BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • Kyoto in Tokyo

STORE

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ

スペイン・アンダルシアの自転車レースがキャンセル⁉ トラクターデモの影響で縮小

2月14日から5日間の日程で開催予定だった、スペインのステージレースであるブエルタ・ア・アンダルシア・ルータ・デル・ソルが、現在EU地域内で発生している農業関係者の「トラクターデモ」の影響を受け、わずか1ステージのレースで今年の開催を終えることになった。
この出来事の経緯と背景について、今回の ブエルタ・ア・アンダルシアで現地取材を行った、スペイン在住の對馬由佳理がレポートする。

農業関係者のトラクターデモとは

この数週間で日本のメディアでも取り上げられているヨーロッパの主要ニュースの1つが、通称「トラクターデモ」と呼ばれる、EUの農業従事者によるデモのニュースだろう。EUが取り入れようとしている環境対策を重視した農業政策に反対するドイツやフランスの農業従事者が、トラクターで主要な幹線道路を封鎖するというデモ活動を始めたのは、2月の初めのことであった。

この動きに影響を受けた他のEU各国の農業関係者も、それぞれの国で同様のデモ活動を開始する。農業国の多いEU諸国といっても、他の産業と比べると、農業従事者の環境や待遇は厳しいことが多い。スペインも例外ではなく、多くの農業従事者がトラクターで各地域の主要幹線道路を封鎖したりするなどの動きが見られた。

スペインでも、農業関係者がトラクターで大都市近郊の道路を封鎖したり、デモを行うなどの動きがあった。しかし、パリやベルリンと比較すると特に大きな衝突等もなく、比較的穏やかなものであったのも事実である。しかし、この「トラクターデモ」の影響をまともに受けてしまったイベントの一つが、このブエルタ・ア・アンダルシアであった。

自転車レースにおけるグアルディアシビルの役割とは

今回ブエルタ・ア・アンダルシアが縮小開催に追い込まれた直接的な原因は、「レースのために働くはずだった、グアルディアシビルの数が確保できない」というものであった。

スペインには日本の警察機関に相当する組織が、ポリシア・ナショナル(Policia Nacional)・ポリシア・ローカル(Policia Local)・グアルディアシビル(Guardia Civil)と3種類ある。自転車レースのオーガナイザーは、レース開催時にこの3つの機関と連携をとりながらレースを運営している。その中でも、 グアルディアシビルは自転車レース時には選手や関係車両をバイクで先導・誘導することが主な業務となる。そのため、自転車関係でのイベントでは、グアルディアシビルの多数の職員が働いている。

しかし、今回のブエルタ・ア・アンダルシアでは、このグアルディアシビルの確保ができないということで規模を大幅に縮小して開催することとなった。

じつはこの同じ時期、アンダルシア地方管内でも前述の「トラクター・デモ」の動きが多発し、グアルディアシビルはそのデモの警備をしていたため、ブエルタ・ア・アンダルシアで働く人数が確保できなくなったのである。

スペイン、そしてアンダルシアならではの背景

コースのすぐ横には、オリーブの畑が広がる。写真撮影:對馬由佳理

とはいえ、今回グアルディアシビルが、前々からスケジュールが決まっていたブエルタ・ア・アンダルシアではなく「トラクター・デモ」の方を優先した背景には、スペインそしてアンダルシア地方の経済的な特徴がある。

スペインはEU諸国の中でもトップクラスの農業国である。2022年に農業が生み出したGDPは約1億1千万ユーロと推定され、EU諸国の中では4番目の額の大きさとなる。また昨年のスペインのGDPのうち、農業が生み出したGDPは全体の約9.2%と算出されている。つまり、2022年のスペインのGDPの1割近くを農業が稼ぎ出していたわけである。また、スペインの農業人口は全体の約10%を占めている。そして何よりも、スペインの輸出額の17.5%が農産物なのである。

加えて今回の舞台となったアンダルシア地方において、農業は重要な産業である。2020年にアンダルシア全体が生み出した付加価値のうち、15%以上がこの地方の農業によるものであった。そして、アンダルシアの労働人口の17%が農業従事者である。

スペイン経済はもちろん、アンダルシアの地域経済において農業の存在感は非常に大きい。この影響力は、アンダルシアの地方政治という舞台で頻繁に見られることは、想像に難くない。このようにアンダルシアの農業従事者の影響力は大きく、政治家にとっても彼らの影響力は見過ごすことができないものなのである。
実際に、ブエルタ・ア・アンダルシア今回縮小開催されたことについて、SNS上では「この状況で自転車レースの優先順位は低くて当たり前。レースが縮小されたことは農業関係者の勝利を意味するものだだ」という書き込みも複数見られた。

一方、グアルディアシビルは、組織としてはスペイン全域に存在するものであるが、その実質的な業務は各地域にかなり密着したものとなる。そのため、彼らの業務には各地方自治体の判断が大きな影響を与える。

ブエルタ・ア・アンダルシアのオーガナイザーは次のように話していた。「こういうとき、権力を持つ人は、リスクを取りたがらないからね」

オーガナイザーへの経済的負担、UCIのレース評価にも影響か

写真撮影: 對馬由佳理

「トラクターデモ」は、農業関係者が自分たちの生活を守るための行動しているといえるだろう。しかし、自転車選手やチーム、レースオーガナイザーやその関係者にとっては、自転車レースが生活の糧である。今回、日程と規模を大幅に縮小して開催したことで、オーガナイザー側の収入が減少し、経済的な負担が大きくなってしまったのはまぎれもない事実である。

また、オーガナイザーからはUCIによる今回のレースの評価について心配する声も聞かれた。今回レースが縮小開催となった理由はオーガナイザー側の責任とはいえないかもしれないが、その主張が受け入れられるかどうかはまだ不明である。またEUの中でも、農業にあまり依存していない国にとってスペインのこのような状況というのは想像できないものであろう。

ブエルタ・ア・アンダルシアのオーガナイザーは、2月14日の第1ステージスタート直前にこの日のレースのキャンセルを決断し、同時に3日間の縮小開催とすることも発表した。しかし、改めて設定された2月16日のアルクアデーテでの個人タイムトライアルのスタート直前に、再度オーガナイザーはコメントを発表する。それは翌日と翌々日に予定していた2ステージを、やはり警備関係の人員不足によりキャンセルすることになったとの内容だった。

レース直前のキャンセルが続いたことから、オーガナイザー側としてはぎりぎりまでレースの開催を模索していたことが想像できる。また、今回唯一のステージとなったアルクアデーテでの個人タイムトライアル(5km)はわずか24時間で現地の準備をすべて行い、なんとかレースを開催することが可能になった。このステージを守るために、オーガナイザーはすべての経験や資源、そしてスタッフを活用せざるをえなかったのである。

じつは、レース会場となったアルクアデーテ周辺やその近辺の大都市であるグラナダやハエンといった場所では、トラクターデモが全く見られなかった。そのことも、関係者に複雑な思いをもたらす原因となったのだろう。

レース後、オーガナイザーのスタッフの表情に笑顔はほとんど見られず、やり場のない疲れと悔しさが感じられた。

ルイス・アンヘル・マテ、笑顔なき地元アンダルシアでのラスト・ラン

レース後、ブエルタ・ア・アンダルシアのオーガナイザーに挨拶をするルイス・アンヘル・マテ(写真右)。写真撮影:對馬由佳理

もう一人、この一連の出来事を複雑な思いで見ていたであろう人物がいる。エウスカルテル・エウスカディのサイクリスト、ルイス・アンヘル・マテである。今年いっぱいで現役引退を表明しているマテは、地元アンダルシアの出身。彼のチームのエウスカルテル・エウスカディは、今年のブエルタ・ア・エスパーニャに招待されているものの、今年のブエルタ・ア・エスパーニャにはアンダルシアが舞台のステージはない。そのため、このブエルタ・ア・アンダルシアがマテが現役選手として地元を走る最後の機会になると考えられていた。

もともと、マテはプロトンの中でもリーダーシップがとれる選手である。プロトン内でレースのボイコットの動きが発生すると、マテが現場で他の選手を一喝し、プロトンをスタートさせる風景は珍しくない。

今回のブエルタ・ア・アンダルシアでもオーガナイザーや関係者と共に、マテが選手団の代表的な立場で対応する姿が見られた。2月14日に最初のレースキャンセルが正式に発表されたときも、その場にマテが駆けつけ、UCIやレーススタッフと共に対応策について話し合う姿が見られた。このときマテが果たした役割について、Cyclistes Professionnels Associés (プロ自転車選手協会)はX(旧Twitter)を通じて感謝を伝えている。

今年のブエルタ・ア・アンダルシア唯一のステージに出走したマテは、ベスト・アンダルシアン・ライダーのジャージを獲得した。しかしその後、レースオーガナイザーと固いハグを交わす彼の表情に、いつもの笑顔はなかった。

地元出身のサイクリストあるだけに、今回の出来事に複雑な背景があること、その一方でやはりマテにとって今回のブエルタ・ア・アンダルシアが本当に大切なレースであったことを新ためて認識させる出来事となった。

SHARE

PROFILE

Bicycle Club編集部

Bicycle Club編集部

ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

Bicycle Club編集部の記事一覧

ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

Bicycle Club編集部の記事一覧

No more pages to load