日本好きプロロード選手のエロセギが新チーム「ケルンファルマ」でシーズンイン
Bicycle Club編集部
- 2023年01月29日
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2022年のシーズンオフには大好きな日本を再び訪れ、数多くの日本の街に滞在していたイニェゴ・エロセギ。スペイン帰国後にエキポ・ケルンファルマへの移籍を発表し、新チームで2023年のシーズンを迎えることになった。
エロセギの2023年シーズンは1月25日から29日までスペイン・マヨルカ島で行われるマヨルカチャレンジから始まる。ここではスペイン在住の對馬由佳理がエロセギにインタビュー。2023年シーズンへの目標、モビスターで過ごした3年間の振り返り、さらにオフシーズンに日本を旅行した際の感想などを聞いた。さらにエキポ・ケルンファルマの総監督であるホアンホ・オロス監督に、エロセギへの期待する役割などをインタビューした。
2022年シーズンの振り返り、そして2023年シーズンへ向けて
今シーズンの予定について伺います。エキポ・ケルンファルマに移籍されましたが、今季の目標は?
私の今季の最大の目標は、エキポ・ケルンファルマが出場するレースの中で、一番高いレベルのレースに出走することです。具体的にはイツーリア・バスク・カントリーやブエルタ・ア・エスパーニャで走ることが、私の目標になります。モビスターにいるときには、私はこうした大きなレースに出走することができませんでした。そのため、ぜひ今年は出走してチームメートを助けながら、私自身も良い成績を出したいと考えています。
エキポ・ケルンファルマは若い選手が多いチームですね。あなたと同世代の方が多いと思うのですが、よりリラックスできる環境で走れますか?
たしかにチームメートの大半は自分と同世代で、アマチュア時代からよく知っている選手ばかりです。チームとしてそして自転車選手として、もっと自分の力を高めていきたいという気持ちが強いメンバーばかりなので、こうしたチーム環境の中でレースができるのは本当にうれしいです。
2020年にプロとしてデビューしてから昨シーズンまで3年間モビスターにいましたが、新型コロナウイルスが流行していた時期と重なってしまいました。そうした状況の中で、あなたがモビスター時代に学んだことはなんですか?
たくさんあります。私がモビスター時代に一番学んだことは、「自分が苦しくて困難な状況にいるときに、どのように自分をコントロールするのか」ということでした。モビスター時代、私はケガや体調不良で苦しんでいることが多かったので、自宅で頻繁に療養することになりました。療養期間が長いと精神的に落ち込みますし、自分がもう自転車選手ではないような気がしてしまうんですね。
不思議なもので、精神的に落ち込んでしまうと、ケガや体調はなかなか良くならないんです。でも、自分の体調を正しく理解して、そして休養の意味もきちんと理解した上で休むと、意外と早く回復するんですね。だから、今は体調が悪いことがあったとしても、自分がやるべきことを考えて、休むことができるようになりました。
もちろんモビスターのベテランの選手と、1日中一緒にいることで、たくさんのことを学ぶことができました。アレハンドロ・バルベルデやイマノル・エルビティのような、トップクラスで長いキャリアを持つ選手が日々どのように食事して、どのように休んで、どのようにトレーニングしているのかということを、すぐ近くで見ることができたのは、本当に幸せなことだったと思っています。
バルベルデやエルビティは本当に良い人で、いつもチームメイトを助けていました。そして、僕のような若い選手に、いつでもいろいろなことを教えてくれました。
レースで結果が出なかったこの3年間はあなたにとって、とても苦しい時期だったと思います。いっぽう別の視点から見てみるとモビスターでの経験はいい経験だったともいえますか?
確かにそうだと思います。モビスターのようなワールドチームの一員になるのは、ほとんどの自転車選手にとって大きな夢です。私はそんな最高峰の選手が集まるチームに3年間所属して、たくさんのことを学ぶチャンスがありました。
正直に言うと、ケガや体調不良で苦しんでいるときには、自分はものすごい悪夢のような状況にいるのだと思うこともありました。でも、2022シーズンは私自身の体調が良くなったこともあり、モビスターの一員として、チームメイトをアシストしながら走ることができるようになったのは、とてもうれしかったですね。
ヨーロッパのレースを走る必要性とは?
もし日本人選手がスペインでプロの自転車選手を目指すなら、何をすべきだと思いますか?
面白い質問ですね。まずは、ヨーロッパでのレースにたくさん出走することでしょうか。
自転車レース自体は、世界中で開催されています。でも、一番数多く開催されているのはヨーロッパなので、アメリカ大陸やオーストラリアの選手もヨーロッパでレースを走りますよね。だから、ヨーロッパのレースを数多く経験して、レースのリズムに適応することが、まず最初に必要でしょうね。
日本はヨーロッパからとても遠いので、こちらのレースを頻繁に経験するのは難しいでしょう。でもヨーロッパで距離の長いレースや上りの厳しいレースなどを経験しながら、集団の中での動きなどを学んでいくことは、やはり必要だと思います。
そして、どんなに才能があるサイクリストであっても、良いレースを走らない選手は、その能力を向上させることはできません。日本には才能のある選手がたくさんいるので、良いレースをたくさん経験すれば、ヨーロッパで活躍できる選手がもっと増えるのではないかと思います。
何より「自転車に乗ることは幸せで楽しいことなんだ」と思えるようになることが、必要だと思います。自転車に乗ることが好きなら、長時間のトレーニングの辛さもきっと軽減されますよね。自転車に乗ることが幸せな人は、その幸せな時間をより楽しく過ごすために、食事に気をつけたり、しっかり休んだりしようと考えるでしょうから。
アマチュアのレースとプロのレースの一番の違いはどのようなことでしょうか?
プロとアマチュアの間にある一番大きな違いは、レースのスピードだと思います。「プロは上りが速い」と考える人がほとんどですし、たしかにプロの選手の上りは速いです。でもプロのレースは、平地の時点からそれなりのスピードで走って、その上で、上りも速いんですね。
レベルの高い選手がたくさん出走するプロのレースでは、平坦コースを走っているときからかなりのスピードで走ることになります。ですから勝負どころの上りを迎える頃には、その前の時点でプロトンにいる選手の半分以上がヘロヘロに疲れ切っていたりするんです(笑)。その状況でも速く上れるかどうか、というのがプロの世界ですね。
また、自転車のテクニックという点でも、プロはやはり上手です。例えば、山を下るためのテクニックを見た場合、アンダー23では上手い人とそうでもない人が混在しますが、プロになると上手な人しかいません。だから、プロはみんなとてつもないハイスピードで山を下っていきます。
そしてレース中にプロトンの中で走っているときも、プロの場合は上手な人しかいないので、集団内でポジションを取ることが難しいんです。レースのスピードと自転車コントロールのテクニックの高さが、アマチュアとプロの最大の違いですね。こうしたことは、ヨーロッパのレースを経験しながら身につけるべきことだと思います。
2022年シーズンオフの日本旅行について
昨年のシーズンオフに日本を旅行されていましたね。久しぶりの日本旅行はいかがでしたか?
とても楽しんできました。昨年日本には18日間滞在したのですが「もっと長くいたかった」と、今でもちょっと後悔しています(笑)。
昨年は、羽田空港に着いて、その足で広島に行って宮島や広島市内を見てから岡山に行って、その後京都・大阪・奈良に行きました。関西を楽しんだあとに箱根で温泉に入って、その後帰国するまで東京にいました。
私が日本を旅行したのは、日本に外国人旅行客が入国できるようになった直後でした。だから、当初は「日本を旅行する外国人なんて、私一人だけかもしれない」って思っていました。でも実際には日本にはたくさんの外国人旅行客がいたので、「私と同じように、日本に来たいと思っていた外国人がこんなにたくさんいたのか!」と驚きました。
広島に行ったときには、原爆ドームは見に行きましたか?
はい、朝と夕方から夜にかけての2回見に行きました。行くたびに、しばらくの間ドームの前の広場に座って、音楽を聞きながら、原爆ドームを見ていました。なんだかいろいろなことを考えてしまいましたね。
日本のファンと出会ったり、話したりする機会はありましたか?
はい。ちょうど私がスペインから羽田空港に着いたとき、一組の自転車ファンのカップルが、空港まで私を探しに来てくれ、その方たちとお話することができました。
旅行中には勉強している日本語を話す機会がたくさんありましたか?
はい。ときどきスペイン語を話すこともありましたが、勉強した日本語を実際に使う機会がたくさんありました。でも、日本のみなさんが話す日本語は本当に早くて、私が理解するのはかなり大変でした(笑)。大阪エリアや広島では私が今まで学んできた日本語とは異なるアクセントや単語がたくさんあったので、日々新しい単語を学ぶことになりました。
弱虫ペダルは日本語で読みたいですか?
『弱虫ペダル』のアニメはインターネット上で数年前に何回か見たのですが、漫画の本を読み始めたのはつい最近なんです。先日ようやく1巻目を読み終わったので、これからもっと楽しみたいと思っています。
以前、ツイッターで、「弱虫ペダルの登場人物の中で、エロセギ選手はどのキャラクターがお好きですか」ってご質問頂いた事がありましたが、そのときには「まだ、漫画を読んでいないので、全巻読んだらお答えします」って、返事をすることになってしまいました。
じつは『弱虫ペダル』はぜひ日本語で読みたいと思っているんです。もちろん英語などに翻訳されていることは知っていますが、なんとか自分の力で、日本語のままでこの漫画が読めるようになりたいですね。
自身が『弱虫ペダル』の登場人物の一人になれたらいいなぁ、と妄想しますか?(笑)
そうなったら、すごく幸せですね(笑)。でも、もしも近い将来に『弱虫ペダル』とエキポ・ケルンファルマが何らかの形でコラボするようなことがあったとしたら、きっととても楽しいものになるでしょうね。
ありがとうございました。
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エロセギが新に所属するエキポ・ケルンファルマは、アソシアシオン・デポルティーバ・ガリビエ(Asociasión Deportiva Galibier)というスポーツ団体が母体であり、かつて下部組織として、Lizarte(リサルテ)というスペイン・ナバラのアマチュアチームが存在していた(2023年からチーム・フィ二ッシャーとチーム名を変更)。じつはエロセギはU23時代にこのリサルテに所属しており、そのホアンホ・オロス監督はアンダー23時代にエロセギを指導しており、旧知の仲だ。ここではそのオロス監督に今シーズンのエロセギについて聞いてみた。
今回のチャレンジ・マヨルカのレースで、エロセギにどのような役割を果たしてほしいと思っていらっしゃるのでしょうか?
エロセギには、レースの終盤までチームの中心選手であるロジャー・アドリアの近くにいて、彼をアシストすることを期待しています。この役割は一見地味ですが、チームにとっては非常に重要です。また、チームリーダーであるアドリア選手とほぼ同じポジションで走ることができたなら、エロセギにとっても大きな自信になるでしょう。
エロセギはチームの中で走る感覚と自分への自信を取り戻すことができれば、これからどんどん伸びる選手です。エキポ・ケルンファルマはそのチャンスを彼に与えることができると思います。
彼が持っているサイクリストとしての一番の能力は、どのようなことだと思います?
彼は本当に才能のあるサイクリストで、特に長い距離を同じリズムを刻んで走る能力のある選手だと思います。細身の体ですし、実際に上りも速いので、一見クライマーのように見えます。でも、彼の本当の力は、どのようなコースでも一定のリズムで長い距離を走ることができる能力であると、私は考えています。
ありがとうございました。
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