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骨折から4週間で全日本出場、復帰に向けたパワートレーニングとは|小坂 光の復活【後編】

ディフェンディング・チャンピオンとして迎えた今シーズン、しかしシクロクロス全日本選手権の4週間前に落車骨折。小坂 光選手(宇都宮ブリッツェン)は、どのようにしてレースに臨んだのか?

後編では復帰に向けてのパワートレーニングについてコーチの中田尚志さんがお伝えする。

上腕骨骨折から全日本出場へ、復帰に向けたメンタルトレーニングの役割|小坂 光の復活【前編】

上腕骨骨折から全日本出場へ、復帰に向けたメンタルトレーニングの役割|小坂 光の復活【前編】

2023年02月05日

パワーで考えるシクロクロス

シクロクロスは周長2〜3kmのオフロードで行われます。公園や河川敷をコースに取ることが多く、隘路走破やコーナーからのダッシュなどで常にパワーは変化します。そのためシクロクロスを“1時間続く高強度インターバル”と表現することもあります。

シクロクロスには、ダッシュの連続を下支えする高いFTP(有酸素能力)、幾度となく繰り返されるダッシュに耐える疲労回復能力、高度なハンドリング&ペダリング技術が要求されます。

シクロクロスのパワーデータ。1hに及ぶダッシュの繰り返しだ(ピンク色がパワー)
“1時間続く高強度インターバル”と表現されるシクロクロス ©コマツ トシオ

復帰を考える

小坂 光選手は全日本選手権の4週間前に落車。肩を骨折してしまいました。そのためトレーニングでは肩に負担がかかることを避ける必要があり、しばらく安静にする必要があったために筋力・心肺機能の低下が予想されました。それらの低下を防ぎ、強化するために行ったトレーニングはおもに下記の2つです。

  • 筋力低下を防ぐ
    ビッグギヤでのウエイトトレーニング
  • 心肺機能低下を防ぐ
    テンポ(76〜90% of FTP)でのインターバル

ワークアウトの目的

怪我のため、ウエイトを担いだり持ったりすることはできないために、バイク上でできるギヤワーク(重いギヤを回す)を実施。

またFTP付近のトレーニングは難しいためにテンポを長く行うことで心肺機能の低下を防ぎました。ペースの変化の激しいトレーニングはできないため、一定ペースで長時間負荷をかけるメニューを中心にプランニングしました。

難しい状況ではありましたが、幸い脚はケガをしていなかったので、受傷後5日目の比較的早い段階でローラーでのトレーニングが再開できたのは幸運でした。

▼受傷後1週間のメニュー

テンポ(76〜90% of FTP)を40分維持するトレーニング(黄色がパワー)

▼受傷後3週間 全日本まで1週間のメニュー

4×10分FTP + 4×3分 VO2Max(黄色がパワー)

 

1月7日。初の屋外トレーニング。路面からの振動やダンシングがキツいために一定ペースでトレーニング。シクロクロスで要求される高域のFTPゾーンとVO2Maxをできる限りシンプルなメニューで刺激。

 

▼受傷後3週間 全日本まで4日のメニュー

2×10分 FTP + HIIT(黄色がパワー)

 

1月11日。全日本選手権前の調整。受傷後3回目ながらレースが迫ってきたので、長時間の追い込みは避け、刺激を入れた。
全日本選手権まで4日の時点で高強度インターバルトレーニングが可能に。この日は仕事・リハビリの合間を縫ってのトレーニング。

全日本選手権当日

砂地のコースを走る小坂 光選手(宇都宮ブリッツェン) ©コマツ トシオ

レース当日は、走行に支障がない程度に肩の痛みは引いていましたが、それまで肩をかばう動きを続けていたことや、負荷の高いトレーニングを再開したことが原因と見られる猛烈なヒザの痛みに襲われてしまいます。

「全日本だけがレースだけではないし、ケガでシーズンや今後のレース活動をフイにしてしまうことがないようにしましょう」と話し合ってからスタートに向かいました。

肩の具合から、小坂選手が最も心配していたスタートは上手く決まりました。ただその後のレースも肩に大きな負荷をかけることは避け、ほぼシッティングで周回を重ねます。

幸いヒザや肩がひどく痛みだすこともなく迎えたラスト周回。追い上げてきた竹内 遼選手とのバトルで、このレース中唯一の思い切ったダンシングでアタック。5位争いを制しました。

竹内 遼選手との5位争い ©コマツ トシオ

小坂選手が目指す、本当の復帰

今回は全日本ということもあり、駆け足で復帰しました。しかし、その後の蔵王と愛知牧場の2レースはスキップ。完全な状態に戻すためのトレーニングに充てることとなりました。

あまりに性急な復帰は選手寿命を縮めることになりかねません。再度ベーストレーニングを行って、フィットネスレベルを取り戻したときが本当の復帰になります。

次戦の予定は東京シクロクロス。ここで小坂選手本来の走りを取り戻すことが次のゴールとなります。

ケガが与えてくれたもの

今回、ケガと向き合ったことで小坂選手のシクロクロスを愛する気持ちはさらに強まったように見えます。復帰に向けての過程がレースへの思いを強めてくれたように思います。
できる限りケガは避けたいですが、ケガが与えてくれるものもあると感じた今回の全日本選手権でした。

 

プロフィール紹介

小坂 光(宇都宮ブリッツェン)

1988年生まれ。2017年シクロクロス全日本選手権優勝。オフロードからオンロードまでマルチな活躍を見せる。宇都宮市役所に勤務する公務員レーサーでもある。
https://www.blitzen.co.jp/team/blitzen/kosaka_hikaru/

中田尚志(ピークス・コーチンググループ・ジャパン)

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。
https://peakscoachinggroup.jp/

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PROFILE

中田尚志

中田尚志

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。

中田尚志の記事一覧

ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。

中田尚志の記事一覧

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