ロードレース解説!「逃げを潰す」の集団力学、ポジショニングに注目する
米山一輝
- 2021年05月16日
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ロードレースでは大きな集団から少人数で抜け出す「逃げ」がレースの行方を左右していく。逃げを作るための「アタック」の華々しさの一方で、「逃げを潰す」側の動きもまたレースの攻防における見どころの一つだ。
今回はこの「逃げを潰す」に注目し、3月に開催されたジャパンサイクルリーグ(JCL)第2戦、カンセキ宇都宮清原クリテリウムを例に、「逃げを潰す」ための動きを実際に見ていこう。3月末に開幕したジャパンサイクルリーグ(JCL)のレース動画から勝負を決めたアタックはどのような目論見で打たれ、そして成功したのか。レースのキーポイントを深掘りして解説する。
カンセキ宇都宮清原クリテリウムに見た「逃げを潰す」戦術
カンセキ宇都宮清原クリテリウムでは、同大会を3連覇中のスプリンター小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)を本命に、集団をまとめてゴールスプリントでの勝利を目指すチームと、集団スプリントでは勝ち目が薄く逃げ切りで勝負したいチームとのせめぎ合いが、まずポイントになった。ここでは宇都宮ブリッツェンの動きを中心にみていこう。
レースはスタート直後から、逃げを狙うアタックと、これをすぐ吸収する集団という図式が、しばらく続いた。不安定な小競り合いからレースが動いたのは、全23周回の中盤に差し掛かった9周目。鈴木龍(レバンテフジ静岡)のアタックにキナンサイクリングチームの山本元喜・大喜の兄弟が合流し、メイン集団から数秒のリードを得たのだ。
さて、レース展開が逃げとメイン集団に分かれたとき、逃げが決まるか潰される(吸収される)かを左右するのは、両者の相対的な速度差だ。すなわち集団の平均速度がメイン集団の方が速ければ逃げは吸収されるし、逃げの方が速いか両者が同じであれば、逃げは吸収されずに逃げ切ることになる。
このことから戦術的に逃げを潰そうとした場合、取るべき動きは「逃げの平均速度を下げる」と「メイン集団の平均速度を上げる」の2つになる。具体的にどのようにしていくのか?
戦術1 逃げの平均速度を下げる
まずは「逃げの平均速度を下げる」方法。このためには「逃げを潰したいチームの選手が逃げに入る」ことが必要だ。今回のケースでは最初先行した3人へ後から追いつく動きに、宇都宮ブリッツェンは小坂光が反応して、10周目に逃げ集団へ合流することに成功した。
そしてここから取れる行動は、「A 先頭交代に割って入りペースを乱す」と「B 先頭交代に加わらない」の2つが挙げられる。
戦術A 先頭交代に割って入りペースを乱す
前者は先頭交代の列に入りながら、先頭に出ても速度を保たなかったり、先頭に出る順番になっても先頭に出ず脚を緩めたりしたりする方法だ。及ぼす影響が大きい一方で集団が不安定になる(スピードの上げ下げが大きくなる)ので、逃げを潰しに入った選手も脚を使う(スタミナを消耗する)ことになり、集団から脱落する(させられる)リスクもある。
戦術B 先頭交代に加わらない
後者は逃げを潰しに入った選手が集団後方に待機し続ける方法。
先頭交代の邪魔はしないが、体力を消耗しないまま逃げに居続けることで、仮に逃げ切ったとしても、先頭交代に加わった他の選手よりも優勝争いでは有利になる。集団のスピードに直接の影響は与えないが、他の選手に精神的プレッシャーを与えることができる。
今回のケースで小坂は後者、先頭交代に加わらないという動きを選択した。逃げをすぐには潰さないが、いつでも影響を及ぼせる状態(コントロール下)に置きつつ、先頭を引くライバルチームの選手に体力を使わせ、かつゴールへの距離を安定的に減らす意図といえるだろう。
戦術2 メイン集団の平均速度を上げる
今度はメイン集団での「逃げを潰す」動きを考えてみよう。メイン集団の平均速度を上げるには、逃げを潰したいチームの選手が集団先頭に立って、スピードを上げていくことになる。ただしどの程度スピードを上げるかは、先頭に立つ選手の力だけでなく、集団内の他の選手の意思も重要になる。あまり速すぎると他の選手が追随せず、集団が分かれてしまう場合があるからだ。
ここでは宇都宮ブリッツェン増田成幸の他にも、スプリンターを抱えるスパークルおおいたなどが追走の動きに加わった。一方で追走をけん引するすぐ後ろを、逃げに2人送り込んでいるキナンサイクリングチームが固めて、先頭交代の流れをせき止めにかかる。
集団の平均速度を上げるのにまず重要なポイントは、「極端に速度が落ちる時間を作らない」ということだ。
先頭をけん引する選手が誰もいなくなると、集団の速度は瞬間的に大きく下がってしまう。1人が全力でスピードを上げても後が続かないよりは、「そこそこのペース」で繋いでいった方が、前との差が広がりにくいのだ。 こうして逃げ集団との差を広げさせなかったメイン集団は11周目、増田が集団先頭で差を一気に詰めて逃げを捉えることに成功した。
この後の逃げの動きも宇都宮ブリッツェンは小坂らが反応しつつ増田が追走をまとめるなど対応に当たり、大集団のままゴールスプリント勝負に持ち込み、小野寺の4連覇へとつなげたのだ。
ロードレースにおいて勝利の瞬間はもちろん美しいが、勝負を決するポイントに至るまでに、各チームが同時進行で大小さまざまな試みをしている。こうしたレースの流れを選手の位置関係や動き方から読み取ることができれば、ロードレース観戦をさらに楽しむことができるはずだ。
5月16日18:00からプレミアム公開
第2戦チャンピオンは宇都宮清原クリテリウムをこう走った!
JCLロードレースツアー2021公式ホームページ
https://www.jcleague.jp/
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