【愛媛県・ゆめしま海道】自転車の聖地しまなみに釣り竿を持ち込んで走る|RIDE&FISH
小俣 雄風太
- 2023年11月28日
しまなみ海道は最高のライドロケーション。しかし悲しき釣り人の性か、過去にここを走った際に海中に多くの魚が見えたことが忘れられない。普段のRIDE&FISHは荷物も積めて未舗装路にも強いグラベルバイクが気分だが、今回はロードサイクリングの聖地しまなみということもあって、ロードバイクで軽快に走りながら釣り場を探すことに。瀬戸内海はRIDE&FISHに微笑むのか!?
INDEX
しまなみ海道RIDE&FISHで、釣った魚を食べてみたい!
夏真っ盛りと書いて盛夏である。日中に外を走る気が起こらないほどに今年の夏は暑くてたまらなかった。釣り竿を携えて走るRIDE&FISHもどんなエリアを狙うか悩みどころだが、夏といえばやはり海。今回は海沿いを走りながら釣りでもしようかと日本地図を広げると、やたらと海に囲まれたライドロケーションがあることに気づく。しまなみ海道である。
自転車の聖地は釣れるのか?
いつからか世界中のサイクリストを魅了するしまなみ海道は、いくつもの離島を結ぶまさに「海道」。海沿いというよりも、海の上を進むようなそんな爽快感があることは、以前に走って知っている。誰もがしまなみ海道と聞いてイメージするものは自転車だが、実際のところ瀬戸内海は日本有数の魚介類の産地でもある。自転車で通り過ぎているあの漁港や砂浜は、じつはいい釣りスポットなのではないか? みなが自転車で走るこのエリアこそ、釣り竿があるともっと楽しめるのではないか?
しまなみ海道とひとくちに言っても、ブルーライン上を走るシンプルなルートから島の深奥まで分け入るローカルルート、あるいは渡船を駆使しての旅感あふれるライドまでその走り方は多岐にわたる。ここはやはり地元に詳しいサイクリストの助けを借りよう、とサイクリストでにぎわうONOMICHIU2のパン屋さんButtiBakeryで働く木下彰子さんをご紹介いただく。木下さんは今春に尾道へ越してきたばかりだが、毎週(毎日?)のようにライドに出かけるサイクリスト。尾道で自転車をさらに深く楽しむ彼女だが、ずっと尾道でやってみたかったことが釣りなのだという。引っ越してからというもの、パートナーと数回釣りに行ったがいずれもボウズ。「いつかは釣った魚を食べてみたい!」というものだから、彼女の案内でライドをしながら、良さそうなポイントを見つけたらその場で釣り竿を出す作戦で尾道を出発したのだった。
ポイントや釣る魚を決めずに、自転車で走り回りながら釣り場を探すというスタイルこそRIDE&FISHの真骨頂。何が釣れるかわからないけれど、縦横無尽に走り回るにはロードバイクの機動性が生きるはずだ。地元の釣具屋さんでは、今はキスが釣れているという情報をキャッチ。キスといえば砂浜だから、いいビーチがあったら入ることにする。
舞台は「ゆめしま海道」
今回はしまなみ海道の中でも、尾道にほど近い「ゆめしま海道」にエリアを絞り込んだ。渡船でしかいくことのできない離島4島(生名島、岩城島、佐島、弓削島)をつなぐルートは、プチ・しまなみ海道といった趣。本土とは全くつながっていないこの4島は、立地的には広島県の沖に浮かんでいるが、陸続きでないために愛媛県上島町という住所だ。数分の船旅を経るこのルートは「旅感があり、島ごとに海岸線の表情が違う」と木下さんがその魅力を教えてくれた。
尾道から向島、因島を経て生名フェリーに乗り込む。地元の人たちと車両を運ぶこのフェリーには自転車に乗ったまま乗船が可能で、数分で生名島に到着した。まずは島の南側を海岸線沿いに走りながらポイントを探す。この日最初の釣りスポットに選んだのはお隣の岩城島へと渡る岩城大橋のたもと。水面下には小魚の群れが見える。地元の釣り人もちらほらいて、潮通しのよいポイントだ。木下さんがエサ釣り仕掛けを投げ込むと、すぐに歓声が挙がった。釣り上げたのはかわいい豆アジ。群れていた魚の正体はこの子のようで、その後も連続でキャッチに成功。「とりあえず、食べられる魚が釣れてうれしい」と満面の笑み。アジはおいしそう!
釣れたことに気分を良くしながら、次のポイントを探して走り出す。岩城島を一周したあとで、「ここはベタ踏み坂って呼ばれているんです」と不穏なことを言う木下さん。まるで壁のように切り立った岩城大橋にはナルホド、ベタ踏みさせられた……。
本命狙いに砂浜へ
4つの島を結ぶゆめしま海道。ベタ踏み坂に限らず、思いの外海岸線にはアップダウンがあって走りごたえがある。橋の上から眼下にきらめく瀬戸内海を見るのは、まさしくしまなみ海道的な体験。信号もほとんどなく、ライドロケーションとしても最高だ。
最も東にある弓削島で、とんでもなくおいしくボリュームのある「アル」のカレーで腹ごしらえ。島南部の砂浜へもう一度釣りをしようとバイクを止めた。シューズをサンダルに履き替えて、波打ち際をじゃぶじゃぶと入っていく。この頃にはすっかりキャストも板についた木下さんは、プルプルと小気味良い魚のアタリを楽しんでいる様子。この反応の正体は本命のキス! 透明感のある魚体が美しいが、同時においしそうでもある。食卓が豊かになるぞぉ、と色めき立って釣ること10匹超。思い立って入ったポイントでこれだけ釣れるのだから、瀬戸内海はやっぱり豊かな海だ。ここではキュウセンも数匹釣れたのだが、すべてリリース。しかしよくよく調べると、関西、特にこの瀬戸内海一帯では食用魚として愛されているらしい。惜しいことをした。
ライドを終えて、お待ちかねの夕食タイム。地元の魚料理店にお願いして、豆アジとキスを天ぷらにしてもらった。木下さんにとっては念願の「釣った魚を食べる」瞬間。さっくりほろほろ、な釣りたてキスの天ぷらをおいしそうに頬張ってご満悦。走って釣った一日の完璧な締めくくりである。「いつも自転車で通り過ぎるスポットで釣りができるなんて意外でした。これからは自転車で走りながら周囲を見る目が変わりそうです(笑) まさか本当に釣った魚を食べることができるなんて思っていなかったので、感動しました」。
興奮気味に「早速旦那さんを誘って行ってみます!」とすっかり釣りの面白さに魅了された感のある木下さん。またひとりサイクリストが、釣りの世界へ足を踏み入れたのだった。これからもよいRIDE&FISHを!
シロギス
北海道南部以南の全国の沿岸部に生息。最大で35cmほどになる。砂底を好み、砂と一緒にゴカイや甲殻類を吸い込むように食べて暮らしている。投げ釣りの一般的なターゲットで、海釣りの入門種として紹介されることも多い。釣り上げた直後の個体は透明感があり愛らしい。古くから日本の食卓を彩ってきた食用魚でもある。
ゆめしま海道を走り釣るためのバイク&ギア
スタイルの数だけ、バイクのセッティングや釣具の運び方のノウハウがある RIDE&FISH。今回はテンポよく釣り場を巡るためにロードバイクで釣り走った。
使い勝手の良いラファ×アピデュラのサドルバッグを選択
左は木下さんの愛車コルナゴC-RS。フロントバッグと大型サドルバッグのセットアップ。右は小俣のスペシャライズド、エートス。前後ラファ×アピデュラのバッグとフレームバッグで釣り道具一式を運ぶ。先日取材したパリ〜ブレスト〜パリで参加者の多くがアピデュラのバッグを使っているのを見て感化されてのチョイスだ。
さらにたまたまふたりともラファ×アピデュラのサドルバッグを使用。大型で容量が多いのが魅力だが、バンジーコードがついているのも使い勝手がいい。木下さんは釣りをするときのサンダルをここに挟み込み、カラビナで落下防止して運ぶ。
今回使用したロッドは、シマノの旅用パックロッドシリーズの〈フリーゲームXT〉。小俣はS76M、木下さんはS610L-Sをそれぞれ使用。ルアーから投げ釣り仕掛けまで幅広く対応してくれるので何が釣れるかわからない釣行時に重宝する。今回はバックパックに入れてライド時に持ち運んだ。
木下さんはフロントバッグに補給食類を収納。ONOMICHI U2 のPOCKET SALTは持ち運びのしやすい塩。隠れたベストセラー商品だという。保水のためのOS-1と、北海道出身の木下さんらしく虫よけには北見のハッカ油を愛用している。
プロフィール
ゲスト/木下彰子さん(左)
しまなみ海道の北の玄関口ONOMICHI U2のパン屋に務めるサイクリスト。かつては南の玄関口である今治に住み、今春から尾道へ居を移し、しまなみ海道を巡り走っている。釣りはこれまでトライしたものの釣果は海毛虫のみ(!)。釣った魚を食べたいとかねてから考えている。
小俣 雄風太(右)
本連載ライター。ツール・ド・フランス取材にも釣り竿を持ち込み、向こうでブラウントラウトとパーチを釣ってご満悦の滞仏となった。続けて取材したパリ〜ブレスト〜パリでは多くの参加者がアピデュラのバッグを装着していることに感化され、今回は自身のアピデュラバッグを装着してみた。
しまなみ海道北の玄関口、RIDE&FISHの起点にも
来年には開業10周年を迎えるしまなみ海道ライドのハブにして顔でもあるONOMICHI U2。国内外のサイクリストが集うホテルだけでなく、レンタルサイクルや好感度な地元特産品がそろうショップ、カフェやバー、今回出演いただいた木下さんが働くパン屋Butti Bakeryなど、ぜひ立ち寄りたい。RIDE&FISHの起点としても◎。ONOMICHI U2に滞在しながら釣りを楽しむのもよいだろう。尾道の市街地も散策が楽しい。地元出身のU2スタッフに尋ねればオススメの場所を教えてくれるはずだ。
ONOMICHI U2
住広島県尾道市西御所町5-11
ONOMICHI U2公式サイト
※この記事はBiCYCLE CLUB[2023年11月号 No.452]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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