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ヘルメットの違いによるエアロ性能を検証してみた|風洞実験でエアロ研究

自転車競技は、空気抵抗との戦いでもある。近年はプロ選手はもちろん、アマチュアレーサーのあいだでもエアロの重要性が叫ばれている。バイシクルクラブでは、日本風洞製作所の協力を得て、多くのサイクリストが気にしているバイクやライダーが受ける空気抵抗を数値によって可視化。新UCIレギュレーション下での理想のエアロフォームを突き詰めた。
今回の記事では、ヘルメットに関するエアロ性能を検証。ヘルメットの形状の違いで、エアロ性能はどのように変化するのだろうか?


※この企画は、日本風洞製作所による独自の意見・見解を記事にしたものです

実践しやすい空力対策の有効データが得られた

時速40km走行時には、全抵抗に対する空気抵抗の割合は約90%を占める。そのうち70〜80%はライダーが受けるため、ライダーのフォームはもちろん、身に着ける機材のチョイスも空気抵抗軽減には欠かせない。

現在、欧州の一部のトッププロチームでは風洞研究を導入しているところもあり、近年では日本でもシリアスなアマチュアレーサーを中心にエアロ効果を意識したフォームや機材の選択が注目を集めている。

本検証を全面バックアップしてくれる日本風洞製作所とは、以前にもフォームの変化による実験を実施してきた。今回は、トップチューブ座りとヒジをハンドルのフラット部分に置くだけのフォームを禁止とした新UCIレギュレーションにのっとったなかでのエアロフォームを追求する。さらに、われわれアマチュアサイクリストがすぐに取り組めるヘルメットをはじめとするエアロ対策を数多く検証。

実験は日本風洞製作所東京営業所内で実施。温度、湿度などの外的環境を整えたうえで、各検証ともそれぞれ連続的に3回の送風を行いデータを測定。その平均値を使い比較検証した。また、いずれも時速48km(風速13.3m)の条件下で行われた。

ヘルメットひとつでエアロ性能は変わる!

ヘルメットの違いによるエアロ性能はどれほど差が生まれるものなのか。実際のところ、エアロヘルメットと軽量ヘルメットでは抵抗値にどれほどの差があるのか。今回、ブランドをカブトで統一し、各モデルのヘルメットに関わるさまざまな検証を実施した。このなかで毛髪とヘルメットのタイプの組み合わせの違いによる興味深いデータが測定され、ほかにもバイザーやシェル、あごひもがもたらす抵抗値についても明らかにした。

抵抗が少ない首の角度は65°

ヘルメットをかぶっているとき、どの首の角度がもっとも空気抵抗を抑えられるのか。50°~ 70°まで5°刻みで、深い前傾から首を起こした状態まで角度違いで5回測定。試験モデルにはエアロR1(バイザー付き/シェルなし)を用いて実施。結果は、ヘルメットの角度としては、65°がもっとも抵抗値を抑えられている。これは50°(首を前方へ寝かせた状態)と比較して、4W近く差が生まれている。首の角度65°を意識しながら、エアロフォームを目指すことがポイントになるといえる。

今回の検証結果から、65°という首の角度がヘルメットの空力性能を引き出すために重要なことがわかった。首だけ下げればいいわけではなく、それはむしろ抵抗が増えることになる。

首の角度による抗力の変化

エアロヘルメットなら5Wも抵抗が少なくなる

首の角度を65°で統一し、カブトの各モデルを用いて、ヘルメット単体の空気抵抗値を測定。イザナギとTTに特化したエアロヘルメットSP4では両者に5Wという大きな差が生まれた。一方で、空力に優れるとされるエアロR1は、バイザーやシェルの条件にかかわらずイザナギより高い空力性能を示した。ただし、シェルもバイザーも未装着のエアロR1はイザナギより1Wほど抵抗を抑制するにとどまった。このことは、形状的にはやや横に角張って前面投影面積が広いイザナギではあるが、空力レベルは高い次元にあるといえる。

ヘルメット比較

前面投影面積とCd値を下げると空気抵抗も下がる

一般的に空気抵抗値はCdA、この値を前面投影面積(A)で割り算したものが、空気の流れやすさを示す空気抵抗係数(Cd)となる。空気抵抗は想像以上に形状に依存し、下イラストの流線型は円柱の10倍の厚みがあるが空気抵抗値は同じになる。物体後部の気流をスムーズに合流させることにより劇的に空気抵抗が減ることを示している。空気抵抗と速度の関係は下の式に示したが、Cd値はCdAを代表面積(この場合A=前面投影面積)で分解することで前面投影面積の影響を抜いた、より“形状が空気抵抗に及ぼす目安となる指標”だ。Aを下げても、Cdを下げてもいいが、最終的にCdAが小さければ正解となる。

 

カブトの「エアロヘルメットSP4」。後部の翼断面形状が高い整流効果を生む
翼断面と円柱の2つの空気抵抗は同じ

※今回の測定から求められた空気抵抗値を示すW(ワット)データは、ヘルメットやバイク単体だけでなく取り付ける治具やトルソーを含めてセンサーが受けている力をワット換算している。そのため、ベアー(治具やトルソーのみ)状態でのワットの差分をヘルメットによるワット数として算出している。

協力してくれた人

日本風洞製作所 代表取締役
ローン・ジョシュアさん(右)

小型風洞試験装置「Aero Optim」を開発・製造する日本風洞製作所の代表。九州大学の応用力学研究所に在学中、ベンチャー企業として2016年に同社を設立。風洞本体だけでなく、測定台やスモークマシンなど関連機器の開発にも取り組む。自身がロードバイク乗りとして空力を意識しだしたことが、現在の研究開発のきっかけになった。
問:日本風洞製作所 https://japanfudo.com

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2022年10月19日

稲城フィッツクラスアクト
香西真介さん(左)

長年にわたりJBCFやアマチュアレースで活躍を続けるベテランレーサー。機械工学の専門でソフトエンジニアとして活躍。自転車競技における空力性能への造詣も深い。本企画へはアドバイザーとして事前の準備から、測定当日の現場での立ち会いまでサポート。

※この記事はBiCYCLE CLUB[2022年5月号 No.443]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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