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車輪の先に世界を描く若き精鋭 留目夕陽/YUHI TODOME|El PROTAGONISTA

橋川 健、内田 慶、畑中勇介、別府史之、西村大輝……時代を遡れば、かつて若くして台頭しトップレーサーの資質で魅了してきた選手たちがいた。そして今、ロードレース界の未来を担う若手選手として期待が集まる留目夕陽選手。ヨーロッパ遠征から全日本選手権参戦へ帰国した彼にプロタゴニスタはフォーカスした。

違うことがしたい。それをかなえるのがロードバイクだった

史上最も厳しいコースで行われた全日本選手権

2023年6月25日全日本選手権ロードレース。日本CSCの特設8kmサーキットで行われる160kmのレースは、ナショナル選手権としては異例の獲得標高5000m超えの難コースとなった。相当な登坂力とスタミナを持つ選手をそろえなければ戦えないレイアウトに、選手個々の力勝負になることが予想された。この日、EFエデュケーション・NIPPOディベロップメント(以下EF)からは、21歳の留目をはじめ、所属するU23の選手もエリートカテゴリーに出場。彼らの戦いはよりハイレベルを目指していた。

レースがスタートし、お互いの脚を見ながら1周目を終えると、2周目には前日行われたU23の最速ペースを30秒近く縮める展開で勝負がかかった。序盤から多くの選手がドロップする速い展開でできあがった8名の逃げのなかに、EFからはU23の橋川 丈が残った。先手を打って進行する好展開ではあるが、その厳しいコースに徐々に厳しい表情に。中盤に橋川がドロップするとEFのレース展開の立場が追手に変わった。

先行のメンバーがさらに4名へ絞られたところでプロトンからブリッチを試みた織田 聖の奮闘もあったが、逃げ切りに協調体制を強める先行グループとの差は埋まらない。そして本命の新城幸也が追走の攻撃を始めるとプロトンの有力選手たちも遅れ始めた。残り5周回、レース展開を変えるには最後のチャンスといえる場面で留目が飛び出した。苦しい表情ながらピッチは上がり続け、一人で1分半まで差を詰める。

再び留目をキャッチしたプロトン内ではEF門田祐輔へバトンがつながれる。その後先行する4名を捉えることはできなかったが、門田は追走の頭を取り5位でゴール。チームで動くには厳しいコースで、しかしレースを動かした若きEFの選手たちの奮闘は皆の記憶に残った。

ロードバイクへの憧れがやがてインターハイへ

激闘の全日本から数日、留目選手の取材のため彼の地元である西荻窪へ向かった。都会の雑踏が色濃く感じられる地域に、先日までレースの大舞台にいた彼の姿は少々違和感があった。しかし最寄りの喫茶店に入って話し始めると、彼がこの地で育った選手だというのに現実味が感じられた。「小学校でサッカー、中学生では陸上競技をしていましたが、特にそれといった活躍もなく、『スポーツなんか向いていないのかなぁ』と思っていました」。その頃、街を行くロードバイクに憧れ始めるようになり、自転車量販店をのぞきこむ日々が始まった。

東京「西荻窪」という都会の雑踏から留目選手の競技人生はスタートした。当日の取材地もこの近辺で行われた

やがて数台展示されているバイクのなかで一番リーズナブルな一台をとうとう手に入れた。「みんなと違う事がしたい。それをかなえてくれるのがロードバイクだ。ある日、グーグルマップを頼りに江の島まで行ってみました」。初めて走る往復100kmの道のり、広がっていく新しい景色とともに、彼の中で何かが変わり始めていた。「高校生になったら自転車部に入りたい」と。

そんな彼の目に留まったのは都立八王子桑志高校だった。一般受験の結果合格し、自転車部の門を叩いた。同期には宇田川 塁、西本健三郎という有望な選手がいたことも留目の運命をひもづけた。そんな中、高校自転車部にとって最大目標の一つであるインターハイロードレースに留目は1年生で出場。「選考試合の関東大会が悪天候で中止となり、都総体の結果を優先した結果、自分が選出されました」。本格的なロードレースに参戦して間もないだけに、結果はリタイア。

部活動というくくりで乗る時間に少なさを感じ、杉並区から八王子まで片道1時間半の自転車通学で距離を積み重ねた。

その成果が現れたのが高校2年の春に行われたチャレンジロードレース。舞台はインターハイと同じ修善寺だった。ユース時代からこの大会を3連覇していた津田悠義と抜け出した留目は、敗れはしたものの2位と大健闘。この頃から“自分を追い込むのが好き”という性分に気付き、リザルトに自信を付けた留目はひとり練習を突き詰めた。

そして2カ月後の全日本選手権の個人タイムトライアル(以下個人TT)で3位という好成績をあげる。「大会1カ月前に両親に頼み込んでTTバイクを購入し挑んだ結果。これに自信を持てたことでロードレースでも4位になりました」。そして2度目のインターハイロードレースは降りしきる雨のなか、先頭集団のゴールスプリントで5位に入賞。

夏休みにはベルギーへ短期留学、そしてプロ選手の育成プログラムを実施するエキップアサダに入団するなど快調にステップを踏んでいく先を、家族は全力で応援してくれた。しかし同時にこの頃、新型コロナウイルスの世界的流行が世間を騒がせ、留目の状況をも変え始めた。

2019年8月、高校2年時の沖縄インターハイロードは5位入賞。全日本選手権でみせた実力を確信させる走りだった

コロナ渦のレースで活躍、中央大学への進学を決意

2020年4月7日、社会活動を大きく制限する第1回目の緊急事態宣言が発令されると、スポーツ界にも開催自粛の波が押し寄せた。「すぐに収まるだろうと思っていた世界的流行が悪化の一途をたどっていき、競技で夢を追いたい気持ちと先行きが見えない社会状況にどうすべきか、心が揺らぎました」。

高3でJCF強化指定選手になるも高体連のレースが次々と中止。準備してきた全日本選手権、インターハイロードレースが中止されると意気消沈した。だが、彼の非凡な能力が一気に注目された大会があった。それは2020年10月、JCF強化指定選手として急きょ出場が認められた群馬CSCで、大学対抗選手権の代替え大会でもあった。レースは中盤、振りしきる雨のなかで留目は2名と抜け出しに成功。大学のトップ選手たちに混ざりひとりの高校生がリードに加わる驚異の走り、心臓破りの坂で留目が彼らに揺さぶりをかける姿は異質でさえあった。そして最終回の攻防に食らいつくと中央大学の尾形尚彦とのマッチスプリントを制した。

大学4年間の集大成であるインカレロードレースを制した高校3年生は注目の的となった。しかし進学を控えた留目の心は冷静だった。「再び発令される緊急事態宣言、ナショナルの海外活動もできていない。先の見えない空白のような選手活動がまた来ることを考えると、声を掛けてもらった中央大学への進学が、自分が選ぶべき道だ」と。

もう一度自分は立ち上がれる。ワールドツアーの景色を見てみたい

ツール・ド・ラブニールで砕かれた心と再起の心

2021年、留目は中央大学1年生となり、U23のナショナルチームの一員として活動がはじまった。新型コロナの影響で海外遠征がストップした状況下でスタートしたシーズンだったが、国内レースは再開され、学生選手権チームTTで優勝。ステージを短縮し行われたツアー・オブ・ジャパンでは総合10位と新人賞を獲得するなど、コンディションは高く保っていた。

しかしナショナルチームの海外初戦が8月のツール・ド・ラブニールだったことが、その後の彼の運命を変えることになる。U23の世界のトップ選手だけが集まる大会に参戦した留目はレースに圧倒されてしまったのだ。「集団の密集度に対応できないまま、ハイスピードな展開にやられました。経験不足で何もできないストレスフルな状況が続き、途中第4ステージで落車しリタイアしました」。いきなり味わった世界のトップレースに砕かれた心。帰国後の隔離もあり、次第に競技から心が離れていってしまう。そんな失意のなか光を与えてくれたのが、引退を引き留めんとするEF大門宏監督からの電話だった。

練習を再開して間もなく開催された10月の全日本選手権U23個人TTでは2位となり、自分に残っている力を確認。「もう一度自分は立ち上がれる!」と、再びレースに打ち込みだした。

2022年6月、留目のEF入団が発表された。海外を拠点とする新天地で再起を誓い、その月の全日本選手権U23個人TTを制覇。イタリア、フランスのステージレース遠征を経て世界選手権U23個人TTを21位、ワールドツアーチームも多く参戦するツール・ド・ランカウイも完走するなど力をつけた。

2022年、群馬グリフィンから再スタートした留目選手。チームの先輩である金子宗平のアドバイスのもと、全日本選手権U23個人TTを制した
2023年、帰国最初のレース「ツール・ド・熊野」では初日に新人賞を獲得。最終日にメカトラブルでジャージを手放すが、コンディションもよく存在をアピールした

そして今期、彼は大学を休学して本格的な選手活動を開始。プロレースで多くを学び、今後日本のレースシーンでは高いポテンシャルで人々を魅了していくだろう。「もう一度挑戦できるかもしれないツール・ド・ラブニールへのリベンジ。強くなれば、環境もついてくる」。若き21歳の眼差しに光が射した。

ライダープロフィール

留目夕陽

PERSONAL DATA

生年月日:2002年6月18日生 東京都出身
身長:175cm
体重:60kg

HISTORY

2018年~ 2022年/八王子桑志高校自転車競技部
2020年~ 2021年/エキップアサダ
2022年/群馬グリフィン
2022年5月末/EFエデュケーション NIPPOディベロップメント

RESULT

2020年/大学対抗選手権ロードレース優勝
2021年/西日本チャレンジロード 全日本学生選手権、個人タイムトライアル優勝
2022年/全日本選手権U23 個人タイムトライアル優勝、世界選手権U23 個人タイムトライアル21位

 

REPORTER/管 洋介
海外レースで戦績を積み、現在はJエリートツアーチーム、アヴェントゥーラサイクリングを主宰する、プロライダー&フォトグラファー。本誌インプレライダーとしても活躍

 

El PROTAGONISTAの記事はコチラから。
「El PROTAGONISTA」一覧

※この記事はBiCYCLE CLUB[2023年9月号 No.451]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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PROFILE

管洋介

Bicycle Club / 輪界屈指のナイスガイ

管洋介

アジア、アフリカ、スペインなど多くのレースを走ってきたベテランレーサー。アヴェントゥーラサイクリングの選手兼監督を務める傍ら、インプレやカメラマン、スクールコーチなどもこなす。

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