突然導かれたゴールへの道 藤田涼平【El PROTAGONISTA】
管洋介
- 2021年04月24日
沖縄合宿をきっかけに開けたプロレーサーへの道
「春休み、どうせヒマなんだろうから、沖縄で自転車合宿してこい」。ロードバイクに再びまたがるようになった息子の姿を見ていた父は、沖縄の知人に頼んで、息子と岩村をホームステイさせた。「始めは専門学校時代の想い出になるかな……というノリだったんですが、現地のサイクルショップ沖縄輪業でアルバイトをしながら、地元のロードチーム男塾福山二輪倶楽部のメンバーと練習をするようになりました」
自転車漬けの日々。二人の目標は必然的に11月のツール・ド・おきなわに決まった。本格的に練習を積んで沖縄から戻った藤田はその直後、みずからの思いもよらぬ素質に気づくこととなる。
8月のある日、マスターズでトラック競技を目指していた父について、大宮競輪場でトラックバイクを借りて1000mを測ってみた。記録はなんと1分12秒。トラック上級者の壁となるタイムにたった一度で到達した。
「血筋からいって長距離しか向かないと思っていた自分が、5分以内の高出力に思わぬ力を発揮することに気づきました」
その後測定したVO2MAXの数値はなんと84。初めての4km個人追い抜きで4分50秒を記録するなど彼の能力は中距離種目で開花した。半年間の練習を経て挑戦したツール・ド・おきなわ100kmU 39では、3人の逃げを見送ったものの後続のスプリントで2着に飛び込み、本格的なレースで初めて5位に入賞した。
卒業間近に経験した自転車競技のおもしろさ。父に相談し翌年はさいたまサイクルプロジェクトで実業団デビューを果たした。
2017年は宇都宮ロードで3位、広島大会で3位と2段階昇格でE1まで上り詰め、その年のツール・ド・おきなわ100kmU 39でみごとに優勝、応援に来ていた沖縄合宿のメンバーを歓喜させた。翌年は全日本実業団個人追い抜きを4分39秒で優勝、渡良瀬タイムトライアルE1クラス優勝と、ついに藤田の実力が開花した。
「プロロードレースでも最後までトップグループに残っていれば、僕は最後の掛け合いの5分間で勝負できる。Jプロツアーでは長時間の速い展開に苦しみましたが、これは走力のベースを上げれば解決できると確信しました」
そして2020年、さいたまディレーブに入団してから、シーズンの3分の1のレースを完走する力を付けた。気がつけば本格的に自転車を始めて5年が過ぎて、中学時代一度は逃げた自転車競技に人生を賭けている自分がいた。
「自分には自転車で生きていく決意が競技に出合う前からあった。だから今の生き方に迷いはない。自分を強くしていく、それこそが未来を開くために必要なんです」
2021年開幕戦まであとわずか。秩父の山で黙々とロードワークに励む藤田の車輪の先に、一筋の光が見えた。
REPORTER
管洋介
海外レースで戦績を積み、現在はJエリートツアーチーム、アヴェントゥーラサイクリングを主宰する、プロライダー&フォトグラファー。本誌インプレライダーとしても活躍
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