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第36回矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシック、総合優勝は田崎友康

2023年7月29日(土)、30日(日)の2日間に渡り、秋田県由利本荘市の矢島町で第36回矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシックが開催された。コロナの中断期間を考えても36年を超える歴史をもつ国内屈指のヒルクライムレースだ。また初日には個人タイムトライアル(以下、TT)も実施され、種目別及び総合での順位を争う。そしてTTと2日目のヒルクライムの合計タイムで競う「矢島カップ」男子総合優勝には田崎友康さん(F(t)麒麟山Racing)が輝いた。この矢島カップのトロフィーには歴代の男子総合優勝の名が刻まれており、本大会の権威が垣間見える。今回、編集部員の坂本が本大会に参加した模様をお届けする。

ヒルクライムなのに! 初日は8kmの個人タイムトライアル

快晴の中、スタッフの合図でスタート! ここから8km踏み続けるのはきつかった! 結果は15分52秒(総合順位117 位)

本大会は2日間のステージレース制が特徴だ。もちろんヒルクライムのみ、タイムトライアル(以下TT)のみでの参加も可能。TTへ参加する選手はこの初日から競技が開始される。ヒルクライムなのにTTがあることに驚いていた初参加の編集部坂本だったが、小学生の部やMTBの部もあったりとビギナーでも気兼ねなく参加することができた。

空気抵抗を考えたTTバイクで参加する選手も多く、この大会のTTはレベルが高い

個人TTで見事第1位に輝いた香野祐一さん(36歳、LinkTOHOKU)。8kmを10分42秒で走り切り、昨年の第35回大会に続き個人TTで2連覇を達成した。機材については昨年と変更点は無いものの、ハンドルバー周りのおさまりをとにかく意識して調整してきた。春先から走っては調整を繰り返し、微調整も入れると数百回のポジション調整を行ってきた。来年も参加するとのことで、香野さんのTT3連覇を阻止したい人はぜひ参加してほしい。

個人TTの表彰式はその日その場で実施される。レースの熱が冷める前の表彰式では選手の素晴らしい表情を楽しめる

目指すは矢島カップの8年ぶりの奪還! 田崎友康の2つの戦い

今回、8年ぶりの矢島カップを目指す参加者がいる。新潟県より参加の田崎友康さん(F(t)麒麟山Racing)である。昨年は数秒届かず第2位という悔しい結果に終わったが、今年はなんとか矢島カップをと意気込む。

個人TT前の田崎友康さん(F(t)麒麟山Racing)。2日目のヒルクライム仕様のバイクにDTバーをつけ臨む

また、個人総合の矢島カップとは別で、親子賞の第1位も目指している。この矢島カップはじつは多くの賞があるが、そのうちの一つが親子賞。初日のTTでの小学生以下のお子さまのタイムと、2日目のヒルクライムにおける親のタイムの合計で競う。今回参加の田崎さんの子である田崎嘉人さんは今年小学校6年生。親子賞を一緒に狙える最後の年齢だ。

初日の個人TTは4位という結果の田崎友康さん。嘉人さんは個人TT小学生MTBの部で第1位という好位置につけた。矢島カップと親子賞の結果はどうなるか、2日目のヒルクライムの結果に委ねられた。

参加者600人超。2日目のヒルクライムレース開幕!

チャンピオンクラスが最初にスタート。クラス別に細かく分かれて走り出す。この辺りの運営・安全管理は長年の大会運営経験からか非常にスムーズだ

2日目の7月30日。8時過ぎにヒルクライムレースがスタートした。エントリーは600人を超えたヒルクライム。本スタート会場までのパレード走行区間があり、その間は矢島町内を走行する。朝も早い中、家からわざわざ表の道路まで出てきて拍手や声援、旗を振ってくれたりと沿道での声援の数がすごい。昨年参加した他の編集部員に聞いてもやはり沿道の声援がすごかったとのことで、この大会が矢島町の生活の一部としてなじんでいることが分かる。どこの自転車イベントもこの矢島カップのように地域の人々に心から歓迎されるようになればよりよい自転車環境が産まれるのだろう。

地元の中学・高校や婦人会などの積極的な協力が大会を成立させている
矢島町の地元の方々の応援がすごい! 頑張ろう!!

編集部坂本、初ヒルクライムレースに挑戦

編集部坂本のヒルクライムレースがスタート。この矢島カップは全長が約27kmと、国内のヒルクライム大会としては距離が長めである。そのためペース配分が大切なのだが、最初にしばらく続く平坦区間のペースは速い。ただ、スタート直後はメイン集団に乗ることで体力的にも問題なく上りが始まるまでの約2kmは走れた。ただし、ここからはきつかった。

遥か先に見える鳥海山。この大自然を全身で感じながら上っていく

簡単にコースを説明すれば、最初の2kmは平坦で、そこから10kmまでは上る。10km地点から2km程下ったあと、19km地点までは上り。そこから1km程下った後はゴールの27km地点まではずっと上りだ。獲得標高は約1200mに及ぶ。途中に2カ所の給水区間ではスタッフが紙コップをもって用意してくれており、本格的なレースのように補給が可能。編集部坂本は補給ポイントで立ち止まり、ボトルへの補充をお願いした。格好よく紙コップをサッと取って走り去れるようになりたいのだが。

素晴らしき快晴。非常に高い気温! 補給地点でのスタッフの手際の良さのお陰で熱中症にはならずに景色も楽しめた

幸いにもこの日は快晴。そしてかなり暑い。水をかぶって塩分補給をしつつ、27kmをなんとか走り切った編集部坂本はすでにもう限界の様相を呈していた。初のヒルクライムレースを2時間6分(総合451位)でフィニッシュした。それにしても27kmもの距離を上ったときの達成感はすごい。

MTBでの参加でも全力で競い合い楽しめる。それが矢島カップ
ゴール後には本大会名物にもなっている特産品のスイカが振る舞われる。参加者に話を聞くと多くの人がこのスイカのために上っているというくらい美味。ただ、編集部坂本は体力の限界でギリギリの笑顔

ヒルクライム優勝は森谷康平さん、田崎友康さんが第2位

ヒルクライムの優勝者は森谷康平さん(秋田県、たぬきーず)。1時間2分59秒という好タイム。昨年のヒルクライム覇者で8年ぶりの矢島カップ奪還を狙う田崎友康さんは約14秒差で第2位という結果に。果たして総合優勝の座はどうなるか、それは下山後の表彰式で明らかになる。

しのぎを削りあい上りきった入賞者たち。ゴールした後は和気あいあいと談笑を楽しんでいた。熱く暖かい大会を体現しているかのようだ。他の参加者たちにも話を聞いてみた。

参加者に聞く、毎年来たくなるイベントの魅力

青森県から参加のBLE BOSCOの皆さん。チーム名はイタリア語で青い森という意味

「おやじギャグです。おっさんチームです(笑)」と明るく話してくれたのが手前列中央の尾形重夫さん(59歳)。チームとしてはもう10年以上連続で参加していて、毎年のメインイベントがこの矢島カップとチャレンジヒルクライム岩木山の2つとのことだ。「地元の声援やボランティアスタッフの方がとても熱心で、参加しててとても楽しい。パレード走行だけですでに楽しくて、これは10年前から変わらない」とのことだ。また、遠方からの参加者がいても、2日間の大会だから初日の夜に一緒に食事をしたりゆっくり楽しめるとてもいい機会になるとのこと。

「少し遠い場所だけど、お米をもらってTシャツももらって山を上って、頂上でスイカを食べて降りるとおいしい豚汁食べられて。このすべてのセットがとてもいい。景品も誰にでもチャンスがあるのがよい。でも一番は町の応援ですね!」と話すチームBLE BOSCOのみなさん。来年もぜひこの場所でお会いしたい。

TTRというチームの皆さん。名前はチーム・スラスト・リバースの略称で、意味は逆噴射とのこと。ジェットエンジンの設計の仕事をしていたメンバーの発案で、「自虐的に、僕たちの後ろにつくと遅くなるよという意味あいで(笑)」とのことだ。ただ、小田憲司さん(左から2番目、51歳)は世代別で3位、小坂礼央さん(こさかれおん、写真中央、15歳)は世代別で2位という結果で、もはや普通に噴射なのだが……。

「中国に7年程仕事で住んでいた時期もあるんですが、この大会のときだけは日本に帰ってきて参加してました」という小田さんは10回は参加しているとのことだ。「スタッフの優しいアットホームな感じが好きで。他の大会もでてるんですが、ここが1番。ゴールした後のスイカも最高」と小田さんは語る。小坂さんは1年ほど前から自転車に乗り始め、今大会が初レースながら入賞したという強者だ。一緒に参加した父親も抜いたとのこと。

来年も参加するとのことで、来年TTRを見かけたら後ろについてみてはいかがだろうか。

スイカだけじゃない! おにぎりに豚汁など、下山後にもおもてなし

下山は100人ほどの単位でゆっくりと下るよう指示。先導車もあり、この辺りの管理もさすがだ。ゆるりと下りながら改めて顔をあげると風景の素晴らしさに気付く。必死に上り、景色を楽しむ余裕が無かった人でもこのタイミングで鳥海山や由利本荘のダイナミックな景色を堪能できる。

ここを上ってきたのか。毎回ヒルクライムをした後は本当によく上ったなあと感じる

また、下山中も沿道に応援が!「お疲れさま~」と手を振ってくれている。こちらこそ頭が下がる。この暑さの中、参加者たちに最初から最後まで声援を送り続けてくれる環境はなかなか無い。

下山後にはおにぎり2個とお茶、さらには豚汁が! 地元でつくられたおにぎりも、スタッフの方々特製の豚汁も疲れた体に最高の補給だ。表彰式までの時間にちょうど食べることができ、非常に考えられたスケジュールでもある。

最高においしい豚汁。疲れた体にちょうど良い塩分で、無心に一気に食べてしまった
その豚汁をむさぼる坂本。夢中なのが伝わる

矢島カップは男子・田崎友康、矢島クイーンカップは向井菜見子

第36回矢島カップも無事に終了。1日目の個人TTと2日目のヒルクライムの合計タイムで争われる矢島カップは誰の手に渡ったのか。合計タイム1時間14分22秒の記録で見事にバイシクルクラブが初日から追いかけてきた田崎友康さんが獲得した。2位の森谷さんとはわずか22秒差だ。8年ぶり2回目の獲得であり、40歳を超えてからの初受賞でもありその喜びは大きい。

村山利男さんなど歴代の有名選手の名前が刻まれている

歴史ある矢島カップの大きなポイントはこの優勝カップにあるといえる。今どき珍しく、優勝カップを毎年優勝者が返還するスタイルで代々受け継がれている。また、歴代の優勝者の名前がカップの側面に刻まれており、この大会で優勝することはここに一生名前を残すことを意味する。サイクリストにとってこんなに名誉なことはない。歴代の名を見ると、どこかで名前を見たことがある有名な人もちらほら。

女性の総合優勝も矢島クイーンカップとして争われる。昨年のクイーンを2位に抑えて1位に輝いたのは、神奈川県より参加の向井菜見子さんだ。今回は2回目の出場で、昨年はTTには出場しなかったが今年初めて2日間の総合に挑戦。ヒルクライムでは1時間19分25秒、2日合計で1時間32分54秒という好タイムで2位に約8分の差をつけ見事に優勝した。「好きな大会なので、日程さえ合えば来年も参加します!」とのことで、ぜひ脚自慢の女性は挑戦してみてはいかがだろうか。

かねてから田崎さんが狙っていた親子賞。こちらも見事に田崎友康・嘉人親子が優勝を果たした。嘉人さんの年齢的に親子賞を狙える最後の年だったが、有終の美を飾ることができた。

東京大学自転車部に所属し、学連でのレースにも多数出場している長坂和輝さん(20歳、東京大学)。出身は地元秋田の横手市で今回が初出場だ。高校2年生から少しずつ自転車に乗り始め、大学から本格的にレースを始めた。本大会でも世代別6位に入賞。

秋田市から参加の小玉悠斗さん(18歳、PEEVJS)は高校3年生。友人と作ったチームで2人で参戦。今回が初めてのレース参加だ。レース前には「世代別で3位以内が目標です」と話していたが、結果は見事に世代別で第2位。「人を抜くのが楽しくて」と語る生粋のレース体質。来年も絶対に参加したいとのことだ。

ステーキや地酒など豪華景品が特別賞としてもらえる!

本大会は上述の矢島カップや矢島クイーンカップ、親子賞の他にも、それぞれの世代別での表彰やチーム賞、中には一番遠方からきた人を讃える賞など、10を超える賞が用意されており、さらにそれぞれ商品が豪華だ。地元名産の由利牛のステーキや地酒の日本酒(一升瓶)、地元産の野菜など持ち帰るのが困難なほど。

また、表彰の最後には抽選があり、順位に関係なくステーキなどがもらえる可能性がある太っ腹な大会だ。

協賛企業のジャイアントはサイクルトレーナーを景品として用意。これで来年はより強くなって大会に帰ってくるのだろう
地元の特産品をもらう参加者。抽選だから自分に当たる可能性もあるためドキドキする(私は外れた……)

地域の協力体制が手厚く、自転車大歓迎の空気に心が高ぶる

この大会は地域で創り上げているという感覚が非常に強い。大会の受付や警備の方々、メカニックのスタッフも含め、地元の方々が協力している。会場にあるメカニックサービスの松田さんは、秋田県秋田市にある自転車ショップ「TECHNICAL BIKE SHOP SHOWA」のオーナーだ。かれこれ20年以上この大会にメカニックとして参加している。

メカニックとして活躍する松田さん。協賛のマビック社が用意したマビックカーに乗ってレース当日も最後尾から選手たちをサポートする

「コロナ禍から参加人数も回復。来年はより多くの方に参加してほしい」
(実行委員会 髙橋 昂)

本大会の実行委員でもある由利本荘市矢島産業建設課の髙橋 昂さんに話を聞いた。

「今回は2日目だけで600人強の方々にご参加いただきました。コロナ禍前で多いときは1000人以上の参加者と聞いているのでそこにはまだ及んでないですが、コロナ後に大会が復活した昨年からは参加者は若干ですが回復しています。来年はより多くの方に参加してほしいですね。今年も昨年の反省を生かして救護系の荷物の運搬などを改善しています。国内最大級のスケールのヒルクライムレースや山ならではの風景のほか、矢島町を町全体をあげてのおもてなしをぜひ皆さまに体感していただきたいです」。

歴史が深く、それが故に地域にひとつの文化として根付いているヒルクライムイベント、矢島カップMt.鳥海バイシクルクラシック。じつは東京からでも新幹線とレンタカーの組み合わせなら1泊2日での参加も可能だ。興味のある方は来年はぜひこの空気感を味わってほしいと思う。

編集部坂本はピナレロ・X3で無事に2日間を駆けた

ピナレロ・X3、コンポーネントパーツははシマノ・105のDi2仕様、ホイールはRACING 800 DB

編集部坂本はピナレロのX3で2日間のタイムトライアルとヒルクライムレースを乗り切った。初日は緊張していたが、初のヒルクライムレースをケガ無く走り切り楽しむことができた。ピナレロはレーシーでありながら快適性をアップしたモデル。初日のTT、そしてヒルクライム、そして下山も快適に走ることができた。

緊張することなく臨めたぞ!と思っていたのだが、この写真を見るとどうやら私は緊張していたらしい……

問:Mt.鳥海バイシクルクラシック事務局
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/yashima/roadrace/cycle%20hp/top/newindex.html

問:ピナレロジャパン
https://www.riogrande.co.jp/pinarello_opera/

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PROFILE

坂本 大希

坂本 大希

元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。

坂本 大希の記事一覧

元海上自衛官の経験を持つライター。1年間のドイツ自転車旅行をきっかけに自転車が好きになる。2022年秋ごろよりグラベルイベントに多数参加。2023年のUnbound Gravelで100マイル完走。グラベルジャーナリストになるべく知見を深めるため取材に勤しんでいる。

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