帰ってきた若きエスペランサ 中田拓也【El PROTAGONISTA】
管洋介
- 2021年06月01日
シマノレーシングで迎えた飛躍の一年、その先に
夢をかなえた2018年は飛躍の年に。4月の東日本ロードではエスケープのきっかけを作り、終盤の展開でチームを優位に動かした。この働きからTOJメンバーに抜擢され、南信州ステージで落車するも持ち前のガッツで最終日まで残り、スプリンター黒枝咲哉のためにエスケープで貢献した。
この活躍を機に国際大会のレギュラー入り。なかでもツール・ド・おきなわではアシストで飛び出した逃げが本命となり、210kmの長丁場を7位でゴールし高評価を受けた。しかし、初めて過ごすシーズンオフで身体の丈夫さを過信し、オフ明けを急いだのが落とし穴となった。「入部さんを超えたい一心で冬場に沖縄で個人合宿。シーズン前の鹿児島合宿のころには、右ひざの靭帯に違和感がありました」
それでも2019年のJプロツアー開幕戦で中田は大活躍。しかし翌週のツール・ド・栃木に選出されると、2日めのスプリントステージを終えた夜、右ヒザに猛烈な痛みが。「手で持ち上げないとベッドに脚が上がらない。それでもリタイアなんて考えもしませんでした」
テーピングでヒザを固めて最終ステージをスタートするが、すでに右ヒザは感覚を失っていた。「苦しみに耐えて左足頼りにゴールすると、もう完全に歩けない状態でした」
以降欠場が続き、バイクにまたがっては降りての繰り返し。人にも会えない精神状態に陥った。「あれからもう数カ月、このまま消えたほうが楽じゃないか……」
そんなとき全日本選手権だけは見ようとネットを見ると、最終展開でエスケープした入部が、新城幸也との一騎打ちに勝利したシーンが目に飛び込んだ。「自分が超えたいと思っている人がこんなにがんばっている!」
涙が止まらなくなり、中田は復帰を固く誓った。
そして厳しいリハビリを乗り越え、2021年の開幕戦で見せたエスケープ。それは中田がトップコンディションで戻ってきたことを証明した瞬間だった。「今僕は新しいスタートラインに立っている。伸びシロしかない自分を見てほしい」
2年越しでゴールを駆け抜けた中田の表情は、一点の曇りもなく輝いていた。
シマノレーシング 中田拓也
PERSONAL DATA
生年月日/1996年6月3日 身長・体重/178cm・68kg
血液型/A型
HISTORY
2016 VC 福岡エリート
2017 インタープロ
2018-現在 シマノレーシング
REPORTER
管洋介
海外レースで戦績を積み、現在はJエリートツアーチーム、アヴェントゥーラサイクリングを主宰する、プロライダー&フォトグラファー。本誌インプレライダーとしても活躍
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