ハシケンが実走レポート! クライマーの聖地・乗鞍に国立公園初のパブリックトレイル誕生
ハシケン
- 2021年11月27日
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ヒルクライムでおなじみの乗鞍に、国内有数の本格的なトレイルが誕生した。北アルプスの南端に位置する乗鞍岳は、中部山岳国立公園内にある。今回、ここ長野県松本市の乗鞍高原に、日本のナショナルパークとしては初となるマウンテンバイクで走行可能なトレイルが整備された。本格的な運用は2022年シーズンから。今秋、サイクルジャーナリストのハシケンが乗鞍高原へ向かった。来シーズンに向けて乗鞍のトレイル最新事情をレポートする。
ヒルクライマーにオススメしたい、新しい“乗鞍”の楽しみ方
正式名称は、Norikura Community Mountain bike Trais(NCMT)。のりくらコミュニティマウンテンバイクトレイルズは、夏場は涼しい標高1800mから標高1300mの高原エリアに広がる。乗鞍ヒルクライムではおなじみの三本滝レストハウスを最高地点に、麓に向けて複数のトレイルルートが整備された。初心者エリアと中級者エリアがミックスされた全長15.4kmだ。
この記事のターゲット読者はズバリ、乗鞍が好きなサイクリストや坂バカさんたちに、「来年はまずトレイルを走ってみよう!」「ヒルクライムと合わせてトレイルも走ってみよう!」と思ってもらうことだ。もちろん、一般観光客の方にも楽しんでもらいたいが、それはまた別の機会に紹介したいと思う。
さて、私自身、毎年夏場は乗鞍での長期滞在がルーティンだったが、どうしてもロードバイクばかり乗ることが多く、マウンテンバイクは縁遠い存在だった。しかし、今回のトレイル整備の中心人物で、乗鞍で長年MTBガイドツアーなどを手がけるノーススターの山口 謙(ヤマケン)氏に誘われ乗鞍のトレイルの世界へと足を踏み入れた。
3つのエリアでトレイルを堪能
NCMTのルートエリアは大きく3つに分かれる。
①Mt.乗鞍スノーリゾートのスキー場をメインにした三本滝から麓のペンション街までのエリア
②善五郎の滝~一ノ瀬園地のエリア
③夜泣峠~一ノ瀬園地~乗鞍BASEまでのエリア
このほかに、アクティビティ施設の乗鞍BASE内には、MTB専用のパンプトラックもつくられた。ちなみに、パンプトラックとは、盛土などで人工的に作られた凹凸コースのことだ。
国立公園初となるパブリックトレイルオープンまでの道のり
ところで、トレイルがテーマになると必ず議題に上がるのがトレイル走行による自然環境への配慮と地元地権者との折り合いだ。乗鞍でのトレイル整備についても例に漏れず、かつては、地元の地権者との取り決めがうまくいかなかった経緯があった。もともと乗鞍高原は、その豊かでダイナミックな自然環境を生かし、マウンテンバイクに盛んな土地だった。「乗鞍で自転車大会を開催しよう」という地元の声から1986年に始まった乗鞍ヒルクライム大会。その黎明期にはMTBレースも併催され、2014年から数年間は下り系MTBレースのエンデューロも開催されてきた。
そんな乗鞍高原に、今回公認の常設トレイルであるパブリックトレイルが誕生した。2014年には、のりくら観光協会内にトレイル研究会が立ち上がり、他の利用者の安全を守れる利用ルールの制定やルート作りを模索してきた。そして環境省のバックアップもあり、国立公園初となるパブリックトレイルのオープンが実現した。パブリックトレイルは公にマウンテンバイクの走行が許可されているトレイルのことで、NCMTでは利用に際して「トレイル整備協力金」への協力をお願いしている。
ヒルクライムとは違う、アドベンチャー感が楽しめる!
今回、ひとりのサイクリストとして乗鞍のトレイルを走った感想は、月並みな感想だが、「トレイル最高じゃないか!」の一言に尽きる。乗鞍ヒルクライムでおなじみのオンロードコースから、一歩森の中へとペダルを漕ぎ出した瞬間から、そこには別世界が広がる。乗鞍ヒルクライムが好きで、これまで散々乗鞍を走ってきた人ほど、その出会いに興奮せずにはいられないはずだ。思わず瞳孔が見開いて、笑みが抑えきれなくなることだろう。トレイル経験の浅いひとりのサイクリストが感じた率直な印象だ。
ルートはほぼ全区間ワンウェイで、基本的に下り基調。一ノ瀬園地エリアは初心者向けだろう。旧イガヤスキー場内のトレイル(Bike Park)も、土で盛られたコーナー(バーム)があり、路面は複雑でないので初心者でも安心して楽しめる印象だ。いっぽうで、中級者コースに設定されているDeep Forest Creek(夜泣峠~一ノ瀬園地)は、少し難易度が高めだろう。ここはかつて林業が盛んだったときに木材搬出用に作られたトロッコの道と林道を再利用したトレイルだ。序盤こそダブルトラックのグラベル(砂利)だが、本格的トレイルに入りだすと、溶岩台地ならではの変化に富み、スリルも味わえるルートが続く。
数カ所、急な下り斜面もある。私には崖にしか見えず飛び込む勇気がなく、無難に自転車を押してクリア。そう、けっして自転車から降りてはいけないというルールはない。自分の力量を判断して、トレイルライドでは無理をせずトラブルなく走り終えることが大切だ。森の中で自転車を押しながら自分の足でトレイルを進む体験も悪くない。
ズンズンと乗鞍の森の中へ進んでいくと、渡渉やバイクの担ぎが必要なシーンもあり、アドベンチャー感がたまらない。正直、クマでも出てきそうな雰囲気もあるので、ガイドツアーに参加するか、複数人でのグルーブライドをオススメしたい。クマ鈴などの携行は必須だろう。
さて、乗鞍の深い森を抜けると、白樺林や秋の紅葉が美しい乗鞍随一の観光名所である一ノ瀬園地へ出る。この区間をはじめいくつかの区間で一般の方との共有区間が存在するので、よりスピードを抑えて安全第一での走行を心がけたい。振り返れば、そこには雄大な乗鞍の山容の国立公園らしいベストロケーションが広がっている。
一ノ瀬園地を抜けると、ふたたび本格的なトレイル(King of Rocks)へ移っていく。正解のラインがひとつしかない岩場区間もあってスリリングだ。途中途中でペダルから足を降ろして休憩を挟みつつ進む。上を見上げれば木立の隙間から光が差し込みマイナスイオンたっぷりだ。
レベルに関係なく、誰もが安心して楽しめるトレイルへ
今回のショップやメディア向けツアーでは、幸運にも長年日本のMTBを牽引されてきたトレイルストア代表の和田 肇さん御一行とご一緒することができた。和田さんも乗鞍のトレイル整備にアドバイザーとして携わられており、和田さんによる案内に聞き入りながら、楽しいトレイルライドを満喫させてもらった。
NCMTエリアでもっとも麓に位置する乗鞍BASEが、変化に富んだ中級コースの終着点。最後の〆に、乗鞍BASE内のパンプトラックをみんなで遊んで、この上ない満足感に浸りながら今回の試走会を終えたのだった。
トレイルの難度は、ライダーのスキルや体力によって感じ方が異なるので、一概にむずしい、やさしいとは言えないと思う。「トレイルは路面の良し悪しで評価するものではない。その場所の自然の地形を楽しむことが一番」と、今回参加したベテランメンバーのひとりが語っていた言葉も印象に残る。
国立公園内にあるNCMTは、自然の地形をそのままに、利用者が安心して安全にトレイルライドを楽しめるように、案内看板が設置されている。また、トレイルへの入り口までオンロードでアクセスできる点も乗鞍の特長で、トレイルライドの敷居を下げている。さらに、体力に合わせて途中からオンロードにアクセスしてトレイルを切り上げて、自走で乗鞍の中心地に戻ることも可能なルート設定になっている点もすばらしい。
ビギナーはレッスン付きガイドツアーがおすすめ
来年から本格始動するNCMTは、トレイルの整備費や地元への還元のための「トレイル整備協力金」に協力し、リストバンドを受け取れば誰でも自由に走れるオープントレイルだ。利用には、乗鞍高原の中心地である観光センターにあるカフェ Gift NORIKURA、もしくは乗鞍BASE(観光センターから距離2.5km)で受付を行うことになる。現時点では基本的にマウンテンバイクを所有している経験者を対象とそしているが、トレイル初心者には「ノーススター」でレッスン付きガイドツアーに参加することで、手ぶらでトレイルを体験できる。はじめて乗鞍のパブリックトレイルを走る際には、安全のためにもガイドツアーをオススメしたい。
今、日本各地でトレイルが整備され出している。のりくらコミュニティマウンテンバイクトレイルズも、トレイルコースが数多い長野県のなかでも注目度が高い。なにより、ヒルクライマーの聖地として知られるポテンシャルを生かして、人気のトレイルになる可能性は大いに秘めている。来シーズン、ただ乗鞍のヒルクライムを楽しむだけでなく、乗鞍滞在中に誕生したばかりの国立公園の広大なトレイルを楽しんでみてはいかがだろう。
動画はこちらから
のりくら観光協会
https://norikura.gr.jp
ノーススター バイクアクティビティ
https://ridenorthstar.com/activities/bike/
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