【北海道・稚内周辺】日本の最北のそこは自転車と釣りの聖地だった|RIDE & FISH
小俣 雄風太
- 2023年09月19日
サイクリストとアングラーの憧れ、北海道。中でも最北に位置する稚内は、日本最北端の宗谷岬を擁することもあり、日本一周サイクリストにとっては聖地ともいえる場所。そして釣り人にとっては、幻の魚イトウの生息地であるばかりか、海川問わず濃密な魚影があることでこの地は知られている。ならば! 行くしかないとシマノの方を巻き込んで旅に出たのでした。
日本にいて国境を意識する場所というのはそう多くない
ナントカと煙は高いところへ上りたがるという格言があるが、自転車乗りも釣り人も、高いところに行きたがる。……緯度の話だ。自転車乗りなら一度は日本最北の地を夢見るものだし、釣り人なら最北の原野河川に夢を見るもの。ご多分に漏れず「いつかは」と思っていると、そのいつかがやってきた。
新車にウロコを付けよう
RIDE & FISHを推し進める大阪・梅田にあるSHIMANO SQUAREの蔭山店長は、かつてはMTBのDHレースで鳴らし、シマノでは2代目XTRのデザインを担当したという根っからの自転車人であるが、昨今は日本全国津々浦々で釣りをする熱狂的なアングラーでもある。
そんな蔭山さんが、RIDE & FISHのためにニューバイクを組んだというから、必然的にどこかへ釣りをしに自転車で行きましょう、となる。釣りの世界では新品の釣り竿で魚を釣ることを、「入魂」や「ウロコ付け」と呼んで験を担ぐ。ここには釣り人の道具に対するフェティシズムが表れているが、一方で自転車乗りは新車デビューに際し「New Bike Day !」とSNSに書くくらいのもので、案外あっさりとしたものである。
しかし蔭山さんのバイクはRIDE & FISHのためのものだから、広義の釣り道具でもある。ならば、バイクに「ウロコ付け」しましょうと、北海道は稚内へと向かったのだった。
古くは「サイクル野郎」というマンガから、近年の日本横断ギネス記録のフィニッシュ地点まで、サイクリストは日本の最北端、宗谷岬を目指し続けている。釣り道具を満載したバイクでこの最北を目指すのは我々くらいかもしれないが、それはライド中にいつでも釣り竿を振るためなのだから仕方ない。宗谷岬への道すがら、はるか海の向こうに霞んで見える陸地は樺太である。ロシア語のサハリンという響きに触れると、たちまちにここが最果ての国境であることが想起される。日本にいて国境を意識する場所というのはそう多くない。江戸時代の探検家、間宮林蔵はここから樺太へ渡ったという。先人の偉業に、ペダルを踏む足にも力が入るのだった。
乗っても釣っても、多幸感しかない
最北の地を踏んだあとは、進路を日本海側の南にとる。国道232号オロロンラインはこれぞ北海道という広大な道で、交通量も少なく、ただ走るだけで多幸感に包まれる。しかし我々は釣り人でもある。気づけば吸い込まれるように砂浜へと出ていた。
光、気候、風景、すべてが完璧だった
海の向こうに利尻富士が浮かんでいる。光、気候、風景、すべてが完璧で、現実離れした瞬間に陶然となる。こんなところで自転車に乗り、釣りができるなんて。
蔭山さんは新車から釣り竿を取り出したかと思うと、もうルアーを投げている。すると最北の海の豊かさはすぐにわかった。一投目から小さなヒラメがジグミノーに食いついてきたかと思うと、その後はウグイが連発。さらに蔭山さんのルアーに食いついてきたのは、本命のアメマス。夏至の近いこの日は、19時を過ぎてもまだ明るく、楽しい釣りの時間が続いた。
蔭山さんの新車の「ウロコ付け」を無事に終えて、夕日に照らされたオロロンラインに戻ると、改めて世界の果てに来たような、どこまでも真っ直ぐな道が続いているのだった。
翌日は内陸部へ向かい、山間の渓流にニジマスを狙う。
もしかしたらイトウが釣れるかもしれない……
午前3時で外はすでに明るい。内陸部へ向かうと前日とは打って変わって、上り坂が現れ、周囲は森になっていく。北海道では行く先々でのヒグマ出没が話題だが、地元の人たちは狼狽するでもなく、受け入れているのが印象的だった。
この地の人々の自然と共存した暮らしに触れた思いがするが、我々よそ者からすると気が気でない。今走っているすぐ横の茂みに、ヒグマがいるように思えてならないのだ。そんなところが好ポイントでもあって、橋の上から川をのぞき込むと、底には巨大なニジマスがうようよと泳いでいるのが見える。
北海道での釣行経験豊富な蔭山さんは、ポイントに入る前に爆竹を鳴らしてくれた。フォトグラファーの田辺さんを含む我々3人とも、クマよけスプレーと熊鈴を携えている。
遠くまでルアーを投げ込む前日の釣りと異なり、川ではキャスティングの精度が求められる。まったく別の釣りだが、同じタックルでできるのがいい。川でもまた、北の大地の豊かさは変わらず、何匹もの野性味溢れるニジマスとヤマメが遊んでくれた。
山から町へと戻る帰路、雰囲気のよさそうな淵が目に入った。「もしかしたらイトウが釣れるかもしれない」と蔭山さん。
思い立ってポイントにすぐ入れるのはRIDE & FISHならではだ。国内では北海道にしか生息しない幻の巨大魚イトウ。これが釣れたらはっきり言って出来すぎだ。が、「……来たッ!」。ガボンと水面を割る重い音がした後、ネットに収まったのは紛う方なきイトウ。野趣あふれる面構えは、他のどのマス類とも違う。しばし見惚れてしまった。しかし出来すぎである。蔭山さんの新車にはどれだけのウロコが付いていたのだろう! 最北の地は、自転車乗りと釣り人にとって、まさしく聖地なのだった。
アメマス&ニジマス
漢字で虹鱒と書くニジマスは北アメリカ原産。生息環境が合致する北海道では野生化しており、その生息密度と虹色の美しさから世界中のアングラーを魅了している。漢字で雨鱒と書くアメマスはvol.8で釣ったイワナの亜種でより大型化する。東北以北に生息する在来種で、今回は海に下った個体がターゲットとなる。鱒づくめである。
日本の最北の地を走り釣るためのバイク&ギア
スタイルの数だけ、バイクのセッティングや釣具の運び方のノウハウがあるRIDE & FISH。SHIMANO SQUARE蔭山店長の新車を中心に紹介しよう。
ダボスのM-605・オールテレインを釣り仕様に
蔭山さんの新車はダボスのM-605・オールテレイン。MTBerらしくオフロードテイストの強いバイクに、WTBベンチャーの50Cタイヤをセットアップ。リアにキャリアを使用し、パニアバッグはフロントバッグ同様ブルックスの防水コレクションであるスケープシリーズをチョイス。防水バッグにありがちなテカテカ感のないマットな質感がお気に入り。ドライブトレインはデオーレ。ドロッパーポストも搭載しており、荷物をすべて外したらそのままトレイルを走れるスペックに仕上がっている。
蔭山智彦
大阪・梅田のSHIMANOSQUARE店長。2代目XTRのデザイナーであり、元エリートダウンヒラーの顔も持つ。この数年は釣りにも没頭し、シマノ社内でも数少ない自転車&釣りの二刀流としてRIDE & FISHをプッシュしている。
https://www.shimanosquare.com
本連載おなじみの小俣のDoppo ATB
フロントバッグのポケットを利用して釣り竿を入れたロッドケースを収納した。前後キャリアで荷物をとにかくたくさん運ぶスタイル。リアキャリアにオールドマンマウンテンのディバイドを採用。フロントに使用している同社のエルクホーンの頑強な作りに惚れてリアも合わせた。より重い荷物も積めるのでキャンプツーリングでも活躍するだろう。
北海道の渓流で釣りをするならクマよけスプレーは持っておきたい。ヒグマと対峙して使いこなせる自信はないが、用意できるものはすべてしておく必要がある。飛行機への持ち込みはできないので陸送するか現地調達すること。爆竹はポイントに入る際に鳴らしてこちらの存在をヒグマにアピールする。
小俣雄風太(おまたゆふた)
アウトドアスポーツメディア編集長を経てフリーランス。土地の風土を体感できる釣りと自転車の可能性に魅せられ、バイク&フィッシュのメディアを準備中。 @yufta
※この記事はBiCYCLE CLUB[2023年9月号 No.451]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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