ウルが3度目の正直、40km独走でツール初勝利。総合はヴィンゲゴーが堅守|ツール・ド・フランス
福光俊介
- 2022年07月20日
ツール・ド・フランス2022は第3週の戦いがスタート。現地7月19日に行われた第16ステージは、最大29人が先行。徐々にメンバーが絞られた中から、残り40kmで飛び出したユーゴ・ウル(イスラエル・プレミアテック、カナダ)が独走状態をキープしてフィニッシュへ到達。ツール初勝利を挙げた。個人総合トップのマイヨジョーヌは、ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)が堅守。2位につけるタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)の再三のアタックを封じ、ジャージを守ることに成功している。
10年前に亡くなった弟に捧げるプロ初勝利
ツールはいよいよ運命の最終週を迎えた。決戦の舞台はピレネー。週の初日から足を踏み入れ、急峻な山々をめぐる。前々日のフィニッシュ地だったカルカッソンヌを出発し南下すると、後半には2つの1級山岳へ。ポール・ド・レルス(登坂距離11.4km、平均勾配7%)とミュール・ド・ペゲール(9.3km、7.9%)を連続で越える。どちらも10%を超える急勾配があるほか、下りがテクニカル。そして、ダウンヒルを終えるとその勢いのままフォアの街へと飛び込む。主催者によれば、逃げ向きのステージだという。
レースを前に4選手の離脱が発表された。ヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック、デンマーク)は落車による肋骨骨折、レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ、ドイツ)は風邪、ミカエル・シェレルとオレリアン・パレパントル(ともにアージェードゥーゼール・シトロエン チーム、フランス)はPCR検査で陽性となり、それぞれ大会を去ることになった。なお、アージェードゥーゼール・シトロエン チームは3選手で残りステージを戦うことになった。
147選手が出走したレースは、早い段階で29人の先頭グループが形成される。ここにはリーダーチームのユンボ・ヴィスマからワウト・ファンアールト(ベルギー)、ポガチャル擁するUAEチームエミレーツはブランドン・マクナルティ(アメリカ)がジョイン。この中での個人総合最上位は、10分32秒差の11位につけるアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)。
大人数ゆえにときおり数人単位で飛び出しを図るシーンも見られるが、どれも先頭グループを割るようなものにはならない。それでも、ユンボ・ヴィスマがコントロールするメイン集団との差は着々と開いていき、中間地点を過ぎる頃には8分近くまで広がった。
67.8km地点に置かれた中間スプリントポイントは先頭グループのメンバーで占められ、ニルス・エーコフ(チーム ディーエスエム、オランダ)が1位通過。マイヨヴェールを着るファンアールトが2位で通過している。
流れに大きな変化はないまま、この日の難所である連続1級山岳へ。ポール・ド・レルスに入ると、数度の駆け引きからダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)が先行。ただこれは一時的なもので、頂上を前に2人がカルーゾに合流。さらに複数のパックが追いついて、この段階で先頭は7人に。山頂はマイヨアポワを着るシモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)が1位通過し、山岳ポイントを伸ばすことに成功している。
この山では、メイン集団でも大きな局面を迎えていた。頂上まで距離を残したところでポガチャルがアタック。一瞬反応が遅れたヴィンゲゴーだったが、冷静に対処してマークを強化する。頂上1km手前でも再びポガチャルがアタックしたが、ここはヴィンゲゴーが読んで攻撃を封じる。下りに入っても急加速したポガチャルだったが、これもマイヨジョーヌ自らチェックし、ライバルの抜け出しを許さず。両者は集団へと戻ると、再度アシスト陣のコントロールのもとレースを進めた。
十分なリードを得て逃げ切りが濃厚な先頭グループでは、2つ目の1級山岳ミュール・ド・ペゲールに入って早い段階でウルが単独先頭に。そのまま独走態勢に入り、少しずつ後続との差を広げていく。マッテオ・ヨルゲンセン(モビスター チーム、アメリカ)が追走態勢に入ると、これをウルのチームメートであるマイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)がピッタリとマーク。イスラエル・プレミアテックとしては数的優位な状況を作り出した。
20秒ほどのリードで頂上を通過したウルは、下りで一気に加速。対照的に、追うヨルゲンセンは下り途中の左コーナーで落車。先頭合流が困難な情勢となった。
今大会は再三アタックを試みて、第13ステージでは3位に入っていたウル。ようやくチャンスをモノにし、大きな勝利をつかむときがきた。31歳、プロ14年目にして、これがプロ初勝利。もちろんツールでも初のステージ優勝を、独走逃げ切りで決めてみせた。ウイニングセレブレーションで掲げた右手人差し指は、10年前に事故で亡くなった弟に向けたものだ。
最終的に、ウルは2位に1分10秒差をつける完勝。ステージ2位は、最終盤にウッズらに追いついたヴァランタン・マドゥアス(グルパマ・エフデジ、フランス)がスプリントで先着。3位はウッズ、落車から復帰したヨルゲンセンは4位だった。
メイン集団は、ユンボ・ヴィスマはセップ・クス(アメリカ)、UAEチームエミレーツはラファウ・マイカ(ポーランド)の両山岳最終アシストが機能し、マイヨジョーヌを争う2人は互いをチェックしあいながらミュール・ド・ペゲールを登頂。先行していたファンアールトがフィニッシュまでの下りで合流し、最後は精鋭メンバーを引き連れてレースを締めた。この中には、個人総合3位のゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)や同6位のナイロ・キンタナ(チーム アルケア・サムシック、コロンビア)、同8位のダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)も加わった。
これらの結果から、ヴィンゲゴーのマイヨジョーヌは変わらず。ポガチャルとは総合タイム差2分22秒のまま。2分43秒差でトーマスが続く。個人総合4位にはキンタナが上がって4分15秒差、同5位にゴデュがつけて4分24秒差としている。
一方で、同4位につけていたロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)や同5位でスタートしたアダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)らが遅れ、個人総合でもランクダウンしている。
戦いは引き続きピレネーを行く。翌20日に行われる第17ステージは、サン=ゴーダンスからペイラギュードまでの129.7km。後半に1級3つ、2級1つの山岳が詰め込まれている。最後に上る1級山岳ペイラギュードは、フィニッシュまでの8km登坂で、平均勾配7.8%。最終1kmは最大勾配16%に達する。今大会では3回目となる滑走路フィニッシュでもある。
ステージ優勝 ユーゴ・ウル コメント
「生まれて初めてレースでの勝利を味わうにはベストな場所だったと思う。マイケル・ウッズのアシストでアタックをして、それからは全力で突き進んだ。急坂の上りは厳しかったけど、後ろとの差が30秒から40秒あれば十分に行けるだろうと思っていた。実際は20秒程度しかアドバンテージはなかったけど、難しいとは思わなかった。
テクニカルなところでタイム差を確保できたけど、怖かったのが脚のけいれん。最後の20kmはフィードを持った車両が周りにいなかったので、正直不安だった。
レースに勝つことは10年前に亡くなった弟の夢でもあった。彼のために何年もチャレンジしてきたし、こんな瞬間が来るなんて本当に信じられない。何と言ったらよいか分からないくらいうれしい」
マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー コメント
「着々とパリが近づいてきている。今日はポガチャルが攻撃してくることは分かっていたし、実際に最後から2つ目の上りでそれを実行してきた。彼の加速に対応こそできたけど、とても強く、追うことは決して簡単ではなかった。
今日のプランは逃げに誰かを送り込むことだった。チームメートを先に行かせることは常に有効で、早くからアタックがかかるレースにあっては重要な要素になることが考えられる。今日は完璧に機能したし、チームとして良い仕事ができてリーダーの座を守ることができた。
一昨日のクラッシュの影響は特にない。落車した直後は痛かったけど、いまはもう大丈夫。ライド中もまったく痛みはないよ」
ツール・ド・フランス2022 第16ステージ結果
ステージ結果
1 ユーゴ・ウル(イスラエル・プレミアテック、カナダ) 4:23’47”
2 ヴァランタン・マドゥアス(グルパマ・エフデジ、フランス)+1’10”
3 マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック、カナダ)ST
4 マッテオ・ヨルゲンセン(モビスター チーム、アメリカ)+1’12”
5 マイケル・ストーラー(グルパマ・エフデジ、オーストラリア)+1’25”
6 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+1’40”
7 ディラン・トゥーンス(バーレーン・ヴィクトリアス、ベルギー)ST
8 シモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)+2’11”
9 マチュー・ビュルゴドー(トタルエナジーズ、フランス)+5’04”
10 ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)ST
個人総合時間賞(マイヨジョーヌ)
1 ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク) 64:28’09”
2 タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)+2’22”
3 ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+2’43”
4 ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック、コロンビア)+4’15”
5 ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・エフデジ、フランス)+4’24”
6 アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+5’28”
7 ルイス・メインチェス(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、南アフリカ)+5’46”
8 アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)+6’18”
9 ロマン・バルデ(チーム ディーエスエム、フランス)+6’37”
10 トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ、イギリス)+10’11”
ポイント賞(マイヨヴェール)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ、ベルギー)
山岳賞(マイヨアポワ)
シモン・ゲシュケ(コフィディス、ドイツ)
ヤングライダー賞(マイヨブラン)
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)
チーム総合時間賞
イネオス・グレナディアーズ 193:17’10”
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- TEXT:福光俊介 Photo:A.S.O. / Pauline Ballet A.S.O. / Charly Lopez
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PROFILE
サイクルジャーナリスト。サイクルロードレースの取材・執筆においては、ツール・ド・フランスをはじめ、本場ヨーロッパ、アジア、そして日本のレースまで網羅する稀有な存在。得意なのはレースレポートや戦評・分析。過去に育児情報誌の編集長を務めた経験から、「読み手に親切でいられるか」をテーマにライター活動を行う。国内プロチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。国際自転車ジャーナリスト協会会員。