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オーストリッチ・伊美社長に聞く!「百人いれば百通りの輪行がある」

サイクリストに広く知られる国内老舗自転車バッグブランド、オーストリッチ。輪行袋とも長い歴史をともにしつつ、最新のモデルの開発にも余念がない。1967年創業の同ブランドを手掛けるアズマ産業代表・伊美哲也さんに、輪行の基礎情報と現在のトレンドを聞いてみた。

輪行は難しく考えず、社会のルールだけ守ろう

オーストリッチの輪行袋はすべて国内生産。画像のL-100輪行袋も職人の手により生産、梱包、出荷されている

輪行袋といえばオーストリッチだ。創業から54年を迎えた日本ブランドの輪行袋は、多くのサイクリストの旅の友として確固たる地位を築いている。そんなオーストリッチを作り出すアズマ産業の社長、伊美哲也さん。

社長歴は25年を超え、今も最新の輪行袋や自転車用バッグを作り出しその普及に貢献しているほか、自らもソロキャンなどを楽しむ生粋の自転車人だ。「常にバッグと輪行のことばかり考えていますよ」と話す伊美さんに、まずは輪行のルールや極意のようなものはあるのか聞いてみた。

輪行は自転車を遠くに運ぶための手段でしかないんです

「ルールですか? 自転車がちゃんと専用の袋に収まり、社会のルールを守り、他人へ迷惑をかけない。それでいいと思います」と非常にあっさりとした回答。ブランド的に守らねばならない絶対的なこだわりなどはないのだろうか?

「ないですね(笑)。最近は多くの人が個人レベルでさまざまな輪行を発信・紹介してくれています。そのなかでこうすべきだ、ああすべきだと強く意見を言う人もいるようですが、自分としては、そんなに厳しくしなくてもいいんじゃないかな?と思っています。例えば身長が180㎝と150㎝の人では、袋の中の自転車の状態はかなり異なります。するとホイールの位置やベルトの長さも変わり、担ぎ方だって変わっちゃいます。フレームに絶対キズをつけたくない人と、早さ優先の人ではやり方もやはり異なります。つまり、百人いれば百通りの輪行がある。それでいいと思います。言ってしまえば、輪行は自転車を遠くに運ぶための手段でしかないんです。輪行自体を楽しむ、というわけではないですよね?(笑) 早く旅先に着いて、すぐ走り出したい! それをなるべく安全に、かつ効率的に行える輪行方法をみんな探っているということです」

さまざまな型が並ぶ工場内の一角。これらを基にさまざまなバッグやパーツが作られていく
長い歴史をもつオーストリッチ
初期のカタログ(1970年頃)にはランドナー用輪行袋が並ぶ

2000~2022年、輪行にもトレンドあり

そんな輪行に関して広く多様性を認める伊美さんに次の質問。「輪行にトレンドというものはあるか?」という質問をぶつけてみた。この質問に対し、伊美さんは過去のカタログを開きながら、順を追って話してくれた。

「あると思いますね。例えば2000年前半はMTB全盛期。MTB用輪行袋をなんと4種類も出しています! このときはまだ29インチや27.5インチのホイールはなく、26インチホイールのみだったのに……。同時期には小径車も大流行していて、今でもラインアップされている『ちび輪バッグ』が生まれたのもこの時期です。

そして2008年以降になるとロードバイクが流行りだし、輪行袋もそちらが主流になってきます。今やオーストリッチのスタンダードともいえる『L-100輪行袋』は、本来軽量モデルとしての扱いだったのですが、もはやこれが標準モデルに。より軽量な『SL-100輪行袋』を登場させたのは2010年を過ぎたあたりですね。ユーザーからのリクエスト『軽くて、薄いものがいい』はこの頃からずっと続いていますね。

また国内プロチームにハードタイプの輪行袋を供給し始めたのもこの時期です。今も複数のチームをスポンサードさせてもらっています。2014年以降はホイールリムの高さが伸びてきて、一般の人でも30~50㎜の高さのホイールを使うようになってきました。モデルとしての拡充はしませんでしたが、地味に既存モデルの大きさをマイナーチェンジしています。じつはちょこちょこしているのですが(笑)。

いっぽうでユーザー層自体が大きく変わってきていて、若い人や女性が増えてきたなぁ~というのを覚えています。より輪行がカジュアルになってきた時代でした。

そして2020~2022年現在は、エアロロードとグラベルロードの登場ですね。ハンドルまわりの構造やサイズが特徴的で、輪行袋もその変化に対応させています。
最新式の『L-100エアロ&ワイド輪行袋』がまさにそれで、ハンドルまわりのスペースを大きくしています。また近年のキャンプツーリング需要を受け、自転車に付けるパッキングバッグ類がオーストリッチ内でも増えました」

伊美さんが手慣れた様子で実際に生地を裁断していく
職人さんが裁縫をふだん行う業務用ミシン。ここから多くの輪行袋や自転車バッグが生まれていく。Mikuさんも作業中!?
ディスクロード用ダミーローターとその型を持つMikuさん
やがて輪行袋になる巨大な一枚の生地を、何層にも重ねてから整えていく。伊美さんが何十年と続けてきた作業だ
できあがった輪行袋をチェックする伊美さん。「うちの職人さんの腕には絶対の信頼を置いています、こうした検査も含めてね」

オーストリッチのダチョウマークの由来とは?

このマークの由来は、オーストリッチの創業者の現会長が少年時代に野山を駈け巡っていた記憶と、その後TV番組で見た「サバンナを駆けるダチョウの姿」にインスパイアされ、ふたつを組み合わせたものです。自転車もダチョウも自身の2本の脚(車輪)だけを動力に、どこまでも進み続けるという点で共通しています。でもいまだに「え、このバッグってオーストラリアで作られているんじゃなくて、日本で作られているんですか?」とよく言われます(笑)

時代は変われども輪行旅の魅力は変わらず

こうした輪行トレンドの変化こそあるものの、伊美さん自身がこの20年間、ショップスタッフやユーザーとの対話で強く感じていたことは「スポーツバイクに乗る人がとても増えたな」という、やはりシンプルなものだった。

輪行スタイルが時代によって少しずつ変わっても
変わらぬ『輪行旅』を楽しんでくれたらいい

「コロナ前後にかかわらず、スポーツバイクに乗る人は圧倒的に増えたという印象です。輪行をする人なんて、サイクリストのうちのほんの数%程度だと私は思っていますが、それでも絶対数が増えているのは間違いないです。
電車内に輪行した自転車を持ち込むという特殊な行為も、少しは一般的に受け入れられてきているのかなあ?と思えてきました。

それに時代が変わっても、輪行旅の面白さというのはいっさい変わっていませんしね(笑)。おじさんサイクリストの旅するパワーは相変わらずすごいですし、近年は女性がたった一人でソロ旅をしてそれを発信するなんてことも。たくましいなぁと感心します。その昔は一部競輪選手やクラブチームメンバー、コアな旅人だけに使われていた輪行袋が、これほどまでに広がるなんて!」

つねにユーザーやショップスタッフの意見を第一にし、オーストリッチのバッグを作り続ける伊美さんは、インタビューの最後、冗談交じりにこう言ってくれた。「今回『達人』という紹介をしてもらうようですが、私自身はキャンプ旅やロングライドを楽しむ単なる『自転車おじさん』の一人ですよ。ああ、『輪行おじさん』でもいいかもしれませんね(笑)」

近年のトレンドはやはりエアロロードやディスクブレーキ採用のグラベルバイクなど。こうした車体の専用設計は、そのまま輪行袋の仕様やサイズ変化につながっていく
「新アイテム開発のきっかけは、つねにユーザーさんやショップスタッフさんのリクエストから」と話す伊美さん

プロフィール

アズマ産業社長/ 伊美哲也さん(右)

輪行袋や自転車用バッグを多数展開するブランド「オーストリッチ」を製作するアズマ産業の社長。そのユーザーの意見を積極的に取り入れる製品づくりを心掛け、各イベント会場などで輪行に関するノウハウやマナーを説いている。

サイクリストインスタグラマー/ Mikuさん(左)

ロードバイクインスタグラマー。じつはロードバイクを本格的に乗り始めたのは1年ほど前。自転車旅行にもハマり、その輪行歴は約半年。回数こそこなしているものの、完全オリジナルの方法でしか輪行を行ったことがない。(Instagram:@miku_road_bike

※この記事はBiCYCLE CLUB[2022年9月号 No.444]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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