詰めたシートクランプ形状、剛性を求めたシートブリッジなどメリハリの効いた思想を感じられる点も好感が持てる。
ゼロSLRは近年のウィリエールが生み出したニューモデルのなかでも大きな進化を遂げたモデルと言えそうだ。ディスクブレーキ時代の一歩を刻むにふさわしいクライミングバイクが堂々誕生した。
INFO
ウィリエール トリエスティーナ/ゼロ エスエルアール
デュラエース DI2完成車価格:120万円(税抜)
アルテグラDisc Di2完成車価格:84万円(税抜)
フレームセット価格:59万円(税抜)
■フレーム:HUS-MODカーボン+三菱65Tカーボン+L.C.P(780g)
■フォーク:HUS-MODカーボン+L.C.P(340g)
■コンポーネント:シマノ・アルテグラDi2
■ハンドル:ゼロハンドルバー
■ホイール:シマノ・WH-RS770
■タイヤ:アリスン・ヴィテスウルトラ(25C)
■サイズ:XS、S、M、L、XL
■カラー:ブルー、マットブラック、レッド
■完成車実測重量:7.1kg(Sサイズ・ペダルなし)
IMPRESSION RIDER
ハシケン
問:服部産業 スポーツ事業部 www.wilier.jp
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