2024年パリ五輪へ向かう日本チームのコーチ、ダニエル・ギジガー
中田尚志
- 2023年07月30日
今年から自転車トラック競技日本ナショナルチームの中距離ヘッドコーチに就任したスイス人コーチ、ダニエル・ギジガー氏。そのキジガー氏にピークス・コーチンググループ・ジャパンの中田尚志さんがインタビューを行った。
多くの選手をワールド・ツアーに送り込んだ敏腕コーチ
1990年、日本人で初めてジロ・デ・イタリアに出場したのは市川雅敏氏。市川氏の所属チームで監督を務めていたのはギジガー氏だった。30年の時を超えて再び日本人選手と関わることとなった。
コーチとしての手腕は折り紙付きで、スイス・ナショルチームを五輪に導いた。また数多くのライダーをワールド・ツアーに送り込んだ実績がある。
スイスはあなたが強化に入ってから大きく力を伸ばしました。どう強化していきましたか?
「ライダーたちがまだジュニアの時代から一緒に過ごすことで育成していった。現在スイスでは、かつてのように国内でたくさんのレースが開催されているわけではない。我々はジュニア・U23の選手を引き連れ欧州各地のレースを転戦した。ジュニア時代に楽しみながら競技力を伸ばし、エリートの完成した選手へと進化を遂げるまでを彼らと共に過ごした。選手の強化には長い時間とプロセスが必要だ」
トラック中距離選手の強化法で大切にしていることは?
「トラックの強化をするにはロードも走るべきだと考えている。トラックとロードを別々に考えるのではなく、両者をバランスさせることが強化につながると考えている。ロードとトラックのスケジュールはバッティングしがちだが、両者は互いに相対するものではない。
好例は窪木一茂。彼はイタリアのプロチームに所属し、長く厳しい欧州のロードレースを戦うことで大きなエンジンを手に入れた(体のキャパシティを増やした))。他の選手もロードを走ることでよりバランスの良い選手になれると考えている。トラック世界選手権の後、幾人かの女子選手を欧州に残しロードレースに参加させる予定だ」
日本の印象は?
「日本での生活をとても楽しんでいる。自転車でも走っているよ。そして自転車を愛する人がたくさんいることも知った。良い環境を与えられたと思っている。最初は『一体いくつ連盟があるのだ?』と困惑もしたけどね」
市川雅敏さんについて
「彼は素晴らしい選手だった。日本から欧州は遠い。ともに異なる文化圏だ。しかし彼は日本から遠く離れても文化の違いをモノともせず過ごした。そして欧州と日本の文化の良いところを融合し、進化を遂げた。特別なメンタリティを持った選手だったと思う」
監督としてチームを率いた1990年ジロは?
「あの年、マサ(市川雅敏)はプロフェッショナルとしての仕事をした。冬の間から私が作ったトレーニングプログラムを遂行した。彼は良い準備を行いジロに臨んだ。チームの構成もバランスが取れていて、マサはもちろん他のライダーも素晴らしかった。今でも良いチームだったと思うよ!」
日本の若い選手がワールド・ツアーレベルに達するには?
「時間が必要だ。遠く離れた日本の選手がワールド・ツアーのレベルに到達するには、まず文化の違いを克服する必要がある。プロを目指す前に文化の違いに戸惑ってしまう若者も多いだろう。また海外志向の強い若い選手はそう多くないように思う。ナショナルチームでも欧州に冒険に出ようと考える若者は多くない印象だ。だから、いきなり2年間を海外で過ごすのではなく最初は2カ月程度レースを経験し、文化の違い、レースの違いに段階的に慣れていく方が良いかもしれないね」
今まで指導した選手は?
ダニーロ・ホンドと一緒に強化をしたのですが?
「イエス。彼の貢献も大きかった。ステファン・キュングはまだ背丈がこんなに(身振りをまじえて)小さいときから一緒にやってきた。マーク・ヒルシは素晴らしいマディソンの選手だった。彼はジュニアで世界チャンピオンになった。ステファン・ビセガーはタイムトライアルで非凡な才能を見せていたね」
お話を頂きありがとうございます。あなたの手腕に期待しています。
「ありがとう! また会えてうれしいよ」
中田尚志(ピークス・コーチンググループ・ジャパン)
ピークス・コーチング・グループ・ジャパン代表。パワートレーニングを主とした自転車競技専門のコーチ。2014年に渡米しハンター・アレンの元でパワートレーニングを学ぶ。
https://peakscoachinggroup.jp/
- BRAND :
- Bicycle Club
- CREDIT :
- 文・構成 中田尚志
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