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自転車レースの安全を支え、選手、主催者の利害を調整する第3者機関CPA

自転車レース開催は、多くの人々による努力の結晶であると言えるだろう。その中には、大会に出走している選手自身や、大会のオーガナイザーも含まれるが、じつは目に見えないたくさんの数の人が1つのレースの開催の陰で働いている。

しかし、レースの規模が大きくなればなるほど、その大会にかかわる人や組織の数は増える。その結果、多数の人々の利害を調整する必要があろうことは、想像に難くない。そんな自転車レースでの利害調整の場となるのが、サイクリング・プロフェショナル・アソシエイツ(Cycling Professional Associates 以下CPAと省略)である。

CPAから派遣される形で今回の「ツール・ド・フランス ファム アヴェク ズイフト(以下略、TDFF)」に同行しているスペイン人のベレン・ロペス・モラレス氏に、CPAが果たしている役割などについて聞くことができた。

自転車レース界で「三方良し」を目指すCPA

CPAとはいったいどのような団体なのでしょうか?

ベレン・ロペス・モラレス(以下略モラレス氏)「CPAの正式名称はCycling Professional Associatesといいます。自転車競技のプロ選手がより快適に競技ができるようになるために形成された、国際的な非営利の団体です。現在はアダム・ハンセンがCPAの会長として活動しています。

今回は女性のレースに女性である私が同行する形になっていますが、CPAが男性のレースに女性のメンバーを派遣することもありますし、逆に女性のレースに男性のCPAの関係者が派遣されることもありえます。

CPAは男性のプロ選手の組織でもあり、女性のプロ選手の組織でもあります。そのためレースに派遣されるメンバーは男性だから、女性だからという理由よりも、レースをしている地域の近くに住んでいるかどうか、言葉の問題がないかどうか、というような観点で選ばれているように思います」

今回のTDFFで、あなたはどのような役割を果たしているのしょうか?

モラレス氏「私が担当しているテーマは主に2つあり、1つはレースをしている選手の安全を確保すること、もう一つは天候や気象状況の極端な変化に対応する解決策を見つけることです。

例えば、レース中に選手が報道関係者や警察車両のオートバイや車に接触したりすることもあります。あるいは、転倒までしなくても、オートバイや車が邪魔になっていると感じることもあるかもしれません。そのようなとき、私は選手やその車・オートバイの運転手、そしてレースオーガナイザーの意見を聞き、3者が合意できるような落としどころを見つけるという役割を果たすことになります。

例えば、今回のTDFFでも、報道関係者のオートバイが選手に近づきすぎて200スイスフランの罰金を支払ったことがありました。そのときに、私は該当の選手と直接話して、彼女が「確かにあのオートバイはレース中に邪魔だったけど、相手も仕事をしているわけだし、レースから除外するほど悪いわけでは無かったと思う」という意見だったので、該当のオートバイに乗っていた2人には、大会主催者が罰金と1日のレース不参加を課することでこのケースを終わらせることができました。こうしたときに選手・報道関係者(今回)・レースオーガナイザーの意見を聞いて、落としどころを考えるのが私の役割の一つなのです。

もう一つの役割である天候や気象状況の極端な変化に対応する解決策を見つけることですが、例えば今の時期、朝から気温が35度もあったら、レースの始まるお昼過ぎには40度を超えるでしょう。そうしたときに、選手の安全を考えてオーガナイザー側に、例えばスタート時間を早めるとか、距離を短くするなどの提言をすることも、私の仕事になります。

基本的には、レース中の選手の安全確保をすることが目的になりますが、その安全も選手はもちろん、レースオーガナイザーや報道関係などの関係各所が納得する形で解決策を見つけるのが、本来の役割といえるかもしれません。けっして選手の利益のためだけにCPAが動くことはありません。オーガナイザーもレース関係者も、そしてもちろん選手も幸せになれる道を探すのが、私の役割になります。」

CPAの一員としてレースに同行するのは、今年が初めてですよね?

はい。昨年まで私は10年以上自転車選手として生きていたので、選手側の立場はよくわかります。例えば、昨年のブエルタ・アンダルシア・ウーマンでは選手側の代表者として、オーガナイザー側と交渉したりしました。

今年からレースを選手としてではなく、オーガナイザー側の一員として支えることも増えたので、オーガナイザー側の立場と言うのも、理解しているつもりです。

あなたは、自転車選手として非常に長いキャリアをお持ちです。例えば、現役時代に経験したレースを振り返ってみて、「あのときCPAのような組織があったら、レースがもっと良くなっただろうな」と考えることはありますか?

あります。例えば、私が何度か走ったジロ・デ・トスカーナでは、レース中に関係ない車がレースコースに入ってきて選手に猛スピードで向かってきたリしました。

今年のツール・ド・ピレネーでも同じようなことが起こりましたね。最終的には選手がレースをボイコットすることをUCIが許可したことにより、最終日のレースがキャンセルされることになりました。確かにレースを中止することで選手の安全は確保されましたが、その一方で、レースオーガナイザー側には遺恨を残すことになってしまいました。

このような形での解決法はCPAが望むものではありません。もちろん、選手の安全は確保されなくてはいけません。とはいえ、大会で働いている人はそれぞれ目的があるのも事実です。また、オーガナイザーの目的は、大会を無事に成功させることで、それ以外の目的で動いている大会はおそらくないと思います。

選手はレースに出るのが仕事で、レースオーガナイザーはレースを作って運営するのが仕事、そしてそのレースや選手をさまざまな形で支えることが仕事の人も大勢います。だから本来はみんなレースをすることが幸せなはずですから、CPAはその幸せのために動いていると言うべきでしょうね。

現役教師を続けながらCPAの活動を行うモラレス氏

私のようなCPAの関係者がオーガナイザーや選手と話すときって、何か問題が発生したときなんです。だから、特にレースオーガナイザーには「あんたの姿をみるのが、ものすごく恐怖なのよ」って言われると笑うモラレス氏。現役の中学校の理科の先生という顔も持つ彼女は、CPAの活動を、選手とレースオーガナイザーと自転車業界に関係する人々の3者が幸せになるためのものだと繰り返し説明してくれた。

パンデミック後の社会環境や異常気象、そしてレース自体のスピード化など、自転車レースを取り巻く環境は、大きな変化の時を迎えている。そうした変化を、自転車競技にかかわる人全体にとって良い方向に持っていくために、CPAの活動はこれからも続く。

CPAアジアアンバサダーとして活動する與那嶺恵里

與那嶺恵里(ニューマン・パワードヘルス)は現在CPAのアジアアンバサダーとして活動している。

「私たちはロードレースがより安全に運用できるように、主催者とレース前後に調整を行うのが主な業務になっています。当然女子ライダーの地位向上、契約給与の安定、所属チーム、連盟からのハラスメントなどについても、CPAを通じ調査を行い、UCIへ報告し問題を解決することもあります。女子ライダーの労働環境は年々改善しているので、引き続きCPAを通じより多くの女子ライダーが競技を安全に続けられるように私も働き掛けを続けます」。

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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