白夜と氷河の西部フィヨルドを5日かけて走るWFWC【前編】|竹下佳映のグラベルの世界
竹下佳映
- 2022年12月31日
アメリカで活動するグラベル界の第一人者、竹下佳映さんが4つのステージで構成される、5日間のバイクパッキングスタイルのウルトラ系イベント「ウェストフィヨルド・ウェイ・チャレンジ(WFWC)」に参加した。
今回の記事はレースの準備編。5日間のレース中はホテル泊もできるが、竹下さんが選んだのはまさかのキャンプ泊!?
アイスランドの思い出
先日、日本から米国シカゴに戻りました。紅葉は終わってしまっていて、身に染みる冷たい風に晒され、雪を待つだけの季節です。すぐに他州に出張続きでなかなかゆっくりもできなかったのですが、それでも季節外れ過ぎるほどに暖かかった日には仲間と集まってライドに行きました。最高10℃にもなり太陽も顔を見せていた11月のこの日に思ったことは、「アイスランドの真夏に比べて随分とライド日和じゃないか!」
皆さん、まずはアイスランドってどこにあるか知っていますか?
北大西洋上、グリーンランドの東に位置する島国です。アメリカから見るとヨーロッパ大陸の手前なので、そんなに時間もかからず行けます。つい最近はアイスランド観光局が、「アイスランドは、まるで火星のようだよ。火星に温泉があったらね」「アイスランドは宇宙旅行より素晴らしいところ」というキャッチフレーズで広告を出していました。ハリウッド映画撮影に使われるほか、アイスランド国外の某ホイールメーカー、某バイクメーカー、某バイクアパレルメーカーも広告の撮影を行ったりしいます。それほど人を引きつける場所なのです。私もその広告を見てまた行きたくなってしまった……!!
『Westfjords』ってどこにあるの?
一番初めにこのレースの話を聞いたときには、「Westfjords」をどう発音すればいいのかすら分かりませんでした。ふむ、ウェストフィヨルドね。フィヨルドって地理の教科書に書いてあったような……。でも西のフィヨルドってどこ?
しばらくインターネットで検索をしていたら、ナショナルジオグラフィックに出てくるようなキーワードと写真ばかり。白夜、北極圏(付近)、氷河って……! このレースはとんでもないことになりそう! 思い出に永遠と残る、人生最大級のものすごい経験・大冒険になるに違いない!
ただ、春のレースざんまいで忙しかったので、それ以上大会内容を確認しないまま時間が過ぎました。アンバウンド・グラベル 320km参戦の翌週末には、サウスダコタ州の340kmのグラベルレースで女子コース記録更新し、アイスランドに発つまで残ったのはたった2週間弱。そこでようやく大会詳細を再確認し、規模の大きさを改めて認識することとなります。
ウェストフィヨルドってどんなとこ?
ウェストフィヨルド(西部フィヨルド)はアイスランド北西の地方で、入り組んだフィヨルド(氷河の侵食作用によって形成されたな地形の湾・入り江)と切り立った山、数えきれないほどの大小の滝があるところです。アイスランドの国全体の海岸線約4800kmのうち、ウェストフィヨルドが3分の1を占めているそうです。
この地域の人口は約7700人、アイスランド住民ですらあまり訪れることのない最も人里離れた地域で、野生動物はパフィン、ホッキョクギツネ、アザラシ、クジラなどがいます。1100年純血種のままでいる羊の放牧でも知られていて、羊の頭数は国人口の2.5倍近くにもなるそうです。
白夜のレース!? ウェストフィヨルド・ウェイ・チャレンジ
ウェストフィヨルド・ウェイ・チャレンジ(以下、WFWC)はだいたい6月末~7月頭に行われ、4つのステージで構成される5日間のバイクパッキングスタイルのウルトラ系イベントです。各ステージはポイント・ツー・ポイント形式で、ウェストフィヨルド地方をぐるっと回るコースです。
ステージ1の開始地点がステージ4の完走地点となります。総距離は約960㎞。最初の3日間は、1日当たりの走行距離が250km強、獲得標高が2325から2800メートル。休憩日を挟み、5日目の真夜中にステージ4を開始。最終日の距離は220km、獲得標高3900メートル。白夜の時期なので夜は訪れません。
コースは、ウェストフィヨルド観光事業により設定されたバイクパッキングルートで、舗装路と未舗装路のミックス。私はグラベルステージレースは何度か参加したことありますが、長いもので3日。それも1日目タイムトライアル、2・3日目が100㎞~160kmという形式だったので、連日の250㎞、それに伴う走行時間は未経験です。
ホテル泊? それともキャンプ泊?
レースエントリーにはキャンプ場使用料が含まれていて、ホテル滞在希望者は各自で予約する必要があります。ホテル宿泊の方が楽なのは確か。でもフル装備では無いけれどウルトラ・バイクパッキング部類になるので、ここまでアドベンチャーするなら徹底的にやってみよう! ということで、キャンプ泊することに決めました。
(一点問題があるとすれば、私、キャンプ経験が皆無に等しいけど……。)
荷造りするのに天気予報を確認すると、夏だというのに予想を遥かに下回る寒さです。そして雨ばっかり。日が落ちないので、夜は極端に冷えることはないよね……多分。あと、熊はいないから夜も心配ないよね?
全体的に守備範囲外の部分がとても多いのですが、いつもの「やればどうにかなるよ」という気持ちで準備を進めました。出発前の1週間は家の中で寝袋で寝て、テントを張る練習は自宅の庭で1回だけ行いました。
機内動画を楽しみながらケプラヴィーク国際空港へ
米国シカゴからアイスランドのKeflavík(ケプラヴィーク)国際空港までは直行便で6時間。アイスランド航空に搭乗したのは初めて。機内食がなかなかおいしくて、文化や言葉を学べる「世界で一番難しいカラオケの歌」という機内動画が面白くて、わくわくしながら到着を待ちました。試しに一緒に歌ってみませんか?
アイスランド人の友人と再会、ウェストフィヨルド地方を目指す
首都のReykjavík(レイキャヴィーク)で2日過ごしました。ルピナスの紫色の絨毯が広がるいいライド場所を見つけ、バイクセットアップを確認します。
ウェストフィヨルド地方へは、アイスランド人の友人マリアと共に車で向かいました。ステージ1スタート地点及びステージ4完走地点である Ísafjörður(イーサフィヨルズゥル)の出身だという彼女に幼少の頃の話をしてもらいました。特に印象的だったのは、放牧シーズン最後に馬に乗ってウェストフィヨルド地域に散らばった羊を数日かけて探しに行く話でした(柵も小屋もない完全に自由な放牧です!)。
氷の峡湾を意味するイーサフィヨルズゥルの町は、湾の奥に位置していて両脇にそびえ立つ壁のような山に囲まれていました。水面は非常に穏やかで、まるで鏡のようです。
レース前日なのに早くもハプニング……!
なにもかもが目新しくて楽しいけれども、スタート前夜、私のテント1泊目は最低でした。耳栓してもアイマスクしても、緊張と興奮のせいか全く寝付くことができませんでした。また、日が落ちないので小鳥が昼間だと思って一晩中ピヨピヨ鳴き続けるんです。頼むから寝てくれ、そして寝かせてくれ……。
準備編はここまで。レース編は近日公開!
大会公式WEBサイト
https://cyclingwestfjords.com/wfwc/
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PROFILE
札幌出身、現在は米国シカゴ都市部に在住。2014年に偶然出会ったグラベルレースの魅力に引かれ、プロ選手に混ざって上位入賞するなどレースに出続けている第一人者。5年間グラベルチーム選手として活躍し、2022年からはプライベーターとしてソロ活動。ここしばらく飛んでいないが飛行機乗り。